福岡県筑豊、田川のタクシーおもしろ話、田中有二

色んな人と出会います。人生の参考になればいいですが

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卒業した北京ダック

 夕方、ちょっと大きな家に迎えに行くと、六十代の夫婦に送られて、二人の若い男性が出て来た。
 「部長、今日はご馳走になりました」
 「ああ、今日はすまんかったなあ。晩めしも食べて帰れば良かったのに」
 「いえ、これ以上迷惑をかけたら」
 「そうか、じゃあ気を付けて帰れよ」
 二人は、車に乗り込むなり、ふーっと大きな溜息をついてから、こう言った。
 「これでやっと解放される。今日は早目に切り上げて、映画を見に行くつもりやったけど、とんでもない映画を見せられたぞ。お前がいらん事を言うからや」
 「あの時は、思わず口に出てしもうて」
 「もういい、今さら映画に行っても遅いし、これから飲み直しや」
 と、行き先は飲み屋街に決まった。
 二人の会話を総合すると、どうやら二人は、今度小学校を卒業した、部長の孫の祝いの席に呼ばれていたようにある。
 「あのガキ、部長の孫やなかったら、張り倒してるとこや」
 二人が、祝いの意味を込めて、部長の孫である男の子に、それぞれ3000円入りの封筒を渡すと、「ありがとう」も言わずに受け取って、中をのぞき込むなり、ポイとそこら辺に投げ捨てたと言う。
 それから、孫の卒業式のビデオを見せられ、校長の式辞、来賓の祝辞、などなど延々と見せられ、もうすでに、主役である孫は、退屈をしてゲームでもしている。
 いよいよ、クライマックスである、卒業生が一人ひとり壇上に上がって、卒業証書を受け取る場面では、
 「これっ、これっ、今上がってるのがうちの孫や」
 と、部長が一人で盛り上がっていたらしい。
 そして、在校生による送辞、卒業生による答辞、卒業生の見送りも終わり、これでやっと、部長意外面白くも何ともない、長編記録映画が終わったと思った瞬間、二人の内の後輩の方が、禁断の一言を言ってしまった。
 「お孫さん、小さい頃から可愛かったんでしょうね?」
 「おおそうか、小さい頃のビデオも見たいか。そんなら見せてやろう」
 「いえ、もう結構です。ご馳走さま」
 とは言えず、再び、面白くも何ともない、只苦痛なだけの記録映画の上映開始である。
 誕生の時から、赤ん坊の時代、七五三、幼稚園のおゆうぎ会、小学校の運動会に学芸会、子供の成長の節目々々が映し出され、しかも悲しい事に、部長の面白くも何ともない、自慢ばかりの解説付きときている。
 そして、拷問にも似た上映会から、やっと解放されたのである。
 「あれで晩めしでもよばれていたら、まだまだロードショウが続いていたとこや」
 「しかし先輩、あの孫は、部長にそっくりでしたねえ」
 「北京ダックか。俺はそこまで言いきらんぞ」
 北京ダックにせよ、ドナルドダックにせよ、祖父母にしたら、自分の孫が一番可愛い。
 そういえば、以前、こんな事を言ったじいさんがいた。
 「一番可愛いのは、隣のキューピーさんよりも、自分のとこのブルドッグや」
 と。
 

卒業シーズン

 町を走っていると、この時期にしか見られない光景に出くわす。
 小学校を卒業したばかりの子がやっている、卒業記念集団デ-トである。
 男の子四人、女の子四人で道を歩いているが、お互いに照れくさいのか、男の子は男の子で、女の子は女の子ばかりで一かたまりになり、付かず離れず、かと言って目的地もなく、ただ歩いているだけなので、一日の内、何度も同じグループに出会う。
 そんなのは可愛い方で、男の子ばかりのグループは、卒業した安心感からか、ちょっとはじけている。
 ボウリング場から乗せた四人の男の子は、つい二、三日前まで小学生だったくせに、生意気にも、一本のタバコを回しのみし始めた。
 大人を気取って、吹かしているだけであったが、思わず強く言ってやった。
 「こらっ、今頃からタバコを吸いよったら、背が伸びんぞ」
 すると、中でも一番背の高いのが、生意気にもこんな事を言った。
 「おいちゃん、うちのおやじは、タバコを吸いよるけど、1メートル80あるばい」
 「それは、お前んとこのおやじが、背が伸び切ってから吸い始めたからや」
 「いいや、中学に入ってから吸い始めたと言いよったばい」
 すると、もう一人がこう付け加えた。
 「おいちゃん、エッチとタバコは、早めに経験した方がいいとばい」
 「誰がそんな事言いよるとか?」
 「おやじ」
 一体どんな育て方をされているのか、うかつに注意も出来ない。
 更には、助手席と後部座席の窓三つを全開にして、通リかかった小中学生の女の子に、
 「彼女、メアド教えて」
 「ねえ、一緒にカラオケしない」
 と、声をかけまくる。
 そうこうしている間に、目的のカラオケ店に着くと、駐車場の真ん中辺りで、見るからに悪そうな、金髪で剃り込みを入れた三人の中学生が、ウンコ座りをしていた。
 とたんに、車中の四人が、口を揃えて
 「おいちゃん、ここでいいばい。ここで降ろして」
 と、手前の方で言ったが、わざと聞こえない振りをして、ヤンキー三人の真横に車を停め、二、三度空ぶかしをして、顔に排気ガスを浴びせると、三人は、けげんそうな顔をして立ち上がった。
 その危険地帯の真ん中に、四匹の子羊を降ろしてやると、さっきの元気は何処へやら、メンチを切る三人とは目を合わさないようにして、うつむき加減で、カラオケ店の中へと入って行った。
 本当のワルを見せてやったので、少しはこたえて、真面目な中学生活を送って欲しいものである。

鮮やかな金庫破り

 自宅の金庫を破られたと言うばあちゃんを、金庫屋さんまで乗せて行った。
 「用事が済んだら、また乗って帰るけん、待っといてくれんやろうか」
 と、言うから、車の中で待つのも何だし、一体どんな金庫があるのか、大いに興味があったので、ばあちゃんに付いて中に入って行った。
 「いらっしゃいませ」
 と、店の主人が応対に出て来ると、ばあちゃんは開口一番、こんな事を言った。
 「あのう、また金庫を見せてくれんやろうか」
 「あれっ、お宅は、こないだ買って行ったばかりじゃないですか」
 「そうばってん、あれよりも大きな金庫が欲しいんですたい」
 そんな大きな金庫が必要な程、裕福に見えるばあちゃんではなく、ごく普通の人である。
 「こないだ買って行った据え付け金庫、結構大きな方ですよ。何か不都合でも?」
 「ああ、中のお金が少しづつ減っていきよる」
 「そんなバカな」
 「やっと減りよる原因が分かったけん、もっと大きな金庫が欲しいんたい」
 「逆に小さいのじゃ駄目ですか?」
 「小さいと、金庫ごと持って行かれる」
 主人は、少し困り果てて、
 「今うちには、あれ以上大きなやつは置いてませんけど、もうあれ以上と言えば、業務用のとてつもなく大きな金庫になりますよ?」
 「それでよかけん、お願いしますたい」
 「じゃあ、直ぐに取り寄せて、入り次第、お宅に持ってうかがいましょう」
 「なるべく早く頼みますばい」
 帰りの車中、何を入れる為に、そんなに大きな金庫が必要なのか、と尋ねてみると、こうゆう事らしい。
 ばあちゃんが、大きなダイヤル式の金庫を買ったとたん、今まで寄り付きもしなかった息子や娘たちが、急に家にやって来るようになったと言う。
 息子や娘たちにしてみれば、今までどこに隠しているのか、全く見当もつなかった現金、貴金属、預金通帳が、その中にあると分かっただけでもめっけもので、あげくには、
 「もし母ちゃんが急に倒れて、治療費や入院費が必要になっても、お金の出し方が分からんで、手遅れになったら大変だし、いざと言う時の為に、ちゃんと私たちに、金庫の開け方を教えとかんと」
 「そうよ、私の知ってる人なんか、現金の管理を一さい任していた、奥さんが急に倒れて、全くお金のある所が分からなくて、治療費を払えないから、サラ金にお金を借りたそうよ」
 と、嘘かまことか、他人を引き合いに出して、とうとう金庫の開け方を聞き出してしまった。
 そのとたん、急に息子や娘たちが優しくなり、代わる代わる車でやって来ては、
 「母さん、今日は病院に乗せて行ってやるわ」
 と、病院まで送って行き、
 「後で迎えに来るから、じっと待ってるのよ」
 と、優しい言葉をかけて、走り去って行く。
 そんな日に限って、金庫の中の金が、少し減っているそうである。
 そこでばあちゃんは、金庫をもっと大きいのに変え、今度こそは、何と言われようとも、逆さ吊りにされて拷問されようとも、絶対に開け方を教えないそうである。

驚異的な的中率

 朝十時前、オートレース場やボートピアに行く、無料バスに乗る為に、営業所の前を通りかかるが、必ず事務所に寄って行く男性がいる。
 年齢は、七十そこそこで、細々と年金暮らしをしているが、唯一の楽しみが公営ギャンブルである。
 ところが驚く事に、彼は驚異的な的中率を誇っていた。
 特に大穴、いわゆる、万太郎、満洲、万コロと言われる、100円で、一万円以上の払い戻しの付いたレースは、ほぼ百発百中で、ときには、十万円を越す配当の超大穴のレースも、しっかり的中させている。
 そんな超大穴の配当が出た翌日には、必ずスポーツ新聞を片手にやって来て、そのレースの載った紙面を見せながら、
 「ほら、昨日の7レース、十三万ついてるやろう。わしはこれを特券でいっとったばい」
 特券と言えば、もう死語になってしまったが、その昔、千円券を買うのには、絶大な勇気と度胸を必要とする時代があって、その名残で、いまだに千円券の事を特券と呼んでいるのだ。
 つまり、十三万円の配当の十倍ならば、百三十万円になったと言う事である。
 「近頃は、ずっと当たりっぱなしで、財布が重とうてかなわんたい」
 ところが、誰一人、当たり券や現金を見た者がいない。
 今までの当たりを合計すると、もうとっくに億の金を手にしている筈だが、年中、ハンチング帽にヨレヨレのジャンバー、塩が吹きかけた革靴、そのスタイルは全く変わらなし、そんなに儲かっているなら、レース場まで、たまにはタクシーで行ってくれればいいのに、一度も乗った事がない。
 こちらも、追い詰めたくはないので、
 「ほおう、良かったねえ」
 としか言わないが、ある時、誰かが、
 「あんた、そんなに言うなら、当たり券を見せてみない」
 ギャンブラーおやじは、一瞬ギクリとしてから、シドロモドロになりながらも、
 「ああ、当たり券は家に置いてきた」
 と、言うのがやっとだった。
 我々ギャンブラーもどきの経験からして、当たり券を家に置くなんて、まず有り得ない。しっかりと財布にしまっておく筈で、ましてや、今からレース場に行こうとしているのに、絶対に有り得ない話である。
 そんなおやじが、ある朝、興奮気味に営業所に入って来た。
 今日はどうした事か、片手にいつものスポーツ紙だが、もう一方の手には車券が握りしめられている。
 「見てみない、12レースの三連単、わしはしっかり特券で買おたばい。ほら、嘘やないやろう」
 誰も嘘なんて言ってないのに、しきりに念を押す。
 嬉しさで、心なしか唇も震え気味で、確かに、六千円ばかりの配当を、千円券で買っているので、六万いくらかになっている。
 その後も、よっぽど嬉しかったのか、車庫に戻って来る運転手一人ひとりに、当たり券を見せて回り、もうとっくに無料バスが出て行く時刻は過ぎているのに、まだ何人か戻ってない者がいるので、なかなか営業所を出て行こうとはしなかった。
 ひと通リみんなに見せ終わると、安心したのか、やっと嬉しそうに出て行ったが、残ったみんなで言い合ったものである。
 「何百万も取った時には冷静なのに、たった六万ばかりで、えらいはしゃぎようやったなあ」
 これで、おおよそ分かってはいたものの、今までのホラがバレバレであるのに、やっぱりその後もやって来て、
 「きのうも又、大穴を取ったばい」
 と、運転手を捕まえては自慢している。
 これでストレスを発散しているからこそ、元気でいられるのだろう。いい健康法である。

二十四の瞳

 久しぶりに都会から、兄の葬式とかで、懐かしい友人が帰って来た。
 彼は、十二人兄弟の上から二番目で、下には弟や妹がゴロゴロいた。
 だから、みんなから、一ダースとか、二十四の瞳と言うあだ名で呼ばれていたが、そいつが悪タレだったから、おやじか先生にブン殴られて、顔がはれて片目が開けられない時には、二十三の瞳とからかわれていたものだ。
 今回亡くなったのは、長男であるから、順番から言えば、今度は彼の番だが、人間順番通リにはいかないもので、もうすでに、弟と妹が一人づつ先に亡くなっているらしい。
 以前から、彼が不思議がっていたのは、今みたいにモーテルがあるわけじゃなし、子供が十二人もいて、かなりタフなおやじなので、数えきれないほどエッチをしている筈なのに、一度もそんな場面に出くわさなかった事である。
 旧炭坑の社宅は、四畳半と六畳の二間だけで、そこにゴロゴロと子供が寝ているので、いくらみんなが寝静まった真夜中とは言え、声を出すわけにも、振動を起こすわけにもいかない。
 かと言って、こっそり外に出て行こうとしても、誰かの足を踏んづけて起こしてしまうか、まだ寝付かれない誰かがいて、
 「父ちゃん、母ちゃん、何処に行くと?」
 と、声をかけられるのがオチである。
 その謎が解けたのは、随分後からの事で、酒屋のおやじが、何もかも話してくれた。
 「大体、一戦交えるのは、日曜日の昼間が多かったな」
 「日曜日と言えば、子供は家におるし、例え外に遊びに行っていても、いつ帰って来るか分からんし、おちおちエッチも出来んばい」
 「ところが、心配せんでも、ちゃんといい手があるんたい」
 そのおやじの話を総合すると、さあこれからと言う日曜日の昼間、父親と母親は、子供全員を集めてこう言う。
 「今から、お前達全員で、買い物に行って来てくれんか」
 そして、大きな子供には、それぞれどんぶりを一つ持たせ、
 「お前は酒、お前は焼酎、お前は醤油、それからお前は酢、そのどんぶりに盛りきりいっぱい、どんなに遅くなってもいいから、こぼさん様に帰ってこいよ」
 と、言っておいてから、比較的小さな子には、枡を持たせて、
 「お前には米を頼むぞ。くれぐれもこぼさん様に」
 と、全員に言いつけるのだ。
 当時は、酒も醤油も、はかり売りが主流で、みんなビンやどんぶりを持って、店に買いに行っていたが、誰もが容器にゆとりのある買い方をするのに、盛りきりいっぱいと言うのがミソで、子供は正直なので、どうしてもこぼすまいとして、ゆっくり帰る事になる。
 子供たちが、
 「行ってきまーす」
 と、家を出かけると、更に母親が念を押す。
 「みんなバラバラに帰って来たらつまらんばい。みんな仲良く一緒に帰って来るとよ。出来たら、みんなで大きな声で仲良く歌いながら」
 もし帰りに、米の入った枡を持った小さな子が、何かにつまずいて転び、米を地面にぶちまけて、みんなでその米を拾い集めるので、時間は遅くなるし、米には泥がまじっていても、母親は、決して怒ったりはしない、
 「今度から気を付けなさいよ」
 と、ほてった顔でやさしく言うだけである。
 ところが、酒屋のおやじが言うには、それらしい子供が、
 「おいちゃん、焼酎をこのどんぶりに盛りきりいっぱい」
 と、やって来ると、ついいたずら心を起こして、ビンに焼酎を入れてやって、
 「このビンをやるから、急いで持って帰ってやれ、父ちゃんと母ちゃんは喜ぶぞお」
 子供が、焼酎の入ったビンと、空のどんぶりを持って、嬉しそうに走って帰ったのは言うまでもない。
 当時の炭住街では、家に鍵をかけるなんて習慣はなかった。泥棒が入ったものの、何もなかったので、タオルを置いていったと言う話がある位で、やむなく何日も家を空ける時には、五寸釘で戸を打ち付けたものである。
 そんな家だから、あまりに早く子供が帰って来たので、慌てふためいた父ちゃんと母ちゃんは、恐らく、布団の中で、死んだ振りか、寝た振りをしたに違いないだろう。


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