福岡県筑豊、田川のタクシーおもしろ話、田中有二

色んな人と出会います。人生の参考になればいいですが

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長男の嫁

 炭坑の社宅の跡に建った、五階建ての改良団地では、下から年寄りが入っているので、下の階が空くと、つまり亡くなると、二階から、一階に年寄り予備軍が下りて来る。
 その日も、二階のばあちゃんが、一階に下りて来るので、次男の嫁、三男の嫁が手伝いに来ていた。
 共に六十代で、すでに夫は亡くなり、言わば、血のつながりのない、義理の母親の引越しを手伝っているのである。
 大して大きな荷物や家具もないので、二人で二階から一階へと、荷物を持って何度も往復していた。
 もう一人、長男の嫁がいて、この人の夫もすでに亡くなっている。
 この人は、丁度引越しをしている、真向かいの団地の三階に住んでいるのである。
 「なんばしよっとかねえ、安子さんは」
 「今日が、ばあちゃんの引越しの日って、知っとる筈やがねえ」
 次男と三男の嫁は、そんな事を言い合いながら、うらめしそうに、向かいの団地の三階を見上げていた。
 一緒になって見てみると、風もないのに、カーテンがチラチラと揺れている。いや、風があっても、窓を閉めているので、カーテンが揺れる筈がない。
 どうやら、引越しの進み具合を、こっそりうかがっているようにあった。
 「安子さんが来ん内に、もう終わってしもうたが」
 そうこうしていると、安子さんが、如何にもと言ったモンペ姿で賭けつけて来た。
 「さあ、一丁頑張るか、こんな時こそ、長男の嫁が頑張らんば」
 「あんたがあんまり遅いけん、もう終わってしもうたがね。今まで何ばしよったと?」
 「もっと早ように来ようと思うたばってん、女には、色々やる事が多いんたい」
 「同じ独りモンで、何をする事があるかね」
 よっぽど安子さんの代わりに、
 「カーテンを揺らす用事があるんたい」
 と、言ってやろうかと思った。

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適材適所

 もう何年か前の話である。
 駅から乗せた中年の男性は、
 「〇〇病院に急いでやってくれんね」
 と、言った。
 何でも、山の上にある老人病院に、入院している母親が危篤らしい。
 そんな事情なら、ぶっ飛ばして行くしかない。
 幸い、ネズミ捕りをしそうな場所もないし、きっと間に合わせてやるぞ思った。
 しばらく町中を走って、いよいよ田んぼの中の道に、差しかかろうとしていた時、後方から、救急車のサイレンが聞こえて来たので、
 “これは丁度いい、こいつの後ろに付いて行けば、堂々と飛ばして行けるぞ”
 道路脇に車を停めて待っていると、やっと俺のタクシーを追い越して行ったので、ピタリとその後ろに付けたが、なかなか前に進まなかった。
 救急車なのに、非常に安全運転なのである。
 しまいには、救急車を先頭に、長い車の列が出来てしまった。
 もしかしたら、この救急車も、俺と同じ、山の上の病院に行ってるのかも知れなかった。
 こんな車の後ろに付けていたら、いつになったら病院に着くか、分かったもんじゃない。
 そっちも救急で急いでいるかも知れないが、こっちも急いでいるのである。
 とうとう我慢し切れなくて、救急車を追い越して、先に行ってやってしまった。
 どんな奴が運転しているのか見てみると、若い運転手が、フロントガラスに顔を貼り付けるようにして
ハンドルを握っていた。
 見る見る後方の救急車は、小さくなってしまい、もうサイレンも聞こえなくなっていた。
 病院の玄関にお客さんを降ろして、かなり戻った所で、やっと長い車の列を引き連れた救急車とすれ違った。
 そのすれ違いざま、助手席の男性が、何やらこちらを指差して、わめいているのが印象的だった。
 営業所に戻ると、早速、救急本部から、救急車を追い越して行ったと、俺の車のナンバーを名指しで、苦情の電話がかかってきた。
 そこで、受話器を取って言ってやった。
 「こっちも、死に目に会えるかどうか、急いでるお客さんを乗せてたんや。あんなノロノロ運転なら、助かる者も助からんぞ。救急車の運転をさせるなら、あんな安全運転をする運転手より、元暴走族にさせた方がよっぽどいいぞ」
 そう言ってやると、怒ったのか、ガチャリと電話を切ってしまった。 

若気のいたり

 ある家に、ばあちゃんを迎えに行って、今まさに乗ろうとしていた時、中年の女性の運転するワゴン車が、切なそうに車庫から出て来て、横をすり抜けて走り去った。
 「鬼嫁が出て行きよらす」
 こちらのタクシーは、ばあちゃん言うところの、鬼嫁が運転するワゴン車を、追う形になって走る事になった。
 「同じ方向に行くんなら、ちょっと乗せてくれてもよかりそうなものを」
 結局ワゴン車は、ばあちゃんが降りる病院の前を通リ抜けて行った。
 ワゴン車に乗っていたのは、長男の嫁で、長男が単身赴任しているので、じいちゃんは亡くなったし、今は、小学校高学年の女の子と、三人で暮らしているのである。
 それから四、五日して、朝の十時頃、ばあちゃんを迎えに行くと、ちょっと小ぎれいな格好で出て来た。
 「今日は、芝居が来とるけん、温泉センターに行くたい」
 「ああ、小倉の温泉センターやね?」
 「今日も朝早ようから、孫と出て行きよったけん、『たまには気晴らしに、わしも何処かに連れて行ってくれんかね。油代とめし代位は出してやるたい』って言うたら、『私達は、あんたら年寄りの行く様なとこには行かんたい』言うて、とっとと何処かに行ってしもうたたい」
 「一体何処に行ったんやろうか?」
 「恐らく、ショッピングセンターに買い物やろう、一緒に連れて行ってくれたら、孫に服の一つも買ってやる道は知っとるばい」
 小倉の温泉センターに着くと、
 「遠いけど、電話をしたら、ここまで迎えに来てくれるかね?」
 「いいよ、あんまり仕事もないし、帰る頃に電話してくれたら、又迎えに来るよ」
 そして、夕方になると、ばあちゃんから電話があったので、温泉センターに迎えに行った。
 乗り込むなり、ばあちゃんは憤慨して言った。
 「あのクサレ鬼嫁、あんたらの行く様なとこには行かん、言うてたくせに、ここに来とったたい」
 「そんなら、乗せて帰ってもらえば良かったのに」
 「そう思うて、二人の前を、何べんも行ったり来たりしたけど、二人共知らん顔しとったばい。親も親なら、、子も子たい」
 「三人で住んでるんやから、仲良くせんと。それで、ご飯はどうしよると、一緒に食べよると?」
 「わしは魚が食べたいとに、肉ばっかり出して、わしはライオンやなかばい。『肉よりも、青魚の方が体にいいとばい』と言うたら、『今さら体に気を使おてどうするかね。先は長くないとに』そんな事言うとばい」
 「けしからん嫁やねえ」
 「こないだなんか、体がきつかったけん、部屋で横になってたら、鬼嫁がやって来て、『あんた、寝てばっかりおったら、しまいには寝たきりになるばい。これはあんたの為に言ってやりよるとやけんね。誤解せんでよ』何があんたの為か、ちょっと横になっただけやのに」
 「それで、大人しく起きたんかね?」
 「誰が起きるもんか。あんまり頭にきたけん、はっきり言うてやったたい」 
 そして、二人の間で、こんな会話が交わされたらしい。
 「あんたは恐ろしい女やねえ、あんたがここに嫁に来た時、何と言ったか覚えとるかね?」
 「さあ、何と言ったかねえ、全く覚えてないわ」
 「わしとじいさんの前に三つ指付いて、『いつまでも、お父さんとお母さんを大事にしますから、一緒に住ませて下さい』って、涙を流しながら言ったやないの」
 すると嫁は、大きな口を開けて笑いながら、
 「はははっ、あれ、あれは若気のいたりたい」
 もうばあちゃんは、次の言葉が出なかったらしい。
 
 

見てみろ

 近頃は、温泉好きの外国人も多い。
 ある日、外国人の夫婦と、その二人を接待する若い日本人の男性を、タクシーに乗せて、佐賀の嬉野温泉まで行く事になった。
 外国人のおやじは40歳前後、白人にしては小柄な人で、それに引き換え、奥さんの方は35歳前後、グラマーなムラムラと来そうな体で、車の中にフェロモンをまき散らしていた。
 男二人は、途中で薬局に立ち寄り、車の中に戻って来るなり、まむしドリンクを眺めながら、
 「ジスイズ、ジャパニーズバイアグラ」
 「オーッ、ジャパニーズバイアグラ、サンキュー、サンキュー」
 と、卑猥な笑みを浮かべ、その他は、全て英語で会話をしていたが、中学の頃に英語が得意だった俺には、時折り夫婦で発する、「オオッ、イエッ」以外は、何の事だかさっぱり分からなかった。
 嬉野温泉のホテルに着いて、三人を降ろし、トランクの中の荷物を出して、帰ろうとしていると、そのホテルの支配人らしき人がやって来て、
 「今度来た時に使って下さい」
 と、言って、入浴料無料の招待券をくれたが、
 「今度いつ来るか分からんし、今日使ったらいけんのな?」
 と、聞いてみると、
 「大体この次からなんですが、どちらからお見えですか?」
 と、尋ねてきたので、
 「福岡の山の中」
 と、言ってやると、少し考えて後、
 「そんなに遠くからなら、特別ですが、いいでしょう」
 と、言ってくれたので、早速、温泉に入れてもらう事にした。
 勿論、混浴の大浴場である。と言っても、未だ真っ昼間なので、誰一人入ってなく、まさに貸し切り状態であった。
 そこへ入って来たのは、さっき乗せて来た案内人の若い人である。
 「ああ、運転手さんも入ってたんですか」
 「ああ、折角嬉野温泉に来たんだし、今度いつ来るかも分からんので、入らせてもらってるよ」
 二人で雑談をかわしながら、湯船でくつろいでいた。するとそこで、思わぬ事態が起こった。
 あの外国人夫婦が、スッポンポンで、前も隠しもせずに、入って来たのである。
 さすがに、広い大地で生まれ育ったらしく、おおらかと言うか、当然日本人の夫婦なら、男の方が、
 「こらっ、隠さんかっ」
 と、奥さんを怒鳴り散らし、じっと見つめている者たちには、
 「こらっ、何を見とるんやっ」
 と、文句の一つも言うところである。
 ところが二人共、タオルで隠すどころか、夫の方は、小さな体ながら、大きなバットをこれ見よがしに見せつけていた。
 奥さんに至っては、湯船の淵に寝そべり、足を上下させての体操で挑発する。
 それどころか、湯の中から首だけを出して、じっと見つめる我々に対して、夫の方は、得意気な顔をして、ニコニコと笑っている。
 そしてその目は、
 “どうだ見てみろ、いい体をしているだろう。お前たちは見るだけだが、俺は抱く事が出来るんだ。ざまあみろ”
 と、言っている様にあった。
 
 

家庭内別居

 七十代の夫婦を、総合病院まで乗せて行くと、料金は700円であった。
 「ええっと、700円です」
 と、言うと、夫の方が、
 「お前、360円出せよ。こないだ俺が、10円余計に出しとろうが」
 「たった10円で、男が細かい事言いなんな」
 「こうゆう事は、はっきりとしとかんといかんのや」
 結局、二人のワリカンでタクシー代を払い、面白い夫婦だなあと思っていた。
 後日、その奥さんの方を乗せたので、
 「あんたら、タクシー代をワリカンにするなんて、夫婦と違うんね?」
 「元夫婦やけど、わたしゃ、もうあのオヤジとは別居しとるんたい」
 「別居しとるって、一緒に住んどるやないね?」
 「まあ、家庭内別居と言うのか、世帯は別々たい」
 更に聞いてみると、偶数月に年金が入ると、それぞれ二人の年金を足して二で割り、山分けするらしい。
 「でも、おっさんが死んでも、わたしに入って来る金は、全く今のままたい。遺族年金になって、おっさんの貰ってる半分が入るだけやから」
 結局、元奥さんにすれば、オヤジがいようがいまいが、ずっと同じ生活が続くだけである。
 「じゃあ、家賃なんかはどうしてるんね?」
 「勿論、半分づつ出して、電気代も、水道代も、ガス代も、何から何まで全部半分出したい」
 「部屋なんかはどうしとると?」
 「わたしが南側の六畳を使って、おっさんが北側の六畳を使いよる。それぞれにテレビがあるし、昔みたいにチャンネル争いせんで済むし、気楽なもんばい」
 「風呂はどうしよると?」
 「風呂は、早いモン勝ちたい」
 「じゃあ、食事も別々にしよると?」
 「ああ、炊事場は共同で使うけど、ご飯は別々に、横の四畳半の部屋で食べるたい、飯台の真ん中につい立を立てて」
 つい立を立てるくらいなら、各自が自分の部屋に持ち帰って食べるか、時間をずらして食べればいいものを、さすがは元夫婦、つい立越しに、差し向かいで食べたいのであろう。
 「わたしゃ、魚の煮付けや野菜の煮物をするけど、おっさんは、スーパーで買ってきた、刺身なんかが多いみたいやね」
 「少しおかずを分けてやればいいやん」
 「誰が、あんなクソオヤジに分けてやるか。こないだなんか、おっさんの買ってきたカキフライが、あんまり美味しそうやったけん、おっさんが向こうを向いてるスキに、こっそり一個食べてやったたい」
 「あんたもやるねえ」
 「いいや、それ位してよかたい。クソオヤジ、どうもわたしの牛乳を、こっそり飲みよるごとある。こないだは、冷蔵庫に入れてたケーキが、いつの間にか消えてしもうたし」
 この自称元夫婦、どっちもどっちのようにある。
 

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