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恭司の意識はさらに昔に遡ってゆく――。
あれはうんと小さかった頃のことだ。長野県の安曇野の実家で育った幼年時代はとても幸福なものだっ
た。隣の教会に遊びに行くと、毎日信徒のおばさんたちが来ていて、よく可愛がってくれた。妹の恭子は
まだほんの赤ちゃんで、恭司の母はいつも恭子に掛かりきりだった。母親に遊んでもらえないときには、
信徒のおばさんの子供たちと遊ぶか、牧師夫人に遊んでもらうかしていた。
あるとき恭司にテストをしに来たおじさんがいた。「おじさんは丸がおでドラエモンのような顔をした
とてもいい人だ」と恭司は思った。大学を退職した心理学者なのだそうだ。
おじさんは恭司を応接間に連れて行った。「これから心理テストをするからね」とおじさんは恭司に言
った。これから見せるカードに何が見えるのか答えるテストだった。おじさんは「このテストには正解と
いうのはなくて、何でも好きなように答えていいからね」と言った。
恭司にとってこのテストはとても楽しかった。恭司があるカードを見せられたとき、「ちょうネクタイ
をしたうちゅう人に見えます」と答えたら、おじさんはにこにこしていた。別のカードを見せられたと
き、ダブルベースを見つけたときもにこにこしていた。恭司は図鑑でそれを知っていたので、おじさんは
恭司をとても物知りだと思ったようだった。
それから別のテストもした。おじさんが出すクイズに答えるテストだった。恭司は『ようしこんどはは
りきって答えるぞ』と思った。
おじさんのクイズはとても簡単だったので、恭司は、おじさんが問題を出し終わると同時にすぐに答え
を言った。おじさんはストップウォッチを押すのが忙しそうだった。
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