|
その昔には、色んな運転手がいた。
先ずMと言う六十代の運転手は、お客さんのくれるチップの事で、必ずと言っていいほどトラブルを起こしていた。
正直と言うのか、金に美しいと言うのか、とに角変わり者だった。
もし、お客のばあちゃんが、
「お釣りはいいよ」
と、言って、降りて行こうとしようものなら、
「あんた、このお釣りを持って行ったら、又今度乗るときの足しになるやろう」
と、受け取りを拒否して、面食らったばあちゃんに向かい、説教すらするのである。
「少ない年金で暮らしよるとに、お金は大事にせんといかんばい」
ところが、お客はそんなばあちゃんばかりではない、ギャンブルで儲けて、一杯飲んで、気が大きくなったお客もいる。
「おい、釣りは取っとけ」
我々なら、気持ちよく受け取って、おせじの一つも言ってやるが、M運転手はそうはいかない。
「俺はいらんばい」
「いいから、取っておけ」
「いいや、俺はそこまで不自由はしてないけん、釣りを持って行きない」
「やると言いよるとに、黙って受け取れ」
「いらん、俺は乞食と違うぞ」
「男がいっぺん出した物を、おめおめと引っ込められるかっ」
と、言い残して去って行く男に向かい、釣り銭を投げつけて、仕舞いには、殴り合いの喧嘩になってしまう。
そのM運転手とは対照的に、Hと言う、やっぱり六十代の運転手は、金に汚いと言うか、欲が深いと言うか、お客のばあちゃんが、お釣りの十円を貰おうとして、手を出して待っているのに、睨みつけて言い放った言葉が、
「何だ、その手は?」
当然クレームが来て、そのセリフは、いまだに語り草となっている。
そのH運転手に関する、極め付きの出来事は、葬式をやっている農家に、タクシー5台で迎えに行った日に起こった。
H運転手のタクシーは、少しでも早く行って、次の仕事を早くしようと、一番乗りで農家に着いた。
最初に乗り込んだのは坊さんで、残りの4台は、遺族を乗せて火葬場に行くようにあった。
H運転手のタクシーが、坊さんを乗せて走り出した時に、遺族の若い男の人が、火葬場に行くので厄払いの意味も込めて、待機している4台の運転手に、寸志の入った封筒を渡してくれた。
その光景を、H運転手は、バックミラーで見ていたのであろう、あろうことか、その日の内に、悲しみに暮れる農家に,
「俺は、寸志を貰ってないが」
と、わざわざ催促に行き、しっかり受け取って来たらしい。
当然大問題となり、会社に大目玉を食らったが、常識がないだけに、平然としていた。
どちらもどちらだが、この二人を足して二で割れば、丁度いい人間が出来るかも知れない。
|