福岡県筑豊、田川のタクシーおもしろ話、田中有二

色んな人と出会います。人生の参考になればいいですが

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花見

 公園に、夜桜見物に行くと、すごい人出であった。
 金曜日の夜だけに、役所関係の人や、サラリーマンらしき人ばかりで、さすがに子供の姿は少なく、出店は閑古鳥が鳴いていた。
 花冷えとはよく言ったもので、夜風が冷たくて、我々ドライバーは、アルコールが飲めないので、ウーロン茶ばかりチビチビとやっても、場は盛り上がらないし、体は暖まらないし、つくづく石油ストーブを持って来るべきだった、と感じたものである。
 そんな中で、心温まる光景と言えば、ばあちゃんやじいちゃんを、その息子や娘らしき人が、車椅子に乗せて、桜を見せてやっている姿である。
 親孝行だなあ、と感心していると、もっと上を行く人達がいた。
 何と言う名前かは知らないが、よくプールサイドで、水着の女性が寝そべっている、シートと言うのかベッドと言うのか、
分厚い布団をかけたじいちゃんを寝せたそれを、大人五、六人で運んできて、公園のど真ん中に置いた。
 じいちゃんは、分かっているのかいないのか、ポカンと口を開けて、じっと桜を見上げているだけであった。
 恐らく、このじいちゃんにとっては、最後の、いやずーっと長生きして、来年も是非来てほしいものである。
 そんな中、横の方で、見覚えのあるオヤジが、酔っ払って大声を上げていたが、その話が、興味深いものだったので、そこら辺りのみんなが、会話をやめて聞き入った。
 「この時期、桜の花の下でするのが、一番気持ちんよかぞ」
 誰かが、手に持ったコップに酒をつぐと、それを飲み干してから続けた。
 「女に桜の木に手を付かせて、立ったままバックから攻めるんたい。そしたら、腰を使うたびに、桜の花びらがヒラヒラと舞い落ちて、そりゃあ風流なもんばい」
 聞き手のみんなが、ヘラヘラと卑猥に笑うと、更に調子に乗って、こんな事をいった。
 「去年なんか、一戦交じり終えた時には、花びらが全部舞い落ちて、一枚も残ってなかったぞ」
 このオヤジに、そんなパワーがあるとは思えない、何の病気か知らないが、タクシーで病院通いをしているのに、花びらが全部舞い落ちるどころか、二、三枚舞い落ちた頃には、自分の命が舞い落ちているかも知れない。

弱い者いじめ

 目が少し悪くて、足腰も弱ったばあちゃんの手を引いて、路地の奥にある家に送り届けて、戻ってみると、パトカーが停まっていた。
 そして、巡査屋さんが二人、俺のタクシーの前で、弁当箱みたいな物を手に、何やらしていたので、
 「どうかしたと?」
 と、尋ねると、
 「これ、お宅のタクシーですか?」
 と、聞いてきた。
 「はあ」
 「この道路は、駐車禁止ですから。速やかに移動して下さい」
 今日は、速やかに移動で済んだものの、もう少し出て来るのが遅ければ、しっかり青キップを切られていたとこである。
 「ちょっと足の悪いばあちゃんを、奥まで連れて行っただけやないか。それくらい待ってくれよ」
 「これからは、ここに停めないで下さいよ。違反ですから」
 「ここに停めるなって、ずーっと向こうの空き地に停めて、足の悪いばあさんを歩かせるんか」
 「まあ、そうして貰うしか」
 「そんな事出来るか、おぶってやりたいけど、柄が大きいし、又ここに停めるぞ」
 「それは違反です」
 「じゃあどうすればいいんかい?、その時は、警察に電話するから、サイレン鳴らしてやって来て、おぶってくれるか」
 さすがに、この提案には、返事はなかった。
 「こんな滅多に車が通らん道で、駐車禁止の取り締まりをする暇があったら、この先のやくざの組事務所の前を何とかしてくれよ。駐車禁止の標識の下に、一日中何台も停めて、厚かましいのは朝まで停めてるぞ」
 「見つけたら、ちゃんと取り締まっています」
 「いっぺんも取り締まってるのを見た事ないぞ。パトカーは、あの道を避けてるのと違うか」
 一番重点的にパトロールをしなくてはいけない、やくざの組事務所の周辺を、パトカーが走っているのを、ただの一度も見た事がない。そこで、更に言ってやった。
 「さっき通った時にも、外車と四駆が何台も停まってたぞ」
 「そうですか、ありがとうございます」
 と、巡査屋さん二人は、パトカーに飛び乗り、素早くUターンして、走り去って行ったが、組事務所に行ったのかどうかは分からない。
 

言っていい事悪い事

 年の頃なら四十ちょい過ぎ、色っぽい体からフェロモンを発している、上品な奥さんがいた。
 その人は、買い物を終えたスーパーからタクシーを呼ぶが、順番が当たった運転手は、他の運転手のせん望の眼差しに見送られながら、ウキウキした気分で迎えに行き、普段ばあちゃんの荷物も持ってやらない奴が、頼まれもしないのに、荷物を運んでやったりする。
 ある日、幸いにも順番が当たったので、下心見え見えでスーパーに迎えに行った。
 その奥さんを、十分程で着く距離にある家に送り届け、病院で胃カメラを飲む予約があったので、そのまま病院に向かった。
 検査を終えて、一時間ほどしてから、営業所に戻って来ると、その奥さんに興味のある何人かの運転手が、疑り深い顔をしてこう聞いてきた。
 「えらい遅いやないか」
 「二人で何処かに行ってたんと違うか?」
 「おい、正直に言えよ」
 正直に、病院で胃カメラを飲んでた、と言うのも面倒臭かったので、冗談の積もりで、
 「俺は早く帰ろうと思ったけど、あの奥さんが、チンチンをつかんで離さんやったから、帰られんやったんや」
 と、言ってやると、みんなはヘラヘラと笑っていたが、ただ一人、真に受けた男がいたのには気付かなかった。
 その男は、数日後に、くだんの奥さんを乗せた時に、こんな事を言ったらしい。
 「奥さん、こないだは、〇〇のチンチンをつかんで離さなかったそうですね」
 奥さんは、一瞬キョトンとした顔をした後、
 「誰がそんな事を?」
 「〇〇が自慢げに言いよったばい」
 それ以来、その奥さんが、二度とうちのタクシーに、乗らなくなったのは言うまでもない。
 

誕生日

 ショッピングセンターに迎えに行くと、いつもの様に、買い物袋を沢山持った青年と、ミニクラブに勤めている若い女の子が出て来た。
 青年は、余り背は高くなく、メガネをかけたインテリ風で、仕事をしているのか、学生なのか分からないが、学生だとすると、かなり裕福な家庭の子供であろう。
 いつも彼がニコニコしているのに対し、彼女が眠そうにしているのが印象的だった。
 彼女をアパートまで送ると、そのままJRの駅まで行き、どこかへと帰って行くのである。
 「あの子とは、小倉の店にいる時からの付き合いなんだ。こんな夜の仕事をしているけど、身持ちが固くてねえ、男はお父さんでも部屋に入れないそうだよ」
 この青年は、毎週土曜日の夕方になると、列車に乗ってやって来て、彼女の勤めるミニクラブで飲んで、その夜は、駅の近くのビジネスホテルに泊まる、
 そして、翌日の昼前に、ホテルからタクシーを呼んで、彼女を迎えに行って、ショッピングセンターで食糧や日用品を買って後、二人で食事を済ませ、彼女をアパートに送り届けてから、駅へと向かう、いつもそのパターンを繰り返していた。
 かなり入れ上げて、相当金を使っている様にあるので、
 「もう一回くらい、エッチをさせて貰っても、バチは当たらんやろう」
 と、言ってやりたいが、プラトニックな愛を貫いている彼に、軽蔑されそうなので、何とも言わなかった。
 そんな彼が、ある日の昼間、土曜日でもないのにやって来て、タクシーに乗リ込んだ。
 「あれ、土曜日でもないのに珍しいねえ」
 「今日はあの子の誕生日だから、何も知らせずに行って、驚かせてやるんだ。その方が嬉しさ倍増だからねえ」
 「ほう、そりゃあ、びっくりするやろう」
 その言葉通リ、彼女はびっくりしたが、彼もびっくりしようとは。
 途中で花屋に寄って、大きな花束を買い、アパートの前にやって来た。
 彼が花束を抱えて、車から降りると同時に、二階の彼女の部屋のドアが開き、中から作業着姿の若者が出て来て、中に向かって笑顔で手を振り、その仕草を見れば、只ならぬ関係にあるのは、誰にだって分かる。
 そして、笑顔で見送りに出て来た彼女と、下に立つ彼の目が合った。
 彼は、凄い形相で、花束を地面に叩きつけて足で踏み、車に飛び乗るなり、大声を上げて泣き出した。
 当然、彼女は、階段を駆け下りてきて、車に飛び乗り、
 「あの人は、水道屋さんなの、風呂の水が出なかったから、見てもらっていたの」
 「水道屋もなにも、君は、男はお父さんでも部屋に入れないと言って、僕を入れてくれないじゃないか」
 と、益々大声で泣きわめき、どう見ても、只の駄々っ子でしかなかった。
 そのまま、泣きじゃくる彼と、苦しい言い訳を続ける彼女とを、駅まで乗せて行くが、駅の構内のベンチでも、彼女は、すがる様にして言い訳を続けていた。
 その後、彼が優し過ぎるのか、それともだまされやすいのか、やっぱり、元のパターンを続ける様になっていた。

かしこい子供

 朝方、五階建ての団地に迎えに行くと、出て来たばあちゃんは、
 「ああ、今は春休みやねえ、しっかり戸締りをして来んといかん」
 と、言い残して、又団地の中へと戻って行った。
 再びやって来て、車に乗り込むなり、こんな事を言った。
 「裏の窓もしっかり閉めて来たし、これで安心たい」
 目的の病院に行く間、ばあちゃんが言うには、
 「近頃の子供は危ないけんねえ。油断もスキもなかたい」
 「どうしてね?」
 「何年か前の夏休み、団地の一階に住む、うちの友達のクメさんが、あんまり暑いので、窓を開けて昼寝をしてたら、隣の部屋でゴトゴト物音がするので、行ってみると、見た事もない小学生の男の子が、部屋の中を物色してたらしいんよ」
 「そりゃあ立派な泥棒やないね」
 「そうたい。クメさんが、『あんたっ、何ばしよっと?』って怒ったら、手にグローブとボールを持ってて、『そこで野球をしてたら、ボールが家の中に入ったので、取りに入ったんよ』と言い訳したそうたい。普通、人の家に断りもなく入るかね」
 「小学生のくせに、悪知恵だけは一流やねえ」
 「きっと、誰もおらんと思うて入ったんやろうけど、もしおっても、ちゃんと逃げ道はこさえとるたい」
 その話を聞いてから、その人が、戸締りをしっかりやるようになったのかと思うと、そうではなかった。自身も、旧炭坑の四軒長屋から、今の五階建ての団地に移ったばかりの頃に、同じような目にあったと言う。
 ある夏の昼間、玄関のチャイムが鳴るので、ドアを開けると、見知らぬ小学校三、四年の男の子が三人立っていたらしい。
 そして、その内の一人が、体をモジモジさせて、こう言った。
 「おばちゃん、トイレを貸して。もうウンコがもれそうで、我慢が出来んから」
 小の方なら、その辺に立ってすればいいが、大の方で、しかも、今にも漏らしそうな苦しそうな顔をしていたので、快くトイレを貸して、親切にも、用を足して出て来てから、手を洗った時の為にと、タオルを持って、トイレのドアの前に立って待っていたらしい。
 ところが、隣の部屋で物音がするので、行って見ると、残りの二人が、水屋の引き出しを開けて、中をあさっている真っ最中だった。
 「こらっ、あんたらっ、何ばしようとかねっ」
 トイレに入っていた者共々、三人が、一目散に逃げ散ったのは言うまでもない。
 「あんだけ悪がしこい頭があるのなら、いい方に使ったら、どんだけ世の中の役に立つ事か」
 「それにしても、トイレに入った子供、凄い演技力やねえ」
 「ああ、私もすっかり騙されたたい。あれなら、劇団四季に入ったら、立派な役者になれるばい」
 今の子供は、空腹に耐えかねて、やむにやまれず盗むのではない。殆んどの場合が、遊ぶ金欲しさである。
 人の物を盗むのは、今も昔も悪いに決まっているが、ばあちゃんに言わせると
 「昔の方が、可愛げがあったたい。木になった柿を取ったり、軒下に干した干し柿を持って行ったり、今までで、一番印象に残って、可哀そうで何も言えんかったのは、夏の夜、軒下のザルにごはんを入れて下げていたのを、小さな男の子と女の子が、二人で分け合って食べているのを見つけた時たい。ほんと、可哀そうで、そのまま寝た振りをしたばい」
 この話を聞いて、少しはいい気分になった。未だ人情が残っていた頃の事である。
 
 


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