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恭司は歌った。立ち上がり、両手を拡げ、空を仰いで歌った。緑萌ゆ草原の香りを、生きる喜びと共に
胸いっぱいに吸い込み、神の栄光を心の限り、想いの限り讃美した。そのとき溢れるほどの喜びに恭司の
胸は満たされ、輝ける世界は恭司の歌に応えてまわりだした。打ち震う感動の泉が、深甚と胸の奥底から
湧き上がり、ささくれ立つ波のように全身へと波紋を拡げてゆく……。その漣{さざなみ}は大地に立つ恭
司の足から草原へと伝わり、草を、木を、森を、そして森の湖を震わせ、白い残雪を戴いた山々に谺{こ
だま}した。
「世界が歌っていた、私と共に! 世界が輝いていた、私の人生のように!」
屹立と臨む峰々のように恭司の理想は高く、恭司が仰ぎ見た蒼穹{あおぞら}のように未来は光輝に満ち
ていた。科学の真理を追い求める恭司の心は清く、銀色に輝く純白の雪よりもなお白く、恭司の精神は澄
明で、遠い谷川のせせらぎを聴くことも、さわさわと鳴るシラカバの木が自分に何を囁{ささや}いている
のかを聞きわけることもできた。野に咲くひとひらの花に神の愛を見出し、そこに集い戯れる蜜蜂の生態
に自然の不思議を感じた。
「おお! 神よ! 感謝いたします。あなたの夢をかき抱き、あなたの息吹を呼吸することを。あなたの
胸にまどろみ、私はそこから空へと舞い立とう。草原を渡りゆく緑の風に乗って、たゆけき空の彼方、神
のいます無辺の境地へと」
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