弓月城太郎の『神秘体験』

皆様のお陰で連載を無事終了することができました。最後までお付き合い頂きありがとうございました。作品の感想お待ちしております。

内容紹介

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全1ページ

[1]

意識の科学

イメージ 1

 私はその夜、ゴードン邸の二階の自室で、昼間スミス氏から受け取った報告書と論文のコピーをもと

に、『精神波量子脳理論』の構想をまとめた。

 私は理論体系を構築するにあたって、夥しい量の計算をこなした。ひと晩の作業量としては相当なもの

だ。

 作業は深夜に差し掛かり、部屋は神聖な静寂に包まれた。それは神秘的な体験だった。私は神の臨在を

感じ、聖霊の与え給うインスピレーションのままにペンを走らせた。まるで神がお造りになった量子的宇

宙の設計図を見せられているかのように。

 私の集中力はいつにも増して高まり、疲労は微塵も感じなかった。

 明滅する光のように突如として脳裏に浮かぶ焔のような文字。知覚力の増大を感じる。目の前を虚数的

実在が現実の幾倍にも増してリアリティを持つ実在として私の視覚野を掠めてゆく。

 ――二階微分することによって連続体曲率となる、計量テンソルの非ユニタリな変換は、真空の相転移

による場の影響の変化として位相の変分に相当し、真空の励起状態を生成する。これはゲージ変換に伴う

位相変位が、場の量子論の効果によってエネルギーに転換されることを意味する。連続的相転移のテンソ

ル積は連続体の最下層にまで及ぶ。隠れた変数の存在により、重力の相互作用の揺らぎはなく、他の交換

子による相互作用の揺らぎもない。非局所的に相互作用することによる位相変位とエネルギーが等価変換

されるアラン・スミスによるボーム量子力学の新しい場の量子論。それは整然とした数式で綴られた、量

子重力理論を含む統一場理論の完成した姿だった。

 ボームのモデルは通常の量子力学の性質をすべて導くことができる。そしてその内奥には『神の階梯』

へと繋がる階層構造的な広大な精神の海が広がっている。そのとき私の意識は方程式の奏でる天上の調べ

に乗って精神の高みへと運ばれ、私はそこで壮大な宇宙のシンフォニーを聴いた。

開く トラックバック(2)

イメージ 1

 ホテルでの朝、波のさざめきで目が覚めた。外は青い光の夜明け。僕はベッドから抜け出すと、白いレ

ースのカーテン越しに海を見た。海はきのうとまったく表情を変えていなかった。でもどこか新鮮な感じ

がした。

 顔を洗い、歯を磨いてから、まだベッドの中でぐずぐずしていた父さんに行き先を告げ、僕はひとりで

散歩に出ようとした。すると父さんに「ここは外国で治安が良くないから、ホテルの敷地からは出るな

よ」と呼び止められた。僕は「わかったよ父さん」と返事をし、そのまま部屋を出た。

 吹きさらしになっている開放的なロビーに下りてきたところで、海が僕を呼んでいた。

 芝生の敷地とプールの脇を抜け、プライベート・ビーチに出ると、そこにはエメラルドグリーンとオー

シャンブルーのハワイの海が待っていた。

 東の空を振り仰ぐと、ちょうど朝日が昇るところだった。うっすらとバラ色に染まった漂う雲の切れ間

から、金色の曙光が射し、惜し気もなく無償の財宝をこの世界に投げ掛けていた。

 この静かな気持ちはいったい何だろう?

 僕はこの限りある時のうちの永劫を、うつろいゆく時の美しさの中に、しっかりと繋ぎとめた。

 今日、そう、いよいよこの日が来たんだ。その時は、はじまりは静かで、やがて勢いを増す日輪のよう

に白昼の闘いへと移行してゆく。しかし僕は、その輝ける時がどのように過ぎてゆくのかを知らない。

 コンピュータと人間との闘い。それはコンピュータを生み出した、人工知能の実現を志す人間と、己の

頭脳の限界に挑戦する専門棋士との闘い。

 計算力では人間を遥かに凌駕するコンピュータに対して、人間が勝るもの。それは読みを省略する能力

「直観力」だ。

「直観力」とはいったい何なのだろう?

 この神秘の能力を解き明かすことが、これからの僕自身の「闘い」なんだ。

すべては神様のお導きのままに――。僕の想いは朝焼けに染まった雲の彼方に、海原を渡りゆく潮風によ

って運ばれ、そして広大無辺の大空の中に溶け込んでいった。

開く トラックバック(2)

イメージ 1

 観客のいないスケートリンクは静かだった。いま私と恭子はガーネット・ブラウンのデコレーション・

ライトの中にいる。ふたりの曲は七年前のあの日と同じ『ある愛の詩』。雑念を払い、ポーズをとる。永

遠とも思われる凍りついた一瞬の静寂――。

 音楽が始まる。哀愁を帯びたピアノの旋律に自らの想いを重ね、みなぎる腕で、全身で表現する。指先

にまで神経を行き届かせ溢れんばかりの情感をそこに込める。――枯葉の舞い落ちるボストンの秋。恭子

と別れて暮らしていた七年間の歳月の想いが、洪水のように堰を切り胸に押し寄せる。私は使命を感じ、

十歳の秋にアメリカに留学した。時の流れに負けじと、生きることを急ぐかのように。その期間、ふたり

を結び付けていたのは、家族としての絆、信仰、そしてフィギュアスケートへの想いだった。

 いま恭子は私と共にいる。スパイラル・シークエンスで恭子との距離を保ち、心を通わせる。ふたりで

手を繋ぎ、バックワード・クロスロールでコーナーを回る。ツイスト・リフト。そしてスロウ・ジャン

プ!
 
 子供の頃からずっと一緒に滑ってきた恭子の動きは、からだが忘れていなかった。ひとつひとつの技、

彼女の息づかい、そして小さなクセまでも。かつて別れたときのレベルまで戻すのに二ヵ月もかからなか

った。もしふたりが成長していなければもっと早かっただろう。

 曲がクライマックスにさしかかり、ドラマチックな盛り上がりを見せる。精神が高揚し、胸の高鳴りを

全身から発散し、ふたりでサイド・バイ・サイドのトリプル・トウループを跳ぶ! それから恭子のから

だを高々とリフトし神の栄光を表現する。

 最後はペア・スピンから、求め合うようにして抱き合い、静かに元のポーズへと戻り、深々とした余韻

を残して演技を終了した。てのひらから恭子の弾んだ息づかいが伝わってきた……。

開く トラックバック(1)

全1ページ

[1]


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

数量限定!イオンおまとめ企画
「無料お試しクーポン」か
「値引きクーポン」が必ず当たる!
CMで話題のふるさと納税サイトさとふる
毎日お礼品ランキング更新中!
2019年のふるさと納税は≪12/31まで≫

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事