福岡県筑豊、田川のタクシーおもしろ話、田中有二

色んな人と出会います。人生の参考になればいいですが

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大家族

 その三十代のスナックのママさんは、午前十時頃に、モーテルから一人で乗った。
 乗り込むなり、携帯電話を取り出して、甘えた声で話し始めた。
 「ねえ、今日は暇なの、今から会えない?・・・・分かった。じゃあいつものとこで」
 ママさんに言われるままに、タクシーを走らせ、指定の場所に行くと、そこには、じいちゃんが待っていた。
 「今、ばあさんが病院に行っておらんけん、都合がよかたい」
 ママさんは、そのじいちゃんにしなだれかかり、行き先は、さっきと同じモーテル。値段がリーズナブルなので、利用しやすいのであろう。もしかしたら、ポイントカードを持ってるのかも知れない。
 又頼まれたので、二時間ほどして、例のモーテルに迎えに行くと、じいちゃんと乗り込んで、さっきの場所まで送りとどけた。
 今度も、携帯電話を取出して、かけ始めた。 
 「もしもし、スーさん、十二時にコンビニで待ってるんだったね。ちょっと急な用事で送れたけど、もう直ぐ着くわ。ごめんなさいね」
 コンビニに着くと、そこには、高級車に乗った初老の紳士が待っていて、ママさんが、笑顔で乗り込むと、車は例のモーテルの方向に走り去って行った。
 そのコンビニは、ママさんが待ち合わせに使う定番の店で、確かこないだは、魚屋のおやじが店の車で待っていたし、その前は、電器店の車が待っていた。
 こんな生活を連日続け、それこそ、あそこの乾く暇がないのでは、と心配である。
 この世知辛い世の中、こうでもしないと、客は逃げて行ってしまうのであろう。
 それにしても、同じモーテルを利用しながら、男同士かち合わないのが不思議な位である。
 もし彼女が死んだりしたら、きっと、大勢の兄弟が参列するに違いない。

雪中行軍

 未だ山の頂には雪が残り、わが町から見える最高峰、英彦山の周辺道路は、チェーン規制のままである。
 先日は、平地でも雪が積もり、辺り一面真っ白となり、雪化粧とはよく言ったもので、どんなゴミもガラクタも、放置自動車さえも白一色に染めてしまう。
 こんな雪の積もった日に思い出すのは、中学生の頃の雪中行軍である。
 寒い中、自然の厳しさに触れさせる為、雪道を歩かせるのだから、今では、児童虐待と言われそうで、やってないのかも知れない。
 こればかりは、予定が立てられない。何月何日に雪中行軍をやる、と決めておいても、もしその日が、カラリと晴れたポカポカ陽気では様にならない。
 雪の積もった日に、突然授業をやめて、全校生徒で雪道を行進するのであるが、勉強が好きな一部の変わり者を除いて、ほとんどの者が大喜びで、例え零下30度の中を歩かされても、勉強するよりもマシと思っていた。
 「みんな、列からはみ出るなよっ」
 と、いくら先生が大声で言っても、トンピンを張った何人かが、調子に乗って畑の中に駆け出し、野つぼに足がズボリとはまり込む者が続出した。
 当時は、畑の至る所に、人間のウンチと小便を溜めた、野つぼ、こえ溜め、こえたんごと呼ばれる、縦横二メートル程のプールみたいなのがあって、そこから汲み上げた肥やしを、二つの桶に入れて、天秤棒で担いで畑に運び、それをひしゃくでまいて、肥料にしたものである。
 その野つぼが、雪によって、畑と一体化しているので、調子に乗ったトンピン者が、はまるのである。
 あれは、中学二年生の時の、雪の日の事である。
 その日は、平地でも10センチ程雪が積もり、絶好の雪中行軍日和であった。
 同級生に、S君と言うのがいて、悔しいけれど、背が高くてスポーツ万能、しかも、頭が良くてイケメン、モテない筈がなかった。
 同級生の女子はおろか、一年生、三年生にもファンがいて、今なら、両手に持ちきれない程、バレンタインチョコを貰っていただろう。
 女子にはモテまくっても、男子には、やっかみもあって敵が多かった。自分の好きな女子が、S君が好きだと風の便りに聞けば、S君が好きになれる筈がない。
 その日、雪中行軍をしている時に、Iさんと言う三年生が、S君に言った。
 「お前、空中回転が出来るらしいが、体育館の板の上やから出来るんやろう。さすがに雪の上では出来まい」
 と、挑発した。
 S君と言えば、地上回転はおろか、空中回転、バク転、側転、お手の物の万能選手である。
 「いや、僕は、どんな所でも出来るばい」
 「そんなら、して見せてみろ」
 ここは、全校生徒の前で、いい格好が出来る絶好の舞台で、又女子のファンを増やそうと、S君は応じた。
 すると、Iさんは、雪の上に棒で一本の線を引き、こう言った。
 「じゃあ、向こうから走って来て、この線から空中回転をしてみろ」
 S君は、少し下がってから、勢いをつけて走って来て、I君の引いた線で踏み切り、鮮やかに空中で一回転してから、野つぼの中に沈んでいった。
 S君は、何が起こったのか分からない様な顔をして、野つぼから這い上がって来たが、全身クソまみれで、一同大爆笑である。
 先生たちでさえ、必死に笑いをこらえていたが、もうヤケクソで大笑いである。
 クソまみれのS君、半べそをかきながら走り去り、恐らく、家に帰ったのであろう。
 この一件によって、S君のファンが、半減したのは言うまでもない。

化け物

 とある昼下がり、一人暮らしのばあちゃんを、スーパーに迎えに行くと、スナック菓子がギッシリ詰まった、大きな袋を二つも抱えて乗って来た。
 「おばちゃん、ようお菓子を食べるんやねえ」
 「いいや、これは、わしが食べるんと違うんたい」
 「孫でも遊びに来るんかね?」
 「いいや、うちの奥におるんたい」
 「何が?」
 「化け物が」
 「どんな化け物がおるんかね?」
 「もう二十六にもなる、なりばっかり大きな化け物たい」
 「孫かね?」
 「そうたい」
 「そんな孫、一回も見た事ないがねえ」
 「もう何年も、家の奥に引きこもったままたい。そのくせ、めしだけは人一倍食らって、家の事は何一つしよらんで、朝から晩までゲームばっかりしよるたい」
 聞けば、ばあちゃんの娘が、都会の方で離婚をして、孫を連れて帰って来たものの、直ぐに孫をおいたまま、何処かに行ってしまったらしい。
 「困った娘に、困った孫たい」
 「そんな奴に、めしを食わせるけん、いかんとたい。放っておいたら、餓死しとうはないけん、何とか食べ物を求めて、這い出して来よるたい。そうして自立させんと、孫の為にもならんばい。今はいいけど、あんたがおらんくなったらどうするね」
 「わしも、『ばあちゃんがおらんくなったらどうするね』って言うたら、『そん時は、そん時たい』って言いよる」
 そこで、その孫を、日の当たる場所に引き出すべく、行動に移った。
 丁度、製鉄所の下請けに入っている友人が、忙しいので人手が欲しい、と常々言っていたので、その孫を紹介してやった。
 朝七時頃に、車で迎えに来て、北九州の製鉄所に入り、可成りの重労働をして、家に帰り着くのは七時過ぎ、過酷と言えば過酷な仕事である。
 しかし、人間とは分からないもので、その翌日から、毎日一日も欠かさず通うようになった。それも仕事場ではなく、近くのマッサージ師の元に。
 製鉄所に行ったのは、たったの一日だけで、翌朝、友人が迎えに行っても、「体中が痛い、全く動けない」と言って、布団から出て来なかったらしい。
 「あいつ、ガタイがいいけん、こうゆう仕事には向いてるがなあ。あんまり動きは早くないけど、結構言うた通りの事はやりよったし」
 いくら若いとは言え、しばらく体を動かしてないから、なまってしまっているのだろう。
 それにしても、よく一日も持ったものである。やれば出来るのだから、後は、本人のやる気次第であろう。
 「いつになるか分からんけど、又その時は頼むばい」
 「ああ、よかたい」
 一日も早く、ガタイのいい男が、やる気になるのを願うばかりである。

任侠道

 先日、侠客のNさんが、あの世に旅立った。
 我々が子供の頃に、N善組とN原組が抗争している時、どちらの組に属していたか知らないが、白さやの日本刀を、佐々木小次郎みたいに背中に担いで、ラビットと言うスクーターに乗って走り、その後を、ジープに乗った警察が追いかけていたのを、今でも鮮明に覚えている。
 彼みたいな人間を、必要悪とでも言うのか、変な虫の付いた娘を持つ親が、いくらかのお金を出して、男を追っ払って貰ったり、仕事をしたのに、賃金を払って貰えなかった者や、お金を貸したのに、戻して貰えなかった者が、相手を脅して取り立てて貰ったりしていた。
 それも、脅しの効く顔があったからこそだが、最近は、只のヨボヨボのじいさんで、当時の面影すらなかった。
 Nさんとの思い出と言えば、中学三年生の卒業式も間近の頃の、幻の襲撃事件がある。
 同級生のZ君と言う、学年で一番喧嘩が強くて一番悪いのが、学校の便所でタバコを吸っていたのを、丁先生に見つかって、ぶん殴られたのに、無謀にも向かっていったばっかりに、まるで別人みたいになるまで、顔をボコボコに殴られてしまった。
 いくら定年間近のおじさんとは言え、柔道と空手の段持ちで、本人はひた隠しにしていたが、噂によると、戦時中には、憲兵隊に所属していたとかで、一介の中学生が勝てる筈もない。
 「あの野郎に仕返しをせんで、都会には出て行けんぞ。みんなでやっちゃろうやないかっ」
 と、集団就職で出て行くZ君が、おたふくみたいな顔で言い、
 「そうや、そうや、みんなでやっちゃろう」
 と、話が盛り上がり、今日、帰り道で待ち伏せしよう、と言う事に決まってしまった。
 それもその筈、このクラスの男子で、丁先生に殴られた事のない者は、一人もいなかったからだ。
 委員長クラスの真面目な生徒でも、クラスで誰かがいじめられたり、殴られたりすると、どうして止めなかったのか、どうして知らん顔をしていたのかと、全体責任で、全員がビンタを見舞われたものだ。
 そして、その日の夕方、十人ほどが、木刀を片手に集まり、学校の近くの、たぬき谷と言う薄暗い谷で、丁先生がやって来るのを待っていた。
 「やっちゃろう」と勇んで来たものの、全員が、いらん事を言わねば良かった、と後悔をし始め、誰かが、「やっぱりやめようや」と言い出すの待っていたようにある。
 今、丁先生が通リかかっても、
 「先生、今お帰りですか」
 と、愛想笑いでもして言いそうである。
 そんな時である、Nさんが、木刀を肩に担いで通リかかった。そして、みんなを見つけるなり言った。
 「おお、丁度良かった。お前らにちょっと頼みがあるんや」
 恐いNさんの頼みである、誰もいやとは言えない。
 「噂によると、中学の丁先生を襲おと言う、けしからん奴がおるらしいんや。俺一人じゃ心細いけん、お前らも加勢をしてくれや」
 一同は仕方なく、Nさんに連れられて、中学校の門をくぐり、職員室へと向かった。
 「俺に、義理と人情の大切さを教えてくれたのは、あの先生や。俺の命に代えても守ってやるぞ。お前らも頼んだぞ」
 外に出て来た丁先生は、武装した一同を見て、ちょっとびっくりした様にあった。
 「何やお前ら、それにNまで来て、一体何事や?」
 それには、Nさんが答えた。
 「ちょっと不穏な噂を耳にしやしたけん、駆けつけたんですたい」
 まるで、時代劇のやくざ映画である。
 「いいか、敵は何人おるか、どこから攻めて来るか分からんからな。みんなで先生のグルリを取り囲め、油断するなよ」
 結局、丁先生を襲う筈が、護衛をして、家まで送る事になってしまった。
 今にして思えば、Nさんは、我々が張本人であるのを、知っていたのかも知れない。誰かのチクリによって。 

お泊り

 昼下がり、こじんまりとした家に迎えに行くと、その家の、ちょっと口やかましいばあちゃんが、大きなバッグを持って出て来た。
 何処かに旅行に行くといった感じである。
 ドアを開けると、ばあちゃんは乗りかけたが、
 「ちょっと待って、明日の朝に飲む血圧の薬を忘れとる」
 と、言い残して、家の中に入って行った。
 戻って来て乗り込むなり、
 「薬は持ったし、パジャマは入れたし、もう忘れ物はないね」
 なんて言うから、よっぽ遠くに行くのかと思うと、ここから10分程の所の、娘の一家が住んでいる家に行くらしい。
 何でも今日は、家の新築祝いと、8歳になる孫娘の誕生祝いを、一緒にやるらしく、ウキウキとしていて、喜びが体中に満ちあふれていた。
 「旦那の方の両親も来るらしいから、きっと賑わうよ」
 と、嬉しそうに、新興住宅街にある、真新しい家に入って行った。
 そして、夜の9時頃に、娘夫婦の家がタクシーを呼んだので、新築祝いに訪れたお客さんでも帰るのだろう、と迎えに行くと、昼過ぎに乗せて来たばあちゃんが、大きなバッグを持って乗って来た。
 「あれっ、あんた、泊まるんやなかったと?」
 すると、ばあちゃんは、ブスッとふくれっ面をして言った。
 「泊まれと言うてくれんやった」
 「泊まる積もりで用意をして来た、と言ってやれば良かったのに」
 「そう言う前に、娘が、『今日は、うちの人が飲んでて送ってやれんから、タクシーを呼んでやるわ』と電話をかけてしもうたんよ。このいでたちを見れば、言わんでも、泊まりに来たって、分かりそうなもんやが」
 「当然、向こうの両親も帰ったんやろう?」
 「いいや、向こうの親は泊まるらしいたい」
 「そりゃあ仕方ないよ、遠くから来てるんやろうから」
 「何が遠くなもんか、家は直ぐそこたい」
 折角、可愛い孫娘と添い寝する筈が、口やかましいのが災いして、態よく追い返されたようである。


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