福岡県筑豊、田川のタクシーおもしろ話、田中有二

色んな人と出会います。人生の参考になればいいですが

おもしろ話

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とんでもないセガレ

 整形外科医院から乗せた、膝の悪いばあちゃんは、乗り込むと必ず、こう念を押す。
 「家までいかんでね。手前でよかけんね」
 「膝が悪いとに、家の前まで行かんでいいと?」
 「よかよか、ちょっとは歩かんと、いよいよ歩けんくなるたい」
 そんな強がりを言っているが、本当は、痛くて歩きたくはないのである。
 大抵降りるのは、家のずっと手前で、しかも家からは死角になっている場所である。
 こちらとしても、家の玄関まで乗せて行きたいのだが、以前、家の前で降ろしている時に、中から、五十がらみの男が出て来て、両目を吊り上げて、こんな事を言った。
 「これ位の距離を、タクシーに乗りやがって、贅沢をするなっ。膝の痛いの位、我慢せえっ。病院に行ったら、病院代が勿体なかろうが。家でじっと寝とったら、その内自然に治るわい」
 ロクに仕事もしないで、ばあちゃんの年金で暮らしているのに、お前には、こんな事を言う権利はない筈である。
 そこへ持って行くと、配送中のトラックの運転席から、杖をついてゆっくりと歩く、年老いた母親を見つけて、
 「こらっ、又歩いて帰りよる。タクシーに乗って帰れと、いつも言いよろうがっ」
 と、怒鳴り上げ、ばあちゃんも照れくさそうに
 「あれ、見つかってしもうたねえ」
 と、笑って答えると、
 「又こけて、骨でも折ったらどうするんやっ。金は生きている内に使わんと、あの世には持って行けんとぞっ」
 と、もう一度怒鳴ってから、トラックの助手席に、ばあちゃんを押し上げて乗せ、走り去って行く、孝行息子もいるというのに。

とんでもない患者

 夕方、博多で行われる研究会に行く、四十代の内科医師を乗せて、国道を走っている時の事である。
 後方から救急車がやって来たので、道を譲って先に行かせると、先生はこう言った。
 「救急車を見るたびに、とんでもないある男の事を思い出すよ」
 「ほう、面白そうですねえ」
 と、興味を示すと、
 「もう随分前の話だけど」
 と、前置きしてから、こんな事を話し始めた。
 「あれは、正月三が日に、休日救急医療センターの、当直医をしている時の事だよ」
 今はどうだか知らないが、以前は、医療機関がやってない、日曜、祭日、正月三が日などに、休日救急医療センターが開いていて、市内の病院、医院の医師二人ほどが、持ち回りで急な病人を診ていた。
 その日は、慣れない田舎に帰って来た都会人が、水が合わないのか、熱を出したり、腹をこわしたり、そんなぐったりした子供や大人たちで、待合室はごった返し、座る椅子のない人たちは、乗って来た車の中で、順番の来るのをじっと待っていたらしい。
 そんな大勢の病人を、二人の当直医で、一生懸命さばいている時に、けたたましいサイレンを鳴らして、救急車が入って来たので、“すわ、もちを喉に詰まらせた老人か”と待ち構えていると、救急隊員の担架に乗せられて、大して気分が悪そうでもない、六十代の男性が、ニヤニヤ笑いながらやって来たと言う。
 当然、長い時間待っている人々よりも、救急患者の方が先である。
 「その男、ベッドに下ろされるなり、何と言ったと思う?」
 「さあ、分からんねえ」
 「『四、五日ウンコが出らんけん、食欲がわかんで、正月のご馳走が食べられんたい。一本浣腸をしてくれんかな」
 「とんでもない野郎やねえ」
 「救急隊員に、『こんな奴を乗せてくるな』と言いたかったよ」
 「そんな奴に限って、仕事は好かん、やくざにもなれん、半端やくざみたいな野郎やから、もし置いて帰りでもしたら、『人が死にかけているのに、放って行った』と、きっと大騒ぎをしよるよ。救急隊員も、大した事のない奴と分かっていても、放って帰るわけにもいかんし、つらいとこやろうね」
 「おまけに、浣腸して貰って、スッキリ出してしまったら、今度は何て言ったと思う?、『来たついでやから、元気になるブドウ糖を点滴して貰おうか』なんてぬかしやがって、こんな事を言うのは、不謹慎かも知れんけど、よっぽど、血管に水を点滴してやろうかと思ったよ」
 もっともである。こんなバカおやじのお陰で、本当に緊急を要する人が、救急車に乗れなくて、手遅れになるかも知れないし、きついのに、じっと順番を待っている人達も、大迷惑である。 

貯金箱

 タクシーの後部座席とドアの間に、ちょとした隙間があって、みんなは、そこの事を貯金箱と呼んでいる。
 車の中からも、外からも、死角になっているので、よくそこに百円玉や五百円玉が落ちていて、それを見つけた時には、ちょっと嬉しい気分になるものである。
 ちょうど、しばらく着なかった上着に着替えると、ポケットの中に、思わぬ五百円玉が入っていた時の、あの嬉しさと同じである。
 ある日、新車を貰った先輩が、ピカピカの新車の後部座席に座って、しきり体を上下させていたので、近寄って聞いてみた。
 「何をしよると?」
 「ああ、未だ新車の座席は硬いからなあ。柔らかくしてるんや」
 さすがにベテラン運転手、お客さんが座り心地がいいように、そこまで気配りしているのか、と感心していると、そうではなかった。
 「座席が深く下がると、お客がポケットから金を出す時、ポロリと落とした小銭が、その隙間から座席の下に入って行くんたい」
 「ほう、知らんやったねえ」
 「お前、何年タクシーに乗りよるんや。こんな事も知らんやったんか?」
 「誰も教えてくれんやったしねえ」
 「年に一度の車検で、タクシーが工場に入って来たら、工場の連中は、何処よりも先に、座席の下を見るんやぞ。お前は今まで、座席の下を見らんで、そのまま工場に出してたんか?」
 「そのまま出してたけど」
 「お前、今までに相当損をしてるなあ。なんぼあったか分からんぞ。莫大な金額で、ひと財産あったかも知れんなあ」
 言われてみると、今まで何台も乗り換えてきたが、ただの一度も座席の下なんか見た事がなく、元々自分のお金ではないにせよ、物凄く損をしたような気分になった。
 そこで、口惜しいから、自分のタクシーに戻って、後部座席の隙間から、一万円札一枚と、千円札三枚と、五百円玉五個ばかりを、座席の下へと押し込んでおいて、くだんのベテラン運転手を呼んだ。
 「座席の上げ方が分からんのやけど、教えてくれんね」
 「何も知らん奴やのう」
 と、やって来て、俺は右側から、ベテランは左側から、座席を上げるのを手伝ってくれた。
 「ここにこう手を入れて、奥に押すようにして上げるんたい」
 座席は簡単に持ち上がったが、目の前には、目を丸くしたベテランがいた。
 「お前、誰を乗せたんか。よっぽどのセレブを乗せたんやのう」
 俺は、お札と硬貨を拾い上げて、こう言ってやった。
 「結構あるもんやねえ、一万五六千あるわ。あんたのお陰で、思わぬ小遣いが出来た」
 すっかり信じ込んだベテランは、いつまでもうらやましそうに見ていた。

 

忘れていた一言

 ある日、赤ん坊を抱えた若い女性を、スーパーから乗せた。
 乗り込むなり、嬉しそうに言った。
 「あっ、あの時のおいちゃんや。久しぶり」
 そんな事を言われても、こちらには全く覚えがないので、首をひねっていると、
 「おいちゃん、忘れたと? ほら、私が未だ高校生の頃」
 何年も前の事らしいので、覚えている筈がない。
 「ほれ、何年か前に、インフルエンザが流行った冬があったでしょう?」
 「そう言えばあったねえ」
 「私が、彼氏に呼び出されて、おいちゃんの車に乗って、彼氏の家に行く時、『熱があってしんどいから、あんまり行きたくないの』って言ったら、おいちゃんが教えてくれたやん」
 「何を?」
 「そんなら、今から彼氏に電話して、『会いたくてたまらないけど、今日は我慢するわ。あなたにインフルエンザを移したくないし、家族に移ったら大変だし、今度元気になるまで、会うのは我慢するわ』そう言ってやればいいって」
 そう言えば、そんな事があったような気がして来た。
 彼女は、彼氏に携帯でそう言って、家に引き返したらしいが、全く覚えていない。
 「本当は、只の風邪で、インフルエンザでも何でもなかったんだけど、あの一言で、彼には女友達が大勢いたのに、『お前思いやりがあるなあ』と私がみんなより一歩リード、そして、この子が出来て、めでたくゴールインしたのよ」
 「ほう、良かったなあ、おめでとう」
 「あの日は、彼氏が、『大丈夫か?』と電話をしてきてくれて、布団の中で、一日中話してたわ」
 恐らく、この時から、二人の愛が一気に深まったのだろう。
 いずれにせよ、彼の元に行かなくて正解、家で寝て、彼女の熱は下がったが、彼の熱が上がったようである。
 何が幸いするか分からないが、やっぱり思いやりが一番で、自分の友人に、別に何とも意識してなかった女の子が、肩に付いたフケを払ってくれたのに感激し、それから付き合い始めて、今では夫婦になったのがいる。

いらん事言うな

 葬斎場から五十代の夫婦を乗せた。
 奥さんの方が、生花をいっぱい抱えて乗ったので、夫は助手席に乗り込んだ。
 行き先を聞いて、走り出すと、夫が、
 「おおそうや」
 と、言って、携帯電話をかけ始めた。
 「もしもし、おおケンジ君か、今日はどうするつもりや?、このまま帰るんか?、・・・・えっ今からホテルを捜す?、そんならうちに泊まれよ。大した事は出来んけど」
 すると、後部座席の奥さんが、夫の頭をポカリと叩いた。
 夫が、びっくりして振り返ると、目を吊り上げた奥さんいわく、
 「いらん事言わんのっ、もし本当に泊まりに来たらどうするのよっ」
 「たった一日やないか。それに、新築した家を見てもらう、丁度いい機会やないか」
 「見てもらわんでもいい。もし泊まりでもされたら、バタバタするのは私やないね」
 いざとなったら、男よりも女の方が冷たい。
 「たった一日も辛抱出来んのか。それに、ケンジ君は、お前のおいやないか、可愛くないとか?」
 「あんまり可愛くもないね」
 「しょうがないのう」
 結局、夫は、再び電話をする羽目になってしまったが、確か電話はつながったままの筈である。それでも、携帯をいじり回して、又かけ直したようにある。
 「もしもし、ああケンジ君、今日は泊まってもらいたかったけど、急に娘の一家が、大勢で帰って来る事になってねえ、すまんねえ、又今度、ゆっくり泊まりに来たらいい」
 恐らく、電話の向こうでケンジ君が、絶対に行くもんか、と思っているに違いない。

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