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その日オイラは仕事で時間に追われて焦っていた。 汗をダラダラかきながら電車に乗り込んだ。 乗り込んだ車両は平日の昼間ということもあり それほど混んでいない。 乗車率は70%程度だっただろう。 ハンカチで額の汗を拭って、つり革につかまり 車内吊り広告なんかを漫然と眺めていた。 すると、なんとなく視線を感じた。 感じた方向に目をやると人間一人分くらい空いた斜め前の位置に 30代前半と思しき女性がオイラの事を訝しげに見ている。 それこそ遠慮の無い視線を向けていた。 (なんなんだこの人は?) オイラはその女性をチラ見して目線を外した。 しかし、その視線は容赦なくまだオイラを捕らえている。 (・・・なんだろうな、この女の人は・・・) オイラはいささかイラつき、その女性を睨み返した。 だがその瞬間、『あ・・・もしや・・・』 あることが頭をよぎったのだ。 周囲を一瞥、いや注意深く見渡した。 ・・・・女性ばかりだ・・・・・ 予感は的中した! 扉の上部にピンクの文字でデカデカと掲げられているではないか。 (ああ、やっちまった!焦ってたから確認せずに飛び乗ってしまったんだ) 日本ではいくつかの都市部、乗降客数の多い路線に 鉄道会社で設けた「女性専用車両」というものが存在する。 もちろんオイラの故郷になどそんなものは無い。 混雑時に乗車率が200%以上にも達するような 都市部の路線のみ施行されているシステムであろう。 実はこの「女性専用車両」は鉄道が誕生した明治の時代にすでに あったという。その頃の実施理由は「男女が狭い箱の中に一緒に入る事は不謹慎」という 時代的背景が成したことで、現代の実施理由と若干ニュアンスが違っていた。 それから「廃止、実施〜」を繰り返し、昭和40年代にようやく「痴漢行為」からの 防止策という考えの下再開し、また廃止。 そして2000年に入り現在の形に落ち着いたとのこと。 そして、この「女性専用車両」っていうのはやっかいなことに 規則化、法律化されていないから「乗る乗らない」は利用者の任意なのである。 つまり普段から「男性は乗ってはいけない」という意識が希薄だから ついウッカリ乗ってしまうのだ。 しかもそれを言及する女性もあまりいないし・・・ まぁ、「みなさん、なんとなく男女別れたい人はこれに従いましょう」的な ユル〜いものなのだ。 だが、そんな背景や理由があろうが 自分がやってしまったことを正当化するつもりもなく 隣の車両に即移動しようにも、そこまで車内は空いていない・・・ その睨んでいた女性に対し、顔を見ることも出来ず (早く次の駅に着いてくれ)と祈るのみだった。 いたたまれず周囲を見渡した。 他にもオイラに冷たい目線を送っている女性が山のようにいるんだろうなぁ、と 恐る恐る・・・ すると、他の女性はまーったくオイラに無関心。 本を読む中年女性、孫をあやすお婆ちゃん 音楽プレーヤーを聴く女子大生風、笑い合う女子高生、etc・・・ オイラを認識はしているようだが、まーったく関知しない様子なのだ あの女性以外は・・・ (まだ見ている・・・ああ、ごめんなさい、完全なるオイラの過失です) すると突然電車が急カーブ、車内の人の塊が揺れた 女性とオイラの距離が無くなり、ほぼ密接した状態になってしまった。 女性がオイラの顔を睨みながら、つり革に捕まらず下ろしている オイラの右手のありかを確認するように見る。 オイラは自分の下ろしている右手が、 女性の下半身に触れそうな状態なのを認識した! そしてオイラは瞬時に察したのだ。 (ヤバイ・・・この流れは・・・痴漢の・・・) 故意でなくても触れてしまったら、申し開きできない。 自分が触れてなくても誰かが触れて、その罪がオイラにかぶさり 「冤罪」になる可能性だって多分にある。 しかもこの女性はハナからオイラに嫌悪感を抱いていた。 (ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!・・・) すかさず、下ろしていた右手も、左手同様つり革に捕まらせ 「冤罪」の危機を回避したのだ。 また電車が揺れて、女性の体がオイラに当たった。 一秒が永遠に感じるって、こういうことなのだろう。 電車が駅に到着し、オイラは逃げるようにホームへ飛び出し 二つ隣の車両に飛び乗った。 後ろに女性の視線を感じながら・・・ オイラは騒がしい男子中学生の集団の近くで ボンヤリ考えていた。 他の女性たちがオイラに無関心なのと対比して考えるから 「過敏過ぎる」と思ってしまいがちだが あの女性は決して「過敏過ぎ」ではないのだ。 やはり「女性専用車両」に乗ってしまったオイラの100%過失である。 ひょっとしたら過去に「男性」もしくは「痴漢」などの 忌まわしい経験があるのかもしれない。 もしあの局面で、誰かの手が彼女の体に触れたとしたら・・・ そして最初から訝っていたオイラを「痴漢」と判断したら・・・ 周りの人たちは無関心、逆にオイラの行動を逐一見ていた人がいない分 「触っていない」ことを証明できる人もいないということだ。 そうなると被害に遭った彼女の証言だけが有効になる。 そして・・・冤罪の地獄へとオイラは落ちてゆく そう考えるとゾっとした。 体全体がブルブル震えた。 「女性専用車両」の在り方、規則化を問いたいわけではないのだが・・・ 雑誌の車内吊り広告の 真実をこの目で見ていない人が・・・ 法のスペシャリストではない一般の人間が 「人を裁く」ということ。 オイラが法廷の場で裁判員相手に 『それでもボクはやってない』と主張している場面・・・ そんな場面をボンヤリと想像した。
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