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七十代の夫婦を、総合病院まで乗せて行くと、料金は700円であった。
「ええっと、700円です」
と、言うと、夫の方が、
「お前、360円出せよ。こないだ俺が、10円余計に出しとろうが」
「たった10円で、男が細かい事言いなんな」
「こうゆう事は、はっきりとしとかんといかんのや」
結局、二人のワリカンでタクシー代を払い、面白い夫婦だなあと思っていた。
後日、その奥さんの方を乗せたので、
「あんたら、タクシー代をワリカンにするなんて、夫婦と違うんね?」
「元夫婦やけど、わたしゃ、もうあのオヤジとは別居しとるんたい」
「別居しとるって、一緒に住んどるやないね?」
「まあ、家庭内別居と言うのか、世帯は別々たい」
更に聞いてみると、偶数月に年金が入ると、それぞれ二人の年金を足して二で割り、山分けするらしい。
「でも、おっさんが死んでも、わたしに入って来る金は、全く今のままたい。遺族年金になって、おっさんの貰ってる半分が入るだけやから」
結局、元奥さんにすれば、オヤジがいようがいまいが、ずっと同じ生活が続くだけである。
「じゃあ、家賃なんかはどうしてるんね?」
「勿論、半分づつ出して、電気代も、水道代も、ガス代も、何から何まで全部半分出したい」
「部屋なんかはどうしとると?」
「わたしが南側の六畳を使って、おっさんが北側の六畳を使いよる。それぞれにテレビがあるし、昔みたいにチャンネル争いせんで済むし、気楽なもんばい」
「風呂はどうしよると?」
「風呂は、早いモン勝ちたい」
「じゃあ、食事も別々にしよると?」
「ああ、炊事場は共同で使うけど、ご飯は別々に、横の四畳半の部屋で食べるたい、飯台の真ん中につい立を立てて」
つい立を立てるくらいなら、各自が自分の部屋に持ち帰って食べるか、時間をずらして食べればいいものを、さすがは元夫婦、つい立越しに、差し向かいで食べたいのであろう。
「わたしゃ、魚の煮付けや野菜の煮物をするけど、おっさんは、スーパーで買ってきた、刺身なんかが多いみたいやね」
「少しおかずを分けてやればいいやん」
「誰が、あんなクソオヤジに分けてやるか。こないだなんか、おっさんの買ってきたカキフライが、あんまり美味しそうやったけん、おっさんが向こうを向いてるスキに、こっそり一個食べてやったたい」
「あんたもやるねえ」
「いいや、それ位してよかたい。クソオヤジ、どうもわたしの牛乳を、こっそり飲みよるごとある。こないだは、冷蔵庫に入れてたケーキが、いつの間にか消えてしもうたし」
この自称元夫婦、どっちもどっちのようにある。
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