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アメリカの俳優に、西部劇の「荒野の七人」や、戦争映画の「大脱走」に出演した、チャールズ、ブロンソンと言う男臭い俳優がいる。
何と言っても、彼を一躍有名にしたのは、男性用香水マンダムのテレビコマーシャルであろう。
上半身裸の彼が、パッパッと体に香水をふり、アゴをさすりながら、
「ウーン、マンダム」
と、渋い低音でつぶやくCMを、我々の年代の者なら覚えている筈である。
そんなところから、マンダムと言えば、男臭い男の代名詞であった。
ところが、近くの小さな一軒家に、運転手全員から、マンダムと呼ばれている、一人暮らしのじいちゃんがいた。
元は公務員をしていたとかで、年金で悠悠自適の暮らしをしていた。
チャールズ、ブロンソンに似ても似つかぬ、頭のハゲたじいちゃんが、何故マンダムと呼ばれているかと言うと、一年中、黒いハーフコートに、灰色の背広なので、辺りに異臭を放ち、それこそ男の香りマンダムである。
上着がそんな風だから、下着はおして知るべしで、アンモニア臭を含んだ強烈な臭いで、真っ暗な闇夜の晩でも、風向きによっては、100メートル先から、やって来るのが分かる程の異臭である。
そのじいちゃんは、いつも全財産が入っていそうなボロボロのカバンを手に、営業所にやって来ては、よくタクシーを利用してくれるが、あちこち買い物で乗り回し、タクシー料金を上げてくれるので、とってもいいお客さんなのである。この臭いさえ我慢出来れば。
ある日、乗せると、とんでもない事を言い出した。
「嬉野温泉の〇〇ホテルにやってくんない」
〇〇ホテルと言えば、テレビコマーシャルもやるほどの一流ホテルである。
「行ってもいいけど、大丈夫な?」
「何が?」
「何がって、そのう」
「心配せんでもよか、前に泊まった事があるけん」
前と言っても、ずーと昔の事だろうから、行っても無駄と思いつつも、いい仕事なので、二時間ばかり臭いを我慢して、佐賀の嬉野温泉、〇〇ホテルの玄関に車をつけた。
じいちゃんは、例のカバンを手に、フロントへと向かったが、
“100パーセントつまみ出されるな。追い返されたら、他の旅館にでも連れて行かねば”
と、思いながら、しばらく様子を見ていたが、フロント係の男性は、顔をそむけながらも、にこやかに応対し、女性従業員も、顔をそむけながらも、にこやかにカバンを持って、じいちゃんを奥へと案内して行った。
さすがに一流ホテル、身なりで人を見ないのであろう。
帰りも、嬉野のタクシーに乗って帰り、豪勢なものである。
それからしばらくして、マンダムじいちゃんの姿を、全く見なくなってしまった。
「どうしたんやろうか、死んだんやろうか」
と、みんなが心配していたが、何でも、近所の人の話によると、少し痴呆が出ていたらしく、自炊していてボヤを出したので、これは危ないと、近所の人や、市によって、半強制的に何処かの施設に入れられたらしい。
これで、マンダムじいちゃんも、施設で小ぎれいな格好をしている事だろう。
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