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先日、仕事相手との飲み会があった。
その仕事相手というのが、一流の会社で
まぁ、そこの社員さんはいわゆる「ジュニア」とか「2世」とか・・・
つまり、良い家柄出身だったり、
父親がどこかのお偉いさんだったり、と。
お金持ちの「お坊ちゃん集団」の社員さんたちなのだ。
だが、それほど社会性が欠如していて
こちらに不快感を持たせるほどのことはない・・・
ないのだが・・・・
若干、常識から逸脱している感は否めなかった。
やはり話をしていると、
オイラたち庶民と金銭感覚や、様々な面でズレが生じてくる。
「母親は会社の専務なので、乳母に育てられた」とか・・・
「ウチは通いのお手伝いさんが3人いた」とか・・・
「小学生の時のお小遣いが3万円だった」とか・・・
「幼稚園から大学まで一貫校だったから、友達がずっと一緒だった」とか・・・
「家の敷地内にテニスコートが二面あった」とか・・・
「プールはひとつしかなかった」とか・・・
こちら側が店をセッティングする立場だったので
最初は「高級店を」と、考えていたのだが、
向こう側の要望で
『そんなお店は勘弁してください。堅苦しく飲みたくないんです。
僕らだって普通の飲み屋で飲むことなんかいくらでもありますし、
むしろフランクな雰囲気で楽しみたい』と申し出てくれた。
庶民に気を遣ってくれたのか?
一回転して「高いところ」からモノをいっているのか?
穿った見方・解釈をすれば
そんな風にも取れるだろうが、
オイラたちは
『おお、意外といい人たちじゃないか!』と
その申し出を素直に受け入れ、庶民的な居酒屋をセッティングした。
そして宴が始まってからは
オイラたちの方がむしろ面白がって、
前述したような彼らのバブリーな生活ぶりを
わざと聞き出しては
『ほぅぅぅ』とか
『へぇ、スゴイですねぇ』とか
『うわぁ、うらやましい』などとリアクションし、楽しんでいた。
彼らの目の前に並んだ「居酒屋料理」。
恐らく、クチには合わないだろう。
だが、彼らは彼らで、こちらにも気を遣い
飲んで、食べて楽しんでいる風であった。
そして、面白かったのが・・・・
仕事相手の社員さんの中でも
一番歳の若い青年がいた。
その若い青年がある料理に食いついた。
青年が興味津々な顔つきで見つめている料理・・・・
価格「380円」
居酒屋メニューのお好み焼き。
多くのみなさんも、
この「お好み焼き」の味やクオリティは、概ね想像がつくだろう。
その青年は、こちら側の「お好み焼きの説明」を興味深く聞き
やがて、パクついた。
彼らの仲間は、その様を見て失笑する者もいれば
大笑いする者も、興味津々で見つめる者もいた。
オイラはこの青年の「居酒屋のお好み焼き」に感動しながら
パクついている様を見て・・・・
『あ・・・これは・・・“目黒のサンマ”じゃないか・・・』
そんな事をボンヤリと考えていた。
【目黒のサンマ】
ある江戸の殿様が目黒まで「鷹狩り」に出た際に、供が弁当を忘れてしまった。
一同腹をすかせているところに嗅いだことのない旨そうな匂いが漂ってきた。
殿様が何の匂いかを聞くと、
供は『この匂いは下衆庶民の食べる下衆魚、“サンマ”というものを焼く匂いです。
決して殿のお口に合う物ではございません』と言う。
殿様は『たわけ! こんなときにそんなことを言っていられるか!
その“サンマ”なるものを持ってこい!』と言い、
供にサンマを持ってこさせた。
食べてみると非常に美味しく、殿様はサンマが大好きになった。
それからというもの、殿様はサンマを食べたいと思うようになる。
あの「目黒で食べたサンマ」の味が忘れられず
サンマに思いを馳せる殿様。
ある日、殿様の親族の集会で好きなものが食べられるというので、
殿様は『余はサンマを所望する』と言う。
殿様がサンマなど庶民が食べるような魚を食べるわけがないから、
城の台所にサンマなど置いていない。
家来たちは急いでサンマを買いに行く。
そういった噺だ。
俗世間からかけ離れた生活をしている世間知らずの殿様が、
庶民の食べ物に初めて触れ、感動し、
家の者の困惑をよそに、「サンマ」を食べたいと熱望するといった
滑稽噺である。
子供の頃から、
なんの不自由も無い生活を送ってきた・・・
オイラの目の前にいる、この青年。
欲しいものはなんでも手に入り、
値段のことで迷ったり悩んだりすることもなく・・・
庶民のクチには年に一度くらいしか入らないような
高級な食べ物を毎日のように食べている。
庶民が食べているものなど彼の生活の中では
はなから選択肢には入っていないのであろう。
だが、いざ初めて対峙してみると興味が沸き
食べてみると「美味しい」と感動する。
見栄やステータスだけで生きていると、
こういったものに出会わずに、過ごしていくことになる。
満たされ過ぎた生活がゆえに、見落としていくものも多く存在し、
ある意味それは、可哀想なことでもあるのだ。
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嬉しそうに「お好み焼き」ほおばっている彼・・・
彼にとっての「感動的な初体験」を
なんだか嬉しい気分になって眺めていた。
あの「目黒のサンマ」には・・・・オチがある。
『サンマが食べたい』との、殿様の命令により
バタバタと魚河岸を駆けずり回り、新鮮なサンマを調達してきた家の者。
しかし・・・・
『サンマを焼くと脂が多く出るので体に悪い』ということで脂をすっかり抜き、
『骨がのどに刺さるといけない』と骨を一本一本抜くと、
サンマはグズグズになってしまう。
『こんな形では出せない』ということで、
「練りもの」に仕上げ椀の中に入れて出す。
殿様はそのサンマが非常に不味いので、
『この“サンマ”はいずれで求めた“サンマ”だ?』と聞く。
『はい、日本橋は一流の魚河岸から一番新鮮なものを求めてまいりました』と家来。
『ううむ。それはいかん。サンマは目黒に限る』
先日、例の会社から「この間の飲み会のお礼」ということで
電話をもらった。
例の青年である。
ひとしきりお礼を言った青年が
『また、あの“お好み焼き”食べに行きましょうね』と言う。
オイラは
『そんなにお気に入りでしたら、オイラの知っている
“お好み焼き専門店”にお連れいたしますよ。そこのは関西風で本場の味が
楽しめますから。絶対おすすめですよ』
すると青年が
『いやいや、お好み焼きは・・・・居酒屋に限ります』
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