福岡県筑豊、田川のタクシーおもしろ話、田中有二

色んな人と出会います。人生の参考になればいいですが

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一番恐ろしいもの

 我々の中学生の頃には、今なら直ぐに免職になるような、恐ろしい先生が何人もいた。
 木刀で尻を叩く先生、グーで顔を殴って前歯を折る先生、一本背負いで思い切り床に叩きつける先生、まあ、兵隊上がりが多かっただけに、仕方のない事だった。
 中でも、技術を教えていたI先生は、教壇に置いたフラスコに入れた焼酎を、チビチビとやりながら授業を行っていた。
 そのI先生の口癖は、
 「人間は、平らじゃつまらん、突起になれよ。突起やぞ、勃起じゃねえぞ」
 つまり、飛び抜けた存在になれ、と言う事である。
 「板前でも、大工でも、一番になれ。泥棒になるにしても、こそ泥はいかんぞ、ねずみ小僧みたいに、大金持ちから大金を奪って、世間をあっと言わせてやれ」
 成る程とみんなが頷くと、更に続けて、一人の生徒に向かい、
 「おい、〇〇、お前、将来の希望は、ヤクザと書いてたが、なるならチンピラはいかんぞ、チンピラは、親分、いや大親分になってやれよ」
 そして、〇〇君は、I先生の教えを守って、立派なヤクザの親分になった。
 今は現役を引いているが、まだまだ若い者には負けてなく、やっぱり血の気が多い。
 ある日、数人で飲む機会があったが、その時、元親分に聞いてみた。
 「あの世界におったんやから、今でも恐いものはないやろう?」
 すると、意外な答えが返って来た。
 「わしらでも、恐ろしいものはあるわいな」
 案外豪傑が、小さな虫を恐がったりするので、
 「ゴキブリかクモ?」
 「いや、警察やろう?」
 「いいや、わしらの世界で、一番恐ろしいのは、シロウト、一般人や」 
 「一般人て、俺たちみたいな?」
 「そうや、ヤクザなんて案外意気地ないもので、勝てんと分かったら、とっとと逃げて行ってしまいよるけど、シロウトは恐ろしいでえ」
 「どんな風に?」
 「大事なもの、家族なんかに危害が及ぶとなったら、死にもの狂いで向かって来よる。家族を守るためには、命をかけて来るぞ。あんな恐ろしいものはないぞ」
 元親分の言う言葉だけに、実感がこもっている。

サドルマン

 我が町にも大学があるが、福祉系の大学なので、女の子の方が断然多い。
 したがって、女子大生専門のアパートやマンションが、あちこちに点在している。
 そんなアパートの一つから呼ばれたので、迎えに行くと、可愛い女子大生が一人、途方に暮れた様な顔で立っていた。
 女子大生が乗るなんて事は滅多にないので、
 「どうしたと?」
 と、聞くと、
 「あのう、自転車が」
 と、モジモジしながら言うので、
 「パンクしたんね?」
 と、車から降りて、トランクに乗せて、自転車屋まで運んでやろうとしたが、
 「いいえ、違うんですよ」
 と、言うから、自転車を見てみると、何と、サドルだけが盗まれている。
 自転車はちゃんとロックして、更に、駐輪場の柱に鎖でつないでいても、サドルを持って行くのは簡単である。
 他にも何台も自転車は停まっているのに、この子のサドルだけが取られている。
 どうやら持って行った奴は、可愛いこの子の自転車を狙っていたのであろう。
 大学まで乗せて行く車中で、
 「恐らく犯人は、あんたに気があって、持っていったんやろう」
 と、言ってやりたかったが、気味悪がってはいけないので、
 「せこい奴もおるねえ、恐らく、同じ型の自転車に乗っていて、サドルが古くなったんで、盗んで行ったんやろう。サドルくらい、自分で買えばいいのになあ」
 と、だけ言っておいた。
 実は、うちの前の団地に、評判の可愛い女子高生がいたが、その子のサドルも盗まれた事がある。
 駐輪場には、おっさんの新しい自転車や、ママチャリが何台もあったのに、それには目もくれず、その子のサドルだけを持って行くとこをみれば、営利目的でない事は明らかである。
 これは想像だが、今頃サドルマンは、可愛い女子大生の顔を思い浮かべながら、サドルに頬ずりでもしているのであろう。
 朝だったから良かったものの、男にせよ、女にせよ、知らずに勢いよく飛び乗っていたら、大変な事になるところである。

まだらボケ

 ゴールデンウィーク最終日の今日、炭坑の改良団地に住むばあちゃんが、タクシーを呼んだが、行く前にちょっと嫌な予感がした。
 この時期、祭日であるのをカン違いして、「病院にやってくれ」と言う老人が多いからである。
 その人も、病院通い以外乗ったことがなく、もしかしたら、と思ったものの、年の割りにはしっかりした人だから、行ってみることにした。
 団地の前に近付くと、喪服を着たばあちゃんが見えたので、
 “ははん、何処か葬式か法事に行くんだな”
 と、安心して乗せると、行き先は、案の定、内科医院だった。
 「オバちゃん、今日は祭日で、どこの病院も休んどるよ」
 「いいや、そぎゃんこつはなか」
 「行っても無駄たい、開いてないんやから」
 「いいや、他は休んでても、あそこは開いとるたい」
 「行ってやってもいいけど、閉まってても知らんばい」
 こちらとしては、空で帰るよりも、往復出来るからいいようなものの、もうしっかりと現実を見せてやるしかない。
 内科医院の前に着いて、明かりが消え、駐車場に張られた鎖を見て、やっと納得したようにあった。
 「ほら、休みやろうがね」
 「一体何の祝日かね?」
 「さあ、何か知らんけど、何かの振り替え休日やろう」
 「全く病人には迷惑な話や」
 もう帰るしかないので、さっき乗せた団地まで戻って、ドアーを開けたが、一向に降りようとはしなかった。
 「オバちゃん、着いたばい」
 と、うながすと、ばあちゃんは、グルリを見渡してから、妙な事を言い出した。
 「ここは、わしの家じゃなか」
 「家じゃなかって、さっきここから乗せたばい」
 「わしの家はこんなんじゃなか、四軒長屋の社宅たい」
 どうやら、ここに移って来る前の、炭坑の社宅の事を言っているらしい。
 とは言っても、もうこちらに越して来て、十年以上になるし、少し痴呆が出て来たのかも知れない。
 まさか、引きずり降ろす訳にもいかないし、車の脇で思案に暮れていると、知り合いのばあちゃんが来たので、訳を話すと、
 「ばあちゃん、又まだらボケが出たみたいやね」
 と、言ってから、車の後部座席に顔を突っ込んで、
 「ばあちゃん、早く降りんかね。運転手さんが困りよるがね」
 「いいや、ここはわしの家やなかけん、家に連れて帰ってもらわんと」
 「あんた、私らと一緒に、社宅からここに越して来たやないね。あんたの家はこの団地たい」
 「ほんとかね?」
 「私が言うんやから、間違いなか」
 「そうやねえ、あんたが言うんなら、間違いないかも知れんねえ」
 と、やっと、料金を払って降りてくれた。
 「ばあちゃん、今日は、そんな格好をして、何処に行ったとかね?」
 「うん、今日は、姉さんの法事で田舎に行ってた」
 やっぱり、何処かおかしい、知り合いのばあちゃんに聞くと、今頃の時期になると、ちょくちょくこんな状態になるのを、まだらボケと言うらしい。
 でも、そんな人を一人で住ませていて、大丈夫なのだろうかと、少し心配になってきた。
 
 
 

赤いワンピースの女

 数日前の夜の十時頃である、三人を運転手が、暇を持て余して待機していた。
 すると、車が急発進をして、猛スピードで走り去った直後に、赤いワンピースの女性が、営業所の中に走り込んできた。
 体は恐怖でガタガタと震え、両手にはこれまた赤いハイヒールを持っている。
 「怖かったわ。今そこで、若い男に、車の中に引っ張り込まれそうになったわ」
 それは、スナック『オバキュー』のママさんで、赤いミニのワンピースに、黒の網タイツ、夜中にそんな挑発する様な格好で歩く方にも責任がある。
 「こんな時間に、そんな格好で歩く方も悪いばい」
 「もう怖くて歩いて帰れないわ」
 と、言うので、家は直ぐそこだが、次の順番の運転手が送って行った。
 このゴールデンウィークにも、出張でこの町に来ている人もいて、ホテルから乗せた若い二人は、退屈しのぎに飲み屋街にやってくれと言うから、
 「ゴールデンウィークで、何処も開いてないかも知れんよ」
 と、教えてやったが、
 「とに角やって下さい」
 と、言うので、飲み屋街の通リに入ってみたが、案の定、殆んど全部と言っていい程の店が休んでいたのに、ただ一軒だけ灯かりのついている店があった。スナック『オバキュー』である。
 店の前に車を付けると、二人は、
 「ここだけしか開いてないみたいですし、もし客が多かったら、このまま帰りますから、ちょっと待ってて下さい」
 と、言い残して、中に入って行ったので、少し待っていると、二人は、まるで弾き出されるように出て来て、車の中に飛び乗り、
 「急いで出して下さい」
 と、うながすので、急発進して走り出すと、二人は、うろたえた口調で
 「びっくりしたなあ」
 「あれは化け物屋敷や」
 と、言って後、
 「運転手さん、ここには、あんな店しかないんですか?」
 聞けば、二人が店に入っても、誰の姿も見えないので、
 「こんばんわ」
 と、声をかけると、
 「いらっしゃい」
 と、真っ白けのお化けが、カウンターの中から立ち上がったと言う。
 顔は真っ白に塗って、目の周りを黒く書き、まさしく、その店の名前の通リ、オバキューそのものである。
 しかも、自称七十を越えているので、立っているのがつらいのか、いつも客待ちの時には、カウンターの中に敷いている座布団に座っているらしい。 
 ところが、他の人に聞くと、生まれたのは関東大震災の年らしいから、八十はゆうに越えているのだろう。
 どうやら、数日前に営業所に逃げ込んで来たのも、長い金髪のオバキューママがびっくりした以上に、車の若者がびっくりして逃げたのが真相だろう。

対照的な二人

 その昔には、色んな運転手がいた。
 先ずMと言う六十代の運転手は、お客さんのくれるチップの事で、必ずと言っていいほどトラブルを起こしていた。
 正直と言うのか、金に美しいと言うのか、とに角変わり者だった。
 もし、お客のばあちゃんが、
 「お釣りはいいよ」
 と、言って、降りて行こうとしようものなら、
 「あんた、このお釣りを持って行ったら、又今度乗るときの足しになるやろう」
 と、受け取りを拒否して、面食らったばあちゃんに向かい、説教すらするのである。
 「少ない年金で暮らしよるとに、お金は大事にせんといかんばい」
 ところが、お客はそんなばあちゃんばかりではない、ギャンブルで儲けて、一杯飲んで、気が大きくなったお客もいる。
 「おい、釣りは取っとけ」
 我々なら、気持ちよく受け取って、おせじの一つも言ってやるが、M運転手はそうはいかない。
 「俺はいらんばい」
 「いいから、取っておけ」
 「いいや、俺はそこまで不自由はしてないけん、釣りを持って行きない」
 「やると言いよるとに、黙って受け取れ」
 「いらん、俺は乞食と違うぞ」
 「男がいっぺん出した物を、おめおめと引っ込められるかっ」
 と、言い残して去って行く男に向かい、釣り銭を投げつけて、仕舞いには、殴り合いの喧嘩になってしまう。
 そのM運転手とは対照的に、Hと言う、やっぱり六十代の運転手は、金に汚いと言うか、欲が深いと言うか、お客のばあちゃんが、お釣りの十円を貰おうとして、手を出して待っているのに、睨みつけて言い放った言葉が、
 「何だ、その手は?」
 当然クレームが来て、そのセリフは、いまだに語り草となっている。
 そのH運転手に関する、極め付きの出来事は、葬式をやっている農家に、タクシー5台で迎えに行った日に起こった。
 H運転手のタクシーは、少しでも早く行って、次の仕事を早くしようと、一番乗りで農家に着いた。
 最初に乗り込んだのは坊さんで、残りの4台は、遺族を乗せて火葬場に行くようにあった。
 H運転手のタクシーが、坊さんを乗せて走り出した時に、遺族の若い男の人が、火葬場に行くので厄払いの意味も込めて、待機している4台の運転手に、寸志の入った封筒を渡してくれた。
 その光景を、H運転手は、バックミラーで見ていたのであろう、あろうことか、その日の内に、悲しみに暮れる農家に,
  「俺は、寸志を貰ってないが」
 と、わざわざ催促に行き、しっかり受け取って来たらしい。
 当然大問題となり、会社に大目玉を食らったが、常識がないだけに、平然としていた。
 どちらもどちらだが、この二人を足して二で割れば、丁度いい人間が出来るかも知れない。


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