福岡県筑豊、田川のタクシーおもしろ話、田中有二

色んな人と出会います。人生の参考になればいいですが

おもしろ話

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大蛇伝説

 この時期、田舎の方を走っていると、よくヘビが道を横切っている。
 車のエンジン音を聞いて、慌てて横切る姿はこっけいでもある。
 ある日、農家のばあちゃんを乗せて走っていると、案の定、大きなシマヘビが前を横切って行った。
 「大きくて長い奴やったねえ」
 と、言うと、
 「あたしゃ、もっと大きな奴を見たばい」
 「どれ位の?」
 「太さはこれ位あったかねえ」
 と、手で直径10センチ程の輪を作って見せた。
 「そんな大きな奴が」
 「ああ、こないだの夕方、田んぼのあぜ道を歩いていたら、道をふさぐようにして、真っ黒い奴がおったんたい」
 「そりゃあ、田んぼに水を引くポンプのホースやろう」
 「ホースが動いたりするかね?」
 「水が流れるから、ホースも揺れるよ」
 「いいや、横にスーッと動いたんばい。あたしゃたまがってしもうて、とうちゃんと見に行ったけど、もうそこには何もおらんで、『お前、寝ぼけとるんと違うか』と言われたけど、確かにあそこにおったんばい、大きな真っ黒い奴が」
 一体何だったのだろうか、誰かが飼っていたニシキヘビを逃がしたにしては、真っ黒と言うからそれも違うだろう。
 それを聞いて、30年ほど前の、山陽新幹線、新倉敷駅の工事に携わって頃の、不思議な出来事を思い出した。
 当時、近所の農家の人が、人夫として何人も働いていたが、その中に、特に仕事熱心な、真面目で大人しい60才程の人がいた。
 その人とは気が合ったので、よく家に飲みに行ったり、夕飯をよばれにいったりしていた。
 ところが、仕事好きなその人が、パッタリ現場に出て来なくなったので、他の仲間の人に聞いてみると、何でも、近くの竜王山と言う山に、山菜採りに行って、ボッケイ大蛇に出くわして、ショックの余り寝込んでいると言う。
 そこで、休日に何人かで、お見舞いがてら家を訪ねてみると、その人は、寝込みこそしてなかったが、ゲソッとほおがこけていた。
 「あれ以来、めしが喉を通らんでねえ」
 聞くところによると、山道を登っていると、道の端に、大きな直径30センチはあろうかと言う木が、枯葉をかぶって転がっていたので、おあつらいむきと、それに腰掛けて一服し、タバコの火を、その木に押し付けてもみ消していたら、その座っていた木が、ズズズーッと動いたらしい。
 もうびっくりし、転がるようにして山を下って来たと言う。
 「そりゃあ、あんたが座った重みで滑ったんやろう」
 「いいや、木が上に向かって滑るかね。そりゃあボッケイ大蛇やった」
 そこで、
 「もう二度とあの山には登らんぞ」
 と、言うのに、無理やりその場所に案内させるが、確かに、何か太いものを引きずった様な跡が、山道から谷の方へと続いていた。
 折りしもその頃、広島の比婆山系に、ヒバゴンと言う原始人が現れた、と騒がれていたが、その真意はともかくとして、こちらの大蛇の方は、真面目な人が言っているだけに、真実味があった。

大蔵大臣

 数ヶ月前の姿が嘘の様に、見違える程きれいになったばあちゃんがいる。
 ついこないだまでは、白髪交じりの長い髪を後ろで束ね、いつ見てもヨレヨレの服を着ていたのに、今では、パーマをかけた髪を栗色に染め、まるで外国の観光客みたいな派手な格好をして、薄っすら化粧すらしている。
 「あのばあさん、きっと恋をしよるんや」
 「女が美しくなるのは、好きな男が出来た時やからな」
 と、みんなが噂する様な変わり様である。
 そして、今まで滅多にタクシーには乗らなかったのに、ひんぱんに利用する様になり、近場の温泉センター巡りを始めた。
 こないだまでは、みすぼらしい格好をして、肩から斜めにバッグを下げたじいちゃんの後ろを、車を引きながら付いて歩いていたのに、そのじいちゃんが、ポックリ逝ったとたんに、この変わり身である。
 と言うのも、それまでしっかり財布のヒモを握っていたのは、そのじいちゃんで、たまにタクシーに乗って、二人で病院に行っても、お金を払うのはじいちゃんで、年金を下ろしに銀行に行くのも、やっぱりじいちゃんであった。
 その大蔵大臣、今で言う財務大臣がいなくなったので、じいちゃんがケチケチ貯めたお金がそっくり残り、しかも子供はいないし、ばあちゃんにすれば、これからが我が世の春である。
 これから先も、じいちゃんの遺族年金は入るわ、自分の年金はあるわで、当分お金に困る事はない。
 あのじいちゃんと一緒になって今まで、一度もお金を自由に使ったことがないのであろう、やっと、お金を自由に使える喜びを知ったようで、その反動で使いまくっているのである。
 今のところ、男の影はないみたいだが、これから先、金目当ての変な男に引っかからない様に、願うばかりである。

心ない奴

 若い頃に、炭坑に勤めていて、落盤事故にあい、それ以来、車椅子の生活になった七十歳そこそこの人がいる。
 今は、妹さんと二人で暮らしているが、唯一の楽しみと言えば、公営ギャンブルである。
 その日も、オートレース場に乗せて行ったが、最終レースが終わると、いつも混雑するので、一つ前のレースが終わる頃に迎えに来てくれ、と気を使ってくれる優しい人である。
 「今日は、一発狙い目があるけんねえ」
 と、すこぶる機嫌が良かった。
 折角オートレース場に来たので、前売券を買って、戻って来ると、車椅子に乗ったその人は、真っ赤な顔をして、初老の男と言い争いをしていた。
 急いで行ってみると、相手の男が、丁度こんな捨てゼリフを残して、去って行くところであった。
 「まあいいけどな、もう直ぐ俺も、年金を貰えるようになるから」
 「きさまなんかに、俺の気持ちが分かるかっ」
 と、その男の後姿に罵声を浴びせていたが、薄ら笑いさえ浮かべて去って行った。
 「どうしたんね?」
 と、声をかけると、興奮冷めあらぬ顔で、
 「今日はもう帰ろう、気分が悪うなった」
 「もう帰るって、狙い目があるって言ってたから、それだけでも前売りを買って帰ったら」
 「いいや、こんな気持ちじゃ、どうせ当たらんやろう」
 結局、1レースも遊ばないまま、帰ることになった。
 帰り車中、そっと聞いてみた。
 「一体何があったんね?」
 「あいつは、昔うちの近所に住んでた男やが、こともあろうに、こんな事を抜かしやがった。『あんたはいいなあ、何もせんでも、障害年金が入って来るし、ほんとうらやましいわ。障害の何級か知らんけど、その体ならだいぶん貰いよるやろう。変われるもんなら、変わってもらいたいわ』」
 「とんでもない奴やねえ」
 「こっちが、変われるもんなら、変わってもらいたいわい。誰が好き好んでこんな体になるか。金なんか一円もいらん、元の体にして欲しいわい」
 目には、もう口惜し涙さえ浮かべていた。
 この人も、あんな事故にあわなければ、もっと違った人生を歩んで来たに違いないのに、心ない奴がいたものである。

仏さん

 よく窮地に陥った人が、いよいよニッチもサッチもいかなくなると、「神も仏もないものか」と言ったりするが、神はどうだか知らないが、確かに仏があるのは、ごく最近分かった。
 前日葬儀を終えた家から、姉妹らしきばあちゃん二人と、それぞれの娘さんらしき中年の女性二人を乗せた。
 行き先は、新幹線の小倉駅で、空はあいにくの天気で、雨が降り始めていた。
 見送りに出た家族、見送られる四人、双方が大粒の涙を流して別れを惜しみ、久しぶりに会ったのは歴然で、これから先、会う事もなさそうな雰囲気であった。
 葬式でもない限り、寄り集まる事もないし、今度会うのは、言ってはなんだけど、どちらかのばあちゃんが亡くなった時だろう。
 「元気でね、又遊びに来てよ」
 「あんたらも、元気でね。東京の方に出て来た時には、必ずうちに寄ってよ」
 別れを惜しむ双方を、無情にも引き離す様に、激しい雨が降り始め、見送る方も家に入らざるを得なくなり、車は走り出した。
 もう雨は、まるでバケツをひっくり返した様に激しくなり、ワイパーを強にしても、前方が見えにくい状態で、おまけに雷まで鳴り出した。
 「あのう、運転手さん、途中で参りたいお墓があるんですが、そちらの方に回ってくれませんか」
 「はあ、どちらの方ですか」
 「赤村です」
 「でも、この天気で、お墓参りが出来るかどうか」
 「参られない時には、車の中から参りますから」
 赤村に入り、いよいよお墓のある山を登っている時でも、雨と雷は激しさを増すばかりであった。
 ばあちゃんは、恨めしそうに空を見上げて、
 「仏さんには失礼かも知れんけど、車の中から参らせてもらおう。こんな天気だし、仏さんも分かってくれるよ」
 そして、こじんまりとした墓地の横に、車を停めたとたん、不思議や不思議、あれだけ激しく振っていた雨が、まるで嘘の様にあがり、ちょっと足元は悪かったが、四人は、雨に濡れる事もなく、お墓参りをする事が出来た。
 四人を乗せて走り出すと、まるでそれを待っていたかの様に、再び激しい雨と雷の合唱が始まった。
 「もう二度と来る事もなかろうから、本家のお墓も参って行こう」
 案の定、車が走っている時には、激しい雨が降って、雷まで鳴っているのに、四人がお墓を参っている時には、嘘のように雨が止むのである。
 それには、四人も気が付いた様で、
 「不思議な事があるもんやねえ、まるで仏さんが何処からか見ているみたいや」
 「参ってくれてる間だけ、雨と雷を止めてくれてるんやろう」
 しかし、ひねくれものの俺は、最初雨が止んでたのは、たまたま雲の切れ間にさしかかっただけで、二度目も偶然そうなっただけ、としか思ってなかった。
 「折角ここまで来たんやから、昔大そう世話になった先生のお墓も参って行こう」
 学校の先生だか、お医者さんだか、政治家先生だかは知らないが、激しい雨の中走りながら、こんな事を思っていた。
 “まさかそんな事はあるまいが、今度先生の墓を参っている時に、この激しい雨と雷が止んでいたら、
仏さんの仕業と信じてやろう”
 ところが、車が先生のお墓の前に着くや、ピタリと雨と雷は止んで、薄日すら射して来た。
 四人は、
 「なんまいだ、仏さんのお陰や」
 と、口々に言いながら、感極まった様子であったが、びっくりしたのは、こちらも同じで、こんな事なら、四人と一緒になって、お墓を参ってやり、ドサクサにまぎれて、
 “宝くじを当ててくれ”
 とでも、お願いすればよかった。やっぱり、そんないじましい根性の者に、当たる訳がないか。

赤チン

 まだ今みたいに、飲酒運転の取締りが厳しくない頃の話である。
 「歩く時は、前が重たくて、どうしても前かがみになってしまう」
 と、いつも自慢気に言っていた、体は小さいのに、ナニが大きなM君と言う同僚がいた。
 通リをはさんで、西側に美容院のあんちゃん、東側に不動産屋のおやじ、この人はもう亡くなったが、亡くなった時に、「勿体ない、保存しようか」と言う話が出たくらい、立派なモノを持っていた。
 この二人が、東西の横綱なら、さしずめM君は、張り出し横綱と言ったところだろう。
 このM君、自信があるだけに、サウナに行っても、銭湯に行っても、決して隠そうとはしなかった。
 ある時、一緒にサウナに言った時、全身入れ墨のやくざの親分が、バスタオルの上で大の字になって、若い者二人に体を拭かせていたが、その前をM君が横切ったからたまらない。
 親分は、思わず半身を起こして、大声を張り上げた。
 「おいこらっ、きさん、一人でそんなにいるまいが、半分置いて行け」
 丁度、太くて長めの、黒光りするイチジュクが、下がっているようなものである。
 そんなM君と共に、古鉄商をする、在日韓国人の一家と、韓国から来た親戚の家族を乗せて、タクシー3台で別府に行った事がある。
 行きがけは、由布院を巡りながら、別府のホテルに着くと、古鉄商のおやじさんが、
 「明日も、あちこち巡りながら帰るから、明日の朝、迎えに来てくれんやろうか」
 しかし、また迎えに来るとなると、よっぽど早朝に出て来なくてはならないので、
 「帰ってまた出て来るよりも、サウナか何処かで一夜を明かそう」
 と言う事になって、その旨を会社に連絡すると、M君が、
 「折角別府に来たんやから、シャンとした旅館に泊まって、美味しい魚でも食べようや」
 「その代わり、朝にはシャンと起きなばい」
 「分かっちょるたい、なんぼ飲んでも、朝にはさめちょるたい」
 そしてその夜は、旅館に入り、3人でショボい宴会である。
 M君は、ガボガボと日本酒、ビールをあおり、あげくは、大の字になって眠ってしまった。
 そのはだけたユカタの間からは、トランクスからはみ出した例のモノを、これみよがしに見せ付けていた。
 「太かばい、こりゃあ人間の持ち物やない、馬も頭を下げるたい」
 「こいつが横綱なら、俺たちは、序の口かふんどしかつぎばい」
 「しかし、太けりゃいいってもんやないばい」
 しばらく、口惜しそうに眺めていたが、テレビの横に救急箱があって、中に傷に付ける赤チンが入っていたので、ついいたずら心が起こってしまった。
 じんわりとM君のトランクスを下ろし、黒光りする例のモノに、二人でクスクス笑いをこらえながら、赤チンを塗っていった。
 M君は、気持ちがいいのか、何度も嬉しそうに体を動かして、目を覚ましそうになるが、何とか、赤いイチジュクを完成させる事が出来た。
 今度はお盆で風を送り、乾燥した頃合いを見計らって、じんわりとトランクスを元に戻した。
 翌朝、トイレからM君の悲鳴が轟き、青白い顔で部屋に戻って来たのは言うまでもない。
 「どうした?」
 「ムスコが真っ赤っかになっとる」
 「そりゃあ赤チン病かも知れんなあ。二、三日したら、根元からポロリともげるぞ」
 「ちょっと、勘弁してよ」
 M君、今にも泣き出しそうな顔をしていた。


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