福岡県筑豊、田川のタクシーおもしろ話、田中有二

色んな人と出会います。人生の参考になればいいですが

全体表示

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

蜜の味

 ばあちゃん三人を乗せて、大きな洋館建ての屋敷の前にさしかかると、後ろの席のばあちゃん二人が、喋り出した。
 「この屋敷、住んでた人達が夜逃げして、もぬけのカラらしいばい」
 大体、ばあちゃん連中の話と言えば、あそこの家が大儲けしたとか、幸せになったとか、あんまりいい話はしない、どちらかと言えば、他人の不幸を話したがる。
 「あのピアノが上手やった二人の娘、一体、今頃何処でどうしよるとやろうね。可哀そうに」
 「ガソリンスタンドで大そう儲けて、そこでやめときゃいいものを、欲を出して、不動産やらあれこれ手を出すけん、こんな事になるとたい」
 「わしらみたいな貧乏が一番よか」
 「全くたい、は、は、は、は」
 すると、助手席に座ったばあちゃんが、後ろを振り返って、
 「あんたら、人の不幸を嬉しそうに喋るもんじゃないよ」
 と、ピシャリと釘を刺した。
 出来た人だなあ、と感心していると、こんな事を言い出した。
 「田中さんとこの安子ちゃん、ダンナと別れて帰って来たらしいねえ。顔はべっぴんやし、気立てが良くて優しいし、この辺じゃ、あの子が一番幸せになると思ってたのに、可哀そうに」
 と、言っていながら、かすかに顔は笑っていた。
 「ところがねえ、ダンナが謝りに来たとかで、元のさやに収まり、一緒に帰ったらしいばい」
 「もう帰ったと、そりゃあ良かった。めでたし、めでたし」
 と、言ってはいるものの、さも残念そうなのが顔に出ていた。
 人の不幸は蜜の味、とはよく言ったもので、火事の現場にしても、関係のない者たちは、炎が大きければ大きいほど、面白がって見ている。
 交通事故にしても、例えそれが死亡事故であったとしても、涙を流している者なんていやしない。このハプニングの現場に居合わせた事を誇りに思い、興奮気味に話している。
 「あの乗用車の方が、センターラインを越えて、大型トラックと正面衝突たい。もう乗用車の運転手は、ピクリとも動かんやったけん、即死やろうね」
 誰も彼も、自分に関係がなければ、冷たいものである。
 又、後ろの二人が喋り出した。
 「あの山田のしゃべくりババアには、何にも言われんばい」
 「ああ、十の事を百くらい大きく言うけんねえ」
 「こないだあのババアに」
 と、そこまで言いかけたのを、さえぎるようにして、助手席のばあさんが言った。
 「あんたら、人の悪口を言うのは、空に向かってツバを吐いてるようなもので、やがて自分にかかって来るとばい」
 なかなかいい事を言うなあ、と又感心していたのに、その舌の根も乾かない内に、外を歩く一人のばあちゃんを見つけて、
 「あっ、根性の悪い鬼ババアが歩きよる。見てみない、あれは人間の顔じゃない、まるでピカソの絵たい。顔がゆがんでる奴は、心もゆがんどる」
 そのばあさんの顔を見て、あんたに人の事が言えるか、とつくづくと思った。

機関銃

 あごひげを生やし、羽織り袴姿の、威厳のあるじいちゃんを中心にした、上品な一家四人を乗せた。
 じいちゃんの妻であろうばあちゃんと、その娘らしき人と、孫らしき小学生の女の子である。
 走り出してしばらくすると、助手席に乗ったじいちゃんが、
 プーーッ
 と、一発大きな音を出した。
 バックミラーで三人の顔を見ると、いつもの事なのだろう、平然とした顔をしている。
 そちらはいつもの事で、驚かないかも知れないが、こっちはびっくりする。
 臭いがないからいいようなものの、それから延々と、機関銃を連発してはやめ、連発してはやめを続けるのだ。
 よくまあ、次から次へとガスがたまるものだが、あんまり出しすぎて、音も段々情けなくなってきた。
 そして、ふとある事に気が付いた。
 どうやら、信号待ちする度に、緊張がほぐれて、肛門の筋肉がゆるむのか、機関銃を発射するのである。
 そうと分かれば、もうこっちのものである。
 それからは、前方の信号を見ながら、スピードを調整して、赤信号にかからない様な走り方をすると、それ以降は、機関銃の連射はなかった。
 しかし、大きな屋敷の前に着くと、今までのエネルギーが溜まっていたのか、大きなバズーカ砲を一発ぶっ放してから、悠然と降りていった。
 

酷使する一族

 スナックのママであるその人は、夜遅く午前二時頃に、タクシーに乗って、営業所の近くの家に帰って来る。
 もうヘロヘロに酔っ払っていて、歩くのがやっとの状態で、家に着くと、倒れこむようにして中に入って行く。
 何とか水揚げを上げようとして、無理をして飲んでいるのであろう、と思っていたが、聞くところによると、酒は一滴も飲めず、つがれたビールや酒を、相手のスキを見て、素早く足元のバケツに入れる、鮮やかな裏技を使っているらしい。
 と言う事は、酔ってヘロヘロになっているのではなく、疲れてヘロヘロになっているのである。
 年の頃なら、三十代後半、シングルマザーで、結構美しいのに、あんまりそうでもない高校生を頭に、中学生、小学生と三人の娘がいた。
 朝七時頃になると、彼女が、パジャマにガウンをはおった姿で、眠たそうに目をこすりながら出て来て、部活の朝練があるのか、先ず高校生の娘を、軽自動車に乗せて学校へ送って行く。
 帰って来ると、今度は、中学生の娘を学校に送り、最後に小学生の娘を送って行く。
 三人の通う学校は、大した距離でもなく、歩いても十分足らずで行ける場所にあるのに。
 それから、帰宅して、ちょっと寝たかと思うと、もう昼前には、大きなカゴ二つに入った洗濯物を持って、コインランドリーに行く。
 家に帰って、洗濯物を干し終わると、今度は、スーパーに買い物に行き、戻って来ると、三人の娘の為に、晩御飯の仕度を始める。
 さすがに、三人娘も、帰りは歩いて戻って来るが、三人共、母親の苦労が分かっていそうなものなのに、手伝っている姿を一度も見た事がない。
 そうこうしている間に、彼女は、又厚化粧をして、夜の町へと出て行く。
 一週間の内、店が休みである日曜日くらい、グッスリ眠って、休めるだろうと思いきや、三人娘共は、自分達が遊びに行くのに、それぞれ車で送らせ、全く母親を休ませようとはしないのだ。
 まさにこれは、酷使する一族以外の何ものでもない。

シカトする孫娘

 スーパーから、買い物袋を沢山持ったばあちゃんを乗せ、家の前に着くと、丁度、中学生の孫娘らしいのが、学校から帰って来たので、ばあちゃんが、タクシーから降りながら、
 「ユミちゃん、ちょっと持って」
 と、声をかけたが、知らん顔して家の中に入ってしまった。
 「あの態度はいかんばい。しつけがなっとらんやないか」
 と、言ってやると、ばあちゃんは、困惑顔で答えた。
 「一と月ほど前から、急にモノを言ってくれんようになってねえ、声をかけても、返事もしてくれんたい」
 「そうゆう難しい年頃やないと?」
 「いいや、わしがいらん事をしたばっかりに、こんな事になったとたい」
 訳を聞くと、それは、一と月前の出来事から始まっていた。
 ばあちゃんの家の横に、ちょっとした空き地があって、しかも暗がりなので、よく近所の札付きの中学生の男女がやって来て、夜遅くまで、騒いだり、タバコを吸ったり、イチャイチャしたりしていた。
 そこである夜、ばあちゃんは意を決して、その二人に向かって、
 「あんたら、何処か他の場所でやってくれんかねえ。そうでないと、うちの孫娘かと思われるたい」
 二人は、ぶ然とした表情でばあちゃんを睨みつけ、
 「しゃあしいババアやのう」
 「このクソババア」
 と、文句を言いながらも、何処かへと去って行ったが、こっそり戻って来たのか、郵便受けに、火の付いた新聞紙を放り込んで行ったらしい。
 そんな奴に、優等生がいるはずがない、その女の子の方が、学校で、孫娘に向かって、こう大声で言ったらしい。
 「お前んとこのクソババアに、やかましく文句を言われたぞ、お前が言わせたんかっ」
 その日以来、孫娘は口をきかなくなったのだ。
 「それまで優しいいい子だったのにねえ」
 ばあちゃんは、孫娘に変な噂が立ってはいけないと、孫娘の為を思ってしてやったのに、一と月も口をきかないなんて、ちょっと執念深い気がする。我々の子供の頃は、
 「ばあちゃんが悪かった、ごめん」
 と言って、10円もくれれば、直ぐに許してやったものだ。
 それから、更に数日が経ち、あれからどうなったのだろうか、口をきくようになったのだろうか、大いに気になっていると、丁度、一人で学校から帰る孫娘を見かけたので、
 「こらっ、ばあちゃんを大事にしてやらんか。お前が今この世にいるのも、ばあちゃんが、病気もせず、事故にもあわず、懸命に生きてきたからやないか。もしばあちゃんが、途中で死んでてみろ、お前のお父さんもおらんし、お前もおらんのや」
 と、言ってやりたかったが、変なおじさんと思われては大変だから、何とも言わなかった。
 
 

水揚げ新記録、

 少し前までは、タクシー会社に入る苦情で、一番多かったのは、
 「近い距離を乗ったら、愛想もクソもなくて、話しかけても返事もしなかった」
 などだったが、近頃は、随分やかましくなったので、運転手の質も向上し、今では、一番多い苦情と言えば、
 「こちらが知らんかと思おて、遠回りをされたばい」
 と、言うものであるが、それにも誤解している面が多々あって、こちらが、気を利かせて最短距離を走ってやっているのに、自分の思っている道が、一番近いと信じ込んでいて、苦情を言って来るのである。
 そんな人の場合は、少し距離が遠くて、料金が高くなろうとも、言われた道を行くのが間違いない。
 ところが、以前には、水揚げを上げようとして、明らかに遠回りをしている運転手がいた。
 結婚式場に、4、5台で並んで行くのに、その運転手だけ、途中からそれて、他の道を行ってしまうのである。
 そして、料金が何百円も違うので、古い運転手が、
 「お前、何でみんなと同じ道を走らんとか」
 と、注意すると、
 「久しぶりに、この町に帰って来た人のようにあったけん、この町の変わり具合を見せてやろうと、親切で回ってやったんたい」
 と、屁理屈をこねて、親切どころか、大きなお世話である。
 そんな汚い走り方をするので、どうしても、みんなよりも水揚げが多い。
 ところが、そんな運転手が、災難にあう日がやって来た。
 その運転手が、昼食を取りに家に帰っている時に、孫の五才になる男の子を、タクシーの中で遊ばせていて、自分は中で食事をしていた。
 満腹になって、仮眠を取って、ゆったりとタクシーに戻ってみると、孫が、空車の旗が、倒れたり起きたりするのが面白くて、メーターを扱いまくっていたのだ。
 実車にして旗を倒し、空車にして旗を起こし、子供にすれば、こんな面白い遊びはない。
 一回倒す度に、料金が上がり、当時は、基本料金が560円だから、100回近く倒したとかで、1メートルも走らないにに、60000円以上も水揚げを上げ、会社に泣きついたが、日頃が日頃だけに、ルールは曲げられないと、全額を払わされてしまった。
 やったのが孫だけに、文句も言えず、みんなは、
 「今まで不正に儲けた分を、吐き出しただけたい」
 「きっと、天罰が下ったんばい」
 と、笑いながら噂し合ったものである。


.
yuu*ita*i*18
yuu*ita*i*18
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

標準グループ

Yahoo!からのお知らせ

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

CMで話題のふるさと納税サイトさとふる
毎日お礼品ランキング更新中!
2019年のふるさと納税は≪12/31まで≫

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事