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そのとき恭司の意識に、また例のサブリミナル・メッセージのような映像が現れた――。
顕微鏡を覗いたときに見える卵子の全体像。その卵子にいまガラスの細い針の先が突き刺さろうとして
いる。卵子は、軟式テニスのボールに釘を突き刺そうとしたときのように大きく変形し、ガラスの針が突
き刺さった瞬間、一度、ぶるっ、と震えたように見えた。たちまち卵子の周りに膜が形成されてゆく。
『これは?! マイクロピペットを用いた人工授精! そうだったのか……』
これが母を怯えさせていたものの正体だったのだ。
しかし母は知らなかった。ただの受精卵提供だと思っていたようだ。それでも母は自分が『神の領域』
に踏み込んでしまったことを畏れていたのだ。彼女は神の怒りに触れることを畏れていた。いや、怒りに
触れることではない。産むことだ! 神の子を宿し、産むことを。しかし、その子は私ではないのか。私
はいったい何者なのだ?!
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