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ばあちゃん三人を乗せて、大きな洋館建ての屋敷の前にさしかかると、後ろの席のばあちゃん二人が、喋り出した。
「この屋敷、住んでた人達が夜逃げして、もぬけのカラらしいばい」
大体、ばあちゃん連中の話と言えば、あそこの家が大儲けしたとか、幸せになったとか、あんまりいい話はしない、どちらかと言えば、他人の不幸を話したがる。
「あのピアノが上手やった二人の娘、一体、今頃何処でどうしよるとやろうね。可哀そうに」
「ガソリンスタンドで大そう儲けて、そこでやめときゃいいものを、欲を出して、不動産やらあれこれ手を出すけん、こんな事になるとたい」
「わしらみたいな貧乏が一番よか」
「全くたい、は、は、は、は」
すると、助手席に座ったばあちゃんが、後ろを振り返って、
「あんたら、人の不幸を嬉しそうに喋るもんじゃないよ」
と、ピシャリと釘を刺した。
出来た人だなあ、と感心していると、こんな事を言い出した。
「田中さんとこの安子ちゃん、ダンナと別れて帰って来たらしいねえ。顔はべっぴんやし、気立てが良くて優しいし、この辺じゃ、あの子が一番幸せになると思ってたのに、可哀そうに」
と、言っていながら、かすかに顔は笑っていた。
「ところがねえ、ダンナが謝りに来たとかで、元のさやに収まり、一緒に帰ったらしいばい」
「もう帰ったと、そりゃあ良かった。めでたし、めでたし」
と、言ってはいるものの、さも残念そうなのが顔に出ていた。
人の不幸は蜜の味、とはよく言ったもので、火事の現場にしても、関係のない者たちは、炎が大きければ大きいほど、面白がって見ている。
交通事故にしても、例えそれが死亡事故であったとしても、涙を流している者なんていやしない。このハプニングの現場に居合わせた事を誇りに思い、興奮気味に話している。
「あの乗用車の方が、センターラインを越えて、大型トラックと正面衝突たい。もう乗用車の運転手は、ピクリとも動かんやったけん、即死やろうね」
誰も彼も、自分に関係がなければ、冷たいものである。
又、後ろの二人が喋り出した。
「あの山田のしゃべくりババアには、何にも言われんばい」
「ああ、十の事を百くらい大きく言うけんねえ」
「こないだあのババアに」
と、そこまで言いかけたのを、さえぎるようにして、助手席のばあさんが言った。
「あんたら、人の悪口を言うのは、空に向かってツバを吐いてるようなもので、やがて自分にかかって来るとばい」
なかなかいい事を言うなあ、と又感心していたのに、その舌の根も乾かない内に、外を歩く一人のばあちゃんを見つけて、
「あっ、根性の悪い鬼ババアが歩きよる。見てみない、あれは人間の顔じゃない、まるでピカソの絵たい。顔がゆがんでる奴は、心もゆがんどる」
そのばあさんの顔を見て、あんたに人の事が言えるか、とつくづくと思った。
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