夕闇千鳥のお勉強日記

生物学、心理学などを中心に・・・

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魚など水の中で生きる生き物にとっては水。 私たちなど陸上に生きる生き物にとっては空気。 それぞれを伝わる振動は通常「」として感じられます。 私たち生き物には、こうした周囲の振動を感じ取るための特別なセンサーがあるからです。

水中で生きる魚にとっては、水の振動(=水中の音)のセンサーは比較的簡単でした。 水は非常に音(振動)を通しやすいですし、魚の身体の密度はほとんど水と同じなので、音波はそのまま魚の身体にダイレクトに入ってきます。

魚には、側線 lateral line systemと、内耳 inner earという2つの「水の振動を感じるセンサー」があります。
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魚屋さんにいって魚の身体を見ると、横にうすいラインが頭の方から尻尾の方まで、ほぼ一直線にはいっているのに気づくと思います。 これが側線 lateral lineです。

この側線の内側には、そのまま外界の水と交通している管があり、その中に有毛細胞が突き出ています。

この有毛細胞には、「有毛」というだけあって、いくつかの線毛が突き出ていて、それらはゼラチン質のキャップでおおわれています。 ここに水の振動が来ると、線毛が揺れて、この物理的な刺激によって神経細胞が興奮します。 こうして、魚の側面からやってくる水圧の変化や振動を感知しているのです。

これとはまた別に、魚には内耳 inner earがあります。 (魚は水の中で暮らしているため、陸上の動物にあるような空気→水の振動変換システムである外耳や中耳がいらないのです。)

外海からやってきた水の振動(=音波)は、そのまま魚の身体を通り抜け、この内耳にやってきます。

内耳には、さきほどの側線にあったのと同じような有毛細胞があり、この有毛細胞の線毛が揺れることで神経が興奮するようにできています。 内耳には、音波をとらえやすくするために、耳石 otolithというカルシウムの小さなかたまりがあり、音波がやってきたときに有毛細胞は音波でゆれるのに、耳石は岩のように動かないことによって、そこにできる「ズレ」を有毛細胞が感知して、神経の興奮につなげる・・・というわけです。

進化の過程で、もともと有毛細胞+カルシウムの小さな石という組み合わせは平衡感覚を感じ取るために使われていました。(クラゲとかにもある、ごくごく簡単な平衡感覚のシステムです。) これを、「水の振動=音波」を感じ取るために流用した、という感じです。 このため、詳しいことは後でやりますが、音の感覚と平衡感覚は、魚以上のほとんどすべての動物たちで同じ「内耳」で感じ取られることになっているのです。


陸の上で暮らしている、私たち人間ではどうなっているか?

空気と水ではあまりに密度が違い過ぎるので、そのままでは音波は伝わっていきません。 水の中をやってきた音波は空気中に出て行きませんし、空気の中を伝わってきた音波は水の中に入っていかないのです。 そのままでは、ほとんどが反射されてしまうのです。

そこで、空気の振動を集めて、水の振動に変換する仕組みとして外耳・中耳があります
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空気の振動である音波は、そのまま外耳道 external acoustic meatus, auditory canalを通って、その行き止まりにある「鼓膜 tympanic membrane」にぶつかります。

鼓膜 tympanic membraneは、ぴんと張った膜なので、音波はそのまま鼓膜を振動させます。

すると、その振動は3つの耳小骨 ossicles(つち骨、きぬた骨、あぶみ骨、というものすごく小さな骨)を機械のレバーのように次々に動かします。 このレバーによって、振動の幅は減るのですが、その分力強くなりますので、空気よりも動かしにくい水を動かす力をつけることができます。

そのうえ、あぶみ骨が最終的に接している「水」の世界への入り口=蝸牛 cochleaの卵円窓 oval windowは、その直径が鼓膜よりもだいぶ小さいということがあって、なおさら強い力で空気の世界の振動を、水の世界の振動に伝えることができる、というわけなのです。

(つまり、言い方をかえると、より効率よく振動を伝えるために、ここでインピーダンス整合を行っている、ということになります。 物理に強い人には、この方が通じやすいかもしれません。)

この鼓膜から先の耳小骨でできた小さな「機械室」のことを「中耳 middle ear」と呼びます。 中耳は、その圧力を外気圧とほぼ同じにするために口の中に通じる管があり、これが耳管=ユースタキー管 Eustachian tubeといいます。

蝸牛 cochleaの卵円窓から先の「水の世界」のことを「内耳 inner ear」と呼びます。

蝸牛卵円窓に伝えられた圧力は、蝸牛の中の「水の世界」を通って、すぐその下にある正円窓 round windowから出てきます。
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この蝸牛の中に通る「水の世界」は、行きが卵円窓から「前庭階 scala vestibuli」、帰りが「鼓室階 scala tympani」から正円窓・・・ということになります。 「前庭階」と「鼓室階」の間は「基底膜 basilar membrane」によって仕切られています。 (本当は、前庭階と鼓室階の2階層構造ではなく、もう1つさらに薄い膜によって前庭階は、さらに本当の前庭階と「中央階 scala media」というものに分かれており、3階層構造になっています。 が、この話はこの後でコルチ器のことをお話しするときにしますし、音響的には「前庭階」と「鼓室階」の2階構造と考えて問題ないので、まずはそんなふうにお話ししていきます。)

この基底膜 basilar membraneの中を弾性力のある線維が弦のように横方向に走っています。 この弦のような線維は、蝸牛の入り口の根本付近では太く短く、蝸牛のてっぺんの奥の方に行くと細く長くなっています。 弦楽器をイメージすればお分かりのように、太く短い弦のある蝸牛の入り口付近は高い音に共鳴し、細く長い弦のある蝸牛の奥の方は低い音に共鳴することになります。

そして、この共鳴している弦の振動を感じ取り、神経の興奮に変換する有毛細胞がいて、これが「聴覚」の情報を聴覚の神経である蝸牛神経 cochlear nerve=第VIII脳神経に伝えていくわけです。

こうして、音の高低によって振動する場所=興奮する場所が違う水の振動センサー・・・、というヒトの内耳は、魚の内耳よりもずいぶん複雑に、より高性能にできているのです。



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千鳥先生『両生類やは虫類の中耳では、耳小骨はあぶみ骨 stapesしかないんだ。 これがほ乳類になって進化の過程の中で、もともとは下顎の骨の一部だったものが、どんどん小さく、耳の中に入りこむ感じになって、つち骨、きぬた骨になっていったんだ。
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だから、人間の発生の過程で、つち骨ときぬた骨は、下顎と同じ軟骨から派生してくるんだ。』
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光圀『こうやって、中耳はどんどん複雑になっちゃったんですね? 中耳って、子どもがよく病気になる「中耳炎」の中耳ですよね?』

千鳥先生『ああ、子どもの中耳は未発達で、病気になりやすいからな。 中耳は耳小骨の収められた機械室みたいなもんなんだが、その内部の圧力を外気圧と同じにするために耳管というのが中耳と口の中をつないでいる。 子どもでは、この耳管の口の中への開口部が未発達すぎて、口の中が風邪とかで炎症を起こすと、すぐにつまっちゃうんだ。 そうでなくても、子どもは耳管が未発達なために、ちょっとした気圧の変化で(列車がトンネルに入るとか、飛行機に乗るとか)すぐに耳が痛くなってしまう。 鼓膜をはさんで、内側と外側で気圧が違うと、鼓膜がひっぱられることになるから、そりゃあ、痛いよな。 聞こえも悪くなるし。』

光圀『耳小骨のレバー系が一番よく動くように、鼓膜はちょうど良い具合に張っていないといけないんですね?』

千鳥先生『そうだな。 耳小骨は、すんごく小さいのだが、その動きを微調節する筋肉もくっついている。 もう精密機械だな。 
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これによって、例えば鼓膜に当たる音が大きすぎるときは、耳小骨が(特にノイズでしかない低い音で)動きすぎないように適度に筋肉を収縮させて、最終的に内耳に入る音の振動具合を調節しているんだ。』
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灰泥『すべては「空気の世界」の振動=音を、「水の世界」にある、蝸牛の中のリンパ液を振動させるためのカラクリ、インピーダンス整合のための仕組みだったのね。』

千鳥先生『そう、その水の世界で、どのように水の振動が感覚神経の興奮に変換されるのか? そして、どのように「聴覚」になっていくのか? ということをこの後で見ていくがな。』






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先生、ありがとうございます。

何度も上下スクロールしながら熟読しました。

なるほど、なるほど!!
つち骨 きぬた骨はもともと下顎の骨ですか!
そして、中耳と口が繋がっている。それで味覚に影響が出たのですね。

そう、確かに中耳の手術でした。真珠腫性中耳炎でして。この記事にあるような図を使い、医師から丁寧な説明を受けたのですが、耳と舌の繋がりがイマイチよくわからなかったのです。
「まぁ、耳&鼻&口は繋がってるもんね…」とは思いましたが、素人はそこで思考停止(笑)
これでようやく謎が解けました!

視神経のお話もあわせて『脳がイメージを補正してしまう』というのも、興味深いです。

それにしても、耳小骨の名前は面白いですね。



空気の世界
水の世界

なるほどー!

2015/7/12(日) 午後 9:36 [ ポポロン ] 返信する

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