福岡県筑豊、田川のタクシーおもしろ話、田中有二

色んな人と出会います。人生の参考になればいいですが

おもしろ話

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ブレイボーイ

 とある団地に迎えに行くと、八十過ぎのばあちゃんが、膝をかばいながら出て来て、いかにも膝が痛そうに、思いっきり顔をしかめて乗り込んだ。
 「〇〇町で、もう一人乗るけん、そっちの方に回って」
 次に向かったのは、こじんまりとした一戸建ての家で、その玄関先でクラクションを鳴らすと、七十半ばの背のスラリと高いじいちゃんが出て来た。
 そのじいちゃんが、タクシーに乗り込もうとすると、窓から鋭い目付きで見ていたばあちゃんが、
 「あんたっ、何処に行くと?」
 「〇中整形外科たい。一人で行くよりも、二人で行って、割り勘にした方が安上がりやろうが」
 すると、ばあちゃんはこう言った。
 「ちょっと待って、わたしも行くけん」
 「何しにや?」
 「わたしも、急に膝が痛とうなったたい」
 「お前、きのうの晩こそ、『わたしの膝は、誰よりも丈夫に出来てるから、今までいっぺんも痛とうなった事がない』と自慢してたやないか」
 「きのうまでそうやったけど、今急に痛とうなったんやから、仕方なかろうもん。あんた、わたしが行ったら、都合悪い事でもあると?」
 「そんなもんあるかっ」
 結局、奥さんであるばあちゃんも乗り込み、三人で、整形外科へと向かった。
 このスラリと背の高いじいちゃんは、聞くところによると、その昔、長身と二枚目の顔を武器に、何人もの女性を泣かせたプレイボーイだったらしい。
 だから、奥さんであるばあちゃんは、昔みたいに浮気をされては大変と、付いて行く気になったのだろう。
 それにしても、ヤキモチを焼く方も焼かれる方も、元気なもので若々しく見える。
 後日、そのばあちゃんを乗せた時に、
 「あんな男前でモテモテの、プレイポーイの亭主を持つと、心配で大変やねえ?」
 すると、ばあちゃんはこう答えた。
 「何がプレイボーイなもんか、若い頃から、わたしに無礼な事ばかりしやがって、ぶれいボーイたい」
 恐らく、若い頃から今まで、泣かされっぱなしだったのだろう。

母の涙

 夕方、とある農家から乗せた初老のおやじが、しみじみと語った。
 「やっぱり、人間には魂があるんやなあ。こないだわしは、不思議なものを見せてもろうたばい」
 その話は、少々出来すぎた気がしないでもないが、素朴で正直そうなおやじに免じて、信用してやる事にした。
 おやじが、夜遅くに、その家のばあちゃんが亡くなったと聞いて、急いで駆けつけると、ばあちゃんは、未だ布団に寝かされて、白い布を顔にかけられていたと言う。
 翌日が通夜で、その次の日が葬式らしい。
 おやじが、仏さんに線香を上げている後ろでは、丁度戦いの真っ最中で、おやじの事なんか眼中にないかの如く、激しく兄弟で言い争っていたらしい。
 酒が入っているせいもあって、ばあちゃんの息子二人と娘一人対、末の娘との激しい戦いであった。
 嫁にも行かず、最後まで母親の面倒を見たのは、末の娘で、その娘が、
 「私には、何処にも行く所がないし、ずっと母さんの面倒を見たのだから、私にこの家を貰う権利があるからね」
 と主張し、残る三人の言い分はこうである。
 「わしらには、都会に建てた家があるし、この家は、お前にくれてやるから、それに見合った現金を、わしら三人にくれろ」
 「そんな事言われても、私には、一円も現金はないよ」
 「そんなら、家の土地を少し売るとか、方法はいくらでもあるやろうが」
 「こんな狭い土地、どうやって切り売りするかね」
 「じゃあ、家も土地も売ってしもうて、その金を四人で平等に分けて、お前はアパートにでも住め」
 おやじは、線香は上げたし、帰ろうかとも思ったが、あまりに戦いが面白いので、もう少し成り行きを見守る事にした。
 あげくには、末の娘は大見得を切った。
 「家くらい私にくれててもいいやないの。私には子供もいないし、いずれこの家は、あんたらの子供のものになるんやから、欲の深い事を言いなんなやっ」
 すると、欲張り三兄弟も負けてない。
 「そんな先の事を言うな。わしらは、今すぐの金が欲しいんや」
 と、言い出す始末。
 そこへ、どこからともなく生暖かい風が吹き込んできて、母親の顔にかかった白い布が、ハラリと舞い落ちた。
 一同がそっちの方を見ると、閉じた母親の目から、一筋の涙が流れていたらしい。
 恐らく、兄弟のみにくい争いが悲しくて、泣いているのであろう。
 それを見た四兄弟は、心を洗われた様な気分になったのか、ピタリと争うのをやめてしまったと言う。
 しかし、人間なんてもろいもので、一段落着くと、再びみにくい争いをおっ始めたらしい。

孫娘

 いわゆる老人病院と呼ばれる病院の、玄関脇にある駐車場にタクシーを停めて、乗せて来たお客さんが、用事を済ませて出て来るのを待っていた。
 すると、すごいスピードで軽乗用車がやってきて、横の空いたスペースに滑り込んで来た。
 普通、駐車場に車を停めるなら、後で出やすい様に、尻から入れて停めるものだが、頭から入れるところから見て、ドライバーはよっぽどせっかちなんだろう。
 こっちが尻から入れているので、丁度相手の運転席が真横に来る形になった。
 見ると、未だ二十歳そこそこの可愛い女の子で、助手席には、母親らしき人が乗っていた。
 母親は、車から降りると、後部座席に乗せていた、紙おむつや着替えの入った袋を、両手に下げて、何度も落としそうになりながら、病院の中へと入って行った。
 その間、可愛い娘は、母親の方を見るでもなく、ひたすら携帯でメールを打っていた。
 「こらっ、ボーッとしてないで、お前も荷物を運ぶのを手伝ってやらんか」
 と、よっぽど言ってやりたかったが、
 「大きなお世話だ」
 と、言われそうだったので、心のずーと奥にしまっておく事にした。
 ここに入院しているのが、ジイちゃんだかバアちゃんだか知らないが、折角ここまで来ているのなら、母親と一緒に荷物を持って行き、ちょっと顔を見てきてやればいいのに、それすら面倒臭いのであろう。
 恐らく、小さい頃には、目に入れても痛くないほど、可愛がって貰っただろうし、お年玉や小遣いもたんまり貰っただろうに、薄情なものである。
 「おい、ジイちゃんかバアちゃんか知らんけど、お前も降りて、ちょっと顔を見せてきてやれ」
 と、目で語りかけると、チラッとこちらを見て、やっと分かってくれたのか、直ぐに携帯電話をかけ始めた。
 そして、相手が出るなり、大声で怒鳴り散らした。
 「あんたっ、いつまで待たせるとねっ。もうおいて帰るばいっ」
 程なくして、母親が、あたふたと出て来たのは言うまでもない。
 まあこんな孫娘でも、考えようによっては、ここに母親を乗せて来てやるだけマシな方で、本当にどうしようもない孫なら、母親を乗せて来もしないだろう。
 
 

洗わん大王二世

 都会の大きなタクシー会社には、自動洗車機があるだろうが、田舎の方では、いまだに手洗いだから、冬の寒い日なんかに洗車するのは、寒いのなんの。
 先代の洗わん大王は、洗車も掃除もしなくって、足元に一センチ程砂がたまっていたが、未だその域にまで達していないが、車を洗う時間があったら、走っているか、寝ていた方がいいと言う、洗車嫌いの洗わん大王二世がいる。
 ハンカチ王子や、はにかみ王子には似ても似つかないが、さしずめ、洗わん王子と言ったところだろう。
 数日前の夜の九時頃、みんなが、車庫に車を入れて、ぼちぼち上がろうかとしている時に、パラパラと雨が降り出した。
 すると、洗わん王子の目がらんらんと輝き、
 「やったあっ、天然の自動洗車機やっ」
 と叫んで、事務所を飛び出して行き、折角入れた車を、再び外に出して、
 「これで、朝出て来た時には、きれいになっているだろう」
 と、車を外に出したまま、とっと自家用車で帰ってしまった。
 確かに、乾燥してホコリをかぶった車を、激しい夕立なんかに打たせると、きれいにホコリが落ちて、まるで洗車したみたいになるものだ。
 これは名案だと思いつつ、折角入れた車を、雨に濡れてまで出すのは面倒くさいから、そのままにして帰った。
 翌朝、会社に来てみると、雨は上がっていたものの、屋根の下に入れてて正解だったようで、外に出して、一晩中黄砂まじりの雨に打たれた王子の車だけ、泥の波模様が入って、しかも車体が黒いだけに、目立つのなんの。
 馴染みのお客さんには、
 「あんた、今日から車を乗り換えたんかね」
 と、からかわれるし、所長には、
 「お客さんを乗せるんやから、きれいにしとかんか」
 と、怒られるし、みんなには笑われるし、踏んだり蹴ったりである。
 洗わん王子は、しばらく曇った空を見上げて、洗うのを渋っていたが、やっと晴れ間が見えてきたので、久しぶりにきれいに洗って、おまけにタオルで拭き上げ始めた。
 ところが、天の神様は、何処からか見ているのか、洗わん王子が拭き終わるのを見届けてから、再び黄砂まじりの汚い雨を降らせ始めた。
 みんなは、面白がって大笑いしたが、人の事は笑えぬもので、バチが当たったのか、雨の中を走った全員の車が、同じ様に泥まみれになったしまった。
 その日は、一日中雨だったので、全員が汚れたまま走り、翌朝に洗おうとしたものの、未だ空模様が怪しかったので、ちゅうちょしていると、やっぱり激しい雨が降り始めた。
 そこで、車庫に車を入れていた洗わん王子に、
 「天然の洗車機が動き始めたぞ。外に出さんのか?」
 と、言ってやると、
 「冗談やないばい。もうきのうで懲りたたい」
 と、テコでも動こうとはしなかった。
 ところが、雨が上がって乾いてみると、今日は、黄砂のまじっていない、比較的きれいな雨が降ったのか、外に出していた俺の車は、先日の黄砂がすっかり洗い流されて、まるで洗車したみたいに美しくなっていた。
 それを見て、洗わん王子が、くやしそうに言った。
 「くそおっ、俺も外に出しとけば良かった。又降ってくれんかのう。百円やるとに」
 ちょっと、百円の意味が分からない。 

ポカリ

 夕方、通夜の行われている斎場に、お客さんを迎えに行くと、中年の男性二人が乗って来た。
 タクシーに乗り込むなり、一人が堰を切ったように笑い始め、もう一人がいぶかしがっていると、こんな事を言った。
 「不謹慎かも知れんけど、通夜の間中、祭壇の写真を見て、今にも吹きだしそうになるのを、じっとこらえていたんや。写真やから我慢出来たけど、本物を見たら、絶対に吹き出したやろうな」
 そこまで言うのだから、よっぽど面白い顔だろうから、ちょっと見てみたくなったので、
 「ちょっと待っててね」
 と、中に入って、祭壇の遺影を見せてもらったが、故人は、かなり高齢のじいちゃんだが、見て思わず吹き出すような顔ではなく、むしろ男前の方であった。
 車は走り出したものの、何がそんなに面白いのか、どうも気になって仕方なかったが、やっと、もう一人が理由を聞いてくれた。
 「何がそんなに面白いとか?」
 「まあ聞いてくれ。きのう、急に容態がおかしくなったと言うので、急いで家に行ってみると、丁度医者が来て大騒動している時やったが、色々お世話になった人やから、帰るに帰られんようになって、臨終の場に立ち会う事になったんや」
 「それがおかしいか?」
 さすがは長生きした人だけに、家で家族に看取られて逝くなんて、今時珍しいからおかしいのか、ところがそうではなかった。
 その人の話を要約すると、布団のグルリに座った、五、六人の家族に見守られながら、医師が脈を取って、胸に聴診器を当てていると、じいちゃんは、体を大きく海老反らせてから、ガクッと首を横に落としたらしい。臨終の瞬間である。
 ばあちゃんが、
 「あんたっ」
 と、叫んで、じいちゃんの胸の所に泣き崩れると、じいちゃんが、こぶしでポカリとばあちゃんの頭を叩いて、
 「わしゃあ、未だ死んどらん」
 と、言ったらしい。
 そして、程なくして息を引き取り、くだんの男性は、いたたまれなくなって表に飛び出し、映画やドラマでは、大声で泣く場面であるが、大声を出して笑ったそうである。
 そして、降りる間際に、こんな事を言っていた。
 「俺は、明日の葬式には出らんぞ。かあちゃんに行ってもらうぞ。もし遺族の誰かに、『最後のお別れに顔を見てやって下さい』なんて言われて、お棺の中の顔を見たら最後、絶対に吹き出すやろうから」
 きっと、その話を聞かされるであろうかあちゃんが、お棺の中の顔を見て、その時の事を思い出して、プッと吹き出さなければいいがと、それだけが心配である。本当は吹き出して欲しい気もするが。
  


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