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炭坑の社宅の跡に建った、五階建ての改良団地では、下から年寄りが入っているので、下の階が空くと、つまり亡くなると、二階から、一階に年寄り予備軍が下りて来る。
その日も、二階のばあちゃんが、一階に下りて来るので、次男の嫁、三男の嫁が手伝いに来ていた。
共に六十代で、すでに夫は亡くなり、言わば、血のつながりのない、義理の母親の引越しを手伝っているのである。
大して大きな荷物や家具もないので、二人で二階から一階へと、荷物を持って何度も往復していた。
もう一人、長男の嫁がいて、この人の夫もすでに亡くなっている。
この人は、丁度引越しをしている、真向かいの団地の三階に住んでいるのである。
「なんばしよっとかねえ、安子さんは」
「今日が、ばあちゃんの引越しの日って、知っとる筈やがねえ」
次男と三男の嫁は、そんな事を言い合いながら、うらめしそうに、向かいの団地の三階を見上げていた。
一緒になって見てみると、風もないのに、カーテンがチラチラと揺れている。いや、風があっても、窓を閉めているので、カーテンが揺れる筈がない。
どうやら、引越しの進み具合を、こっそりうかがっているようにあった。
「安子さんが来ん内に、もう終わってしもうたが」
そうこうしていると、安子さんが、如何にもと言ったモンペ姿で賭けつけて来た。
「さあ、一丁頑張るか、こんな時こそ、長男の嫁が頑張らんば」
「あんたがあんまり遅いけん、もう終わってしもうたがね。今まで何ばしよったと?」
「もっと早ように来ようと思うたばってん、女には、色々やる事が多いんたい」
「同じ独りモンで、何をする事があるかね」
よっぽど安子さんの代わりに、
「カーテンを揺らす用事があるんたい」
と、言ってやろうかと思った。
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