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シャワーヘッドから迸{ほとばし}る熱めに調節した温水が、恭司のからだから汗を洗い流している。風
に当たって冷えかけていた皮膚の奥では筋肉がまだ燃焼を続けていた。肌に染み込むようなシャワーの熱
が、激しい試合の後の疲れを吸い取ってゆく。ワンセット・マッチだったため、それほど疲れていたわけ
ではなかったが、全力で戦い、発汗してからだが軽くなったときに感じる爽快な脱力感と戦いの余韻を恭
司は楽しんでいた。そのとき恭司は、先ほどの試合の最後のプレイを思い起こしていた――。
サービスを放つときのクリストファーの舞い立つようなフォームが、ストロボ写真のように脳裏に蘇
る。ネットを挟んで対峙したときに感じる相手の巨大な気が、静かなトスアップと共に宙に浮いたかと思
うと、次の瞬間、強烈なサービスとなって襲ってくる。一瞬空気の密度がずれたかのような圧力を感じ
る! 目の前がカッと、明るさを増したかのようなこの瞬間ほど、相手との距離が短く感じられるときは
ない。
コークスクリューのような弾道でセンターラインの内側を抉{えぐ}るようにして逃げてゆくスピン系フ
ラットサーブを、かろうじてフォアで拾う。砲弾のように重い球質のボールがラケットフェイスをぐんっ
とくぼませる。少しでも球威に押されると、ラケットの面は角度を変え、ボールはコントロールを失って
しまうだろう。しっかりとフォロースルーを加え、正確にリターンする。
しかしそのときにはもうクリストファーはファーストボレーの態勢に入っているのだ。何というダッシ
ュの速さ! リターンは運良く相手の足元に沈んだが、今度はやわらかいタッチのローボレーがきわどい
角度でフォアサイドのコートの外に逃げてゆく。諦めてはいけない。全速力で追う。必ず届く! 拾って
みせる! ダウン・ザ・ラインで抜けるか?! ネット際で立ちはだかるクリストファーの脇を抜ける間隔
はほとんどない。
そのときコートの一角が光っているようなイメージが湧いた。あとはからだが覚えている。狙い澄まし
たショットが、まるで糸を引くようにしてその光るエリアに吸い込まれてゆくのが見えた――。
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