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とある団地に迎えに行くと、八十過ぎのばあちゃんが、膝をかばいながら出て来て、いかにも膝が痛そうに、思いっきり顔をしかめて乗り込んだ。
「〇〇町で、もう一人乗るけん、そっちの方に回って」
次に向かったのは、こじんまりとした一戸建ての家で、その玄関先でクラクションを鳴らすと、七十半ばの背のスラリと高いじいちゃんが出て来た。
そのじいちゃんが、タクシーに乗り込もうとすると、窓から鋭い目付きで見ていたばあちゃんが、
「あんたっ、何処に行くと?」
「〇中整形外科たい。一人で行くよりも、二人で行って、割り勘にした方が安上がりやろうが」
すると、ばあちゃんはこう言った。
「ちょっと待って、わたしも行くけん」
「何しにや?」
「わたしも、急に膝が痛とうなったたい」
「お前、きのうの晩こそ、『わたしの膝は、誰よりも丈夫に出来てるから、今までいっぺんも痛とうなった事がない』と自慢してたやないか」
「きのうまでそうやったけど、今急に痛とうなったんやから、仕方なかろうもん。あんた、わたしが行ったら、都合悪い事でもあると?」
「そんなもんあるかっ」
結局、奥さんであるばあちゃんも乗り込み、三人で、整形外科へと向かった。
このスラリと背の高いじいちゃんは、聞くところによると、その昔、長身と二枚目の顔を武器に、何人もの女性を泣かせたプレイボーイだったらしい。
だから、奥さんであるばあちゃんは、昔みたいに浮気をされては大変と、付いて行く気になったのだろう。
それにしても、ヤキモチを焼く方も焼かれる方も、元気なもので若々しく見える。
後日、そのばあちゃんを乗せた時に、
「あんな男前でモテモテの、プレイポーイの亭主を持つと、心配で大変やねえ?」
すると、ばあちゃんはこう答えた。
「何がプレイボーイなもんか、若い頃から、わたしに無礼な事ばかりしやがって、ぶれいボーイたい」
恐らく、若い頃から今まで、泣かされっぱなしだったのだろう。
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