弓月城太郎の『神秘体験』

皆様のお陰で連載を無事終了することができました。最後までお付き合い頂きありがとうございました。作品の感想お待ちしております。

過去の投稿日別表示

[ リスト | 詳細 ]

全1ページ

[1]

神秘体験とは何か

――古来から宗教的生活の中で祈りや瞑想といった行為が重要であると考えられていることには理由があ

った。これは単なる儀式などではない。祈りや瞑想の中でぞくぞくするような体感を感じ、不思議な光を

見、その体験を通して神仏の存在を実感し、超自然的存在からもたらされたとしか考えられないような智

恵に自ら驚き、その感動を共同体の仲間と分かち合うことには大きな喜びがあるからである。その不思議

な光を見た者は智恵が啓けるという。

 神や仏といった崇拝の対象となる超自然的存在と交流できるとされている変性意識状態に入るには、祈

りや瞑想はもっとも一般的な手段であるといえる。そしてこの種の神秘体験が、キリスト教や仏教といっ

た高等宗教の教義の成立にとっても中心的な役割を果たしてきたという歴史的事実が存在する。

 現在では、高等宗教の多くの宗派で、その神秘体験(光の体験あるいは聖霊体験、涅槃ともいう)に至

る身体操作{ボディ・コントロール}の技法は封印されており、教義としてのみその形をとどめている。つ

ぎに述べる事柄は、その秘奥義ではなく、教義の成立に関る背景である。

 キリスト教では、祈祷中に感じる神的性質を帯びた超自然的存在のことを「聖霊」と呼んでいる。「聖

霊」とは、三位一体(父なる神、子なるキリスト、聖霊)からなる神の第三位を占める位格のことであ

り、人に宿り、神意の啓示を感じ、精神的活動の鼓吹力となる存在と言われている。

「聖霊」の語源であるギリシャ語の「プニューマ」には、本来「風」や「息」といった意味がある。実際

に祈祷や瞑想の中で感じるときには、瞼の裏に現われる太陽のようなイメージとして見えるため、その

「光の幻影」が、丁度、「神」のイメージと合致し、そのときに同時に感じられる、項{うなじ}から頭

部、背筋にかけて還流する微細なエネルギーの流れを「神からの霊流」として解釈できるため、これを

「聖霊」と呼んでいる。語源の「風」や「息」といった言葉の意味は、「太陽から吹く風」や「神の息吹

き」といった意味である。

 また、その対象から感じる温かい感覚を宗教的慣用句で表現したなら、太陽の光が生物にとって無償の

恩恵であるように、それは「無償の愛」とでも表現できるものなのである。

 一方、視点を仏教に移すと、こちらも「三位一体論」になっている。「三位一体論」は何もキリスト教

に限ったものではなかったのだ。キリスト教では「父」と「子」と「聖霊」だが、仏教では、それぞれ

「法身仏{ほっしんぶつ}」「応身仏{おうじんぶつ}」「報身仏{ほうじんぶつ}」と呼ばれている。対応関

係は順序どおり、内容もほとんど同義である。

「法身仏」とは、大宇宙の働きのことであり、「道理」「法則」のことである。キリスト教組織神学で

は、神は「理法{ロゴス}」であり、一般的に人格はないと考えられている。

「応身仏」とは「悟りを啓{ひら}いた人」のことである。釈迦はもとより、他に何人もいるとされてい

る。この点、キリスト教では「神の子」はイエス・キリストの存在に特化されているようだが、一世紀当

時の初代教会で説かれていた教えの中には、「聖霊」(神の御霊)を享{う}けることによって、すべての

人が「神の子」となる可能性が示されている(ローマ人への手紙・8章14〜17節)。

「報身仏」とは、イメージ化された仏の姿であり、これはまさにキリスト教におけるイメージ化された神

の姿、「神の示現」である「聖霊」に等しく相当する。

「父」と「子」と「聖霊」、あるいは「法身仏」と「応身仏」と「報身仏」は、それぞれに同一本質であ

るが故に一体であり、この三つの位格を一体と捉えた場合にのみ、「神」あるいは「仏」は人格的存在と

なる。

 さて、洋の東西で独立して発展した仏教とキリスト教が、最終的に同じ結論に到達していること自体驚

くべきことなのだが、このことにはさらに驚くべき理由がある。

 それは、人体の生理機能と精神機能との相関について、人類に普遍的なメカニズムが存在するからであ

る。
 先述したように、「三位一体論」という宗教的教義が成立した根底には、「神秘体験」という共通した

主観的体験が介在している。

 この「神秘体験」には神経生理学的にある程度説明可能な物理的基盤が存在する。基本的に人体の構造

と機能に依拠する生理現象としての側面をもつ現象なので、東洋人と西洋人の間でその体験が共通してい

ることは当然のことと言えよう。つまり核となる体験自体は、神経生理学的な現象であり、まったく同一

のものであるのだが、異なる宗教的文化圏で、その崇拝の対象となる存在が別であるかのように考えられ

ている理由は、その体験に対して施される宗教的意味付けの相異なのだ。主観的体験としての「神秘体

験」のイメージが、「神」や「仏」のイメージと合致するために、キリスト教ではそれを「神」と呼び、

仏教ではそれを「仏」と呼んでいるに過ぎない。

 ではその核となる神経生理学的現象を見ていくことにしよう。

「神秘体験」を説明する大脳機能学からの有力な仮説に「ホメオスタシス仮説」がある。

 人間は物事を頭の中にイメージすることによって、その仮想現実空間に投影した対象に対し臨場感を感

じるとともに、その対象と身体的レベルでのフィードバック関係を築くことができる。たとえばレモンを

頭の中に思い浮かべるだけで、口の中に唾液が湧いてくる、といった現象がそれだ。レモンではなく

「神」をイメージした場合にも、条件さえ揃えば、それに対応する身体的レベルでの反応を引き起こすこ

とができる。

 また、アンドリュー・ニューバーグらが、最新のSPECT装置を用いて行なった研究からは次のよう

な推測がなされている。

 瞑想者が「神」のイメージに注意を集中すると、前頭連合野(注意連合野)は後頭連合野(視覚連合

野)と結ばれた右脳の頭頂連合野(方向定位連合野)に働きかけて、「神」のイメージを心に固定させ

る。瞑想が続き、イメージの固定が続くと、右前頭連合野から神経インパルスが発生し、大脳辺縁系を経

由して視床下部に達する。このインパルスが視床下部の興奮系を支配する部位を刺激すると、穏やかで心

地のよい興奮状態になる。

 瞑想が深まるにつれ、視床下部に流入する神経インパルスは強さを増し、やがて、視床下部の興奮が限

界に達する。ここで神経学的な「決壊」が起きて、抑制系まで最高レベルで活動しはじめてしまう。興奮

と抑制の両方の機能が同時に活性化した視床下部では、激しい神経活動が生じ、その刺激は大脳辺縁系を

経由して前頭連合野に到達する。その結果、前頭連合野の活動は最大レベルに引き上げられ、「神」のイ

メージへの集中が強まり、頭頂連合野に重大な影響を及ぼすことになる。

 まず、左脳の頭頂連合野では、海馬が情報の流れを制限する結果、頭頂連合野は求心路遮断を受けて、

自己と非自己の境界があいまいになる。

 これに対して、右脳の頭頂連合野では、前頭連合野から送られてくる「神」のイメージのみに基づいて

自己を位置づけるための空間的な基礎を構築しようとするため、精神の集中を増すにつれ、「神」のイメ

ージが拡大し、ついに、「神」がリアリティーのすべてであると感じるようになる。

 この一連の神経生理学的作用によって、自己と非自己の境界が消失し、宇宙、あるいは「神」と一体に

なるという宗教的体験が瞑想者にもたらされる。

 また、「悟り」や「創造性の亢進」といった精神的変容は、この一連の神経生理学的作用によって生じ

る前頭連合野の機能賦活と関連付けて考えるのが正しいようだ。

 つぎに述べるのは、ロバート・H・ロースの研究に基づく「大木仮説」である。

 脳幹の中脳(腹側被蓋野)にある神経核を起点に、ドーパミンによって作動するA10神経のうち、前

頭連合野とその近傍の脳(前部帯状回と側頭葉)に至る経路の末端部分では、シナプス間隙に放出された

神経伝達物質と再結合する自己受容体が欠如しているために、A10神経は暴走しやすい状態にある。そ

こで先述した瞑想によるポジティヴ・フィードバックをかけることによって、この部分でのドーパミン濃

度が高まり、A10神経の活動が過度に促進され、前頭連合野の機能が賦活される。このときに随伴して

生じる知覚が「神」や「仏」のイメージと合致するために、この心身相関的なフィードバックが成り立

つ。

 また、前頭連合野の機能賦活は、意味と意味の繋がりを発見する能力を促進し、「悟り」や「創造性」

の亢進をもたらす。ドーパミンが前頭連合野だけでなく、脳の神経系全体でも過剰に働く場合には、「幻

覚」や「妄想」といった症状が現われてくる。ドーパミンなどの神経伝達物質が脳内のどの部分で働いて

いるかは、現在では、放射性アイソトープにより元素マーキングした神経伝達物質や糖の働きを、PET

やSPECTなどの画像診断装置を用い映像として見ることができる。

 しかし、「神秘体験」には脳内の神経伝達物質の働きだけではなく、もっとはるかに深い内容の秘密が

隠されている。そこに至って、非常に驚くべき知見と出くわす。

※この続きは本編の「精神波量子脳理論」へ

全1ページ

[1]


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

数量限定!イオンおまとめ企画
「無料お試しクーポン」か
「値引きクーポン」が必ず当たる!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事