働く障害者はどのくらいいるの?
2006年の厚生労働省(国の役所)の調査によると、15歳以上64歳以下の身体障害者134万4000人、知的障害者35万5000人、精神障害者35万1000人のうち、知的障害者で働いている人の割合が5割と最も高かった。これに対し、精神障害者は2割を少し下回っていた。全体で見ると、半分以上の人が働いていない状況にある。
どんなふうに働いているの?
障害者の働き方は、障害の程度や生活状況によってさまざまだ。会社や役所に雇われる人もいる一方、障害者向けの福祉施設で働く人もいる。施設の中には、将来会社で働くことを希望する人のため、仕事に慣れさせたり、仕事の知識を学ばせたり、障害者自身が元々持っている力を引き出す訓練をしたりするところもある。
また、一般の会社で働くことが難しい障害者たちは授産施設で働く場合もある。
・授産施設……障害者の支援や福祉の制度などを定めている法律などにより、目的や運営方法が定められている。障害などを理由に一般の会社で雇われることが難しい人たちが、リハビリや仕事に必要な技術の訓練を行う目的をこめて働いている。
多くの障害者が会社で働きたがっている
国が調べたところ、授産施設などで働く障害者の中には、会社で働きたいと思う人が多いことがわかった。しかし、実際に授産施設を出て会社に就職する人は少なかった。授産施設の工賃は平均1カ月1万5000円。これに対し、会社などに雇われている障害者の賃金の平均は、身体障害者が1カ月25万円。知的障害者が12万円、精神障害者が15万1000円と大きな開きがあった。生活費が足りない部分は、障害の程度に応じて国から支給される障害年金で補っている。
2006年に自立支援法がスタート
茨城県土浦市内で遊歩道のバリアフリー度をチェックする障害者たち=2008年4月 働く障害者をとりまく環境は大きく変化している。意欲のある障害者が会社などで働くことを支援する「障害者自立支援法」という法律が2006年4月に施行された。
これまでも授産所などで、障害者に仕事の技術を教える訓練は行われていた。政府は、障害者が働く場を一般の会社にまで押し広げようと新たな政策を打ち出している。
また、働く障害者を支援する制度が定められた「障害者雇用促進法」も改正され、働きたい障害者のための福祉施設や支援サービスを増やすことにつながった。
支援その1 職場に慣れるまでサポート
「ハローワーク」(職業を紹介する公的施設)の職員らが中心となって、会社で働きたい障害者を支えるチームをつくることがある。障害者の希望に応じて、就職するまでに何を行うか計画を立て、準備から職場に定着するまでの間をサポートする。
ハローワークとともに、福祉施設も障害者のふだんの生活を支え、相談に応じている。
障害者はできることとできないことがある。それぞれの事情を職場の人たちに伝えながら、トラブルをなくし、気持ちよく仕事ができるようにする。障害者と企業との橋渡しをする「ジョブコーチ」と呼ばれる人たちが活躍している。
会社には障害者を雇う義務がある
「障害者雇用促進法」は、会社が常に雇い入れている労働者のうち、一定の割合を障害者で占めるように定めている。1社が雇わなければならない障害者の人数は、常に雇っている労働者の1.8%(1000人のうち18人)。
これまで身体障害や知的障害を持つ人を雇い入れる義務はあったものの、精神障害者は含まれていなかった。自立支援法ができた2006年4月、障害者雇用促進法の改正によって、精神障害者も会社の義務として雇い入れることになった。
障害者に特別に配慮している「特例子会社」
障害者を親会社ではなく「特例子会社」で雇う場合がある。障害者に配慮して別につくった子会社で、特例として親会社が雇ったとみなされる。特例子会社が増えれば、障害者の働く場所が多くなるため、政府や障害者の団体が会社に特例子会社の設立を求めている。
福祉サービスの利用料を取られてしまう…
これまで費用を払わずに済んでいた福祉サービスの「利用料」や「食事代」がかかるようになってしまった。料金の1割を支払わないと授産所などが利用できない。
全国に4658カ所ある授産所など福祉施設を国が調べたところ、2006年度の平均工賃はおよそ1万2527円だった。自立支援法ができてからというもの、いくら工賃をもらっても利用料を施設側に支払うと、数千円しか手元に残らないケースが相次いでいる。もともと収入の少ない障害者にとって大きな負担になっている。08年10月に全国の障害者29人が「憲法に定められた生存権(生きる権利)を侵し、憲法に違反している」として裁判所に訴えた。
政府は今年2月、法律の中身を変える考えを打ち出した。これまで施設の利用料の1割を障害者が支払うことにしていたが、収入の額に応じて支払い額を調整する制度に変更するというものだ。
【福岡県の授産施設に通う40歳障害者男性のケース】▽仕事:おもにクッキーの型抜き作業▽1カ月の工賃:約9000円。施設への支払いは約8000円で、残り1000円足らず▽男性の訴え:ただでさえ生活が苦しいのにこれ以上苦しめないでほしい。施設には働きに来ているのであって、利用しているわけではない
求められている職場の理解
実際に障害者が会社で働き出しても、人間関係でトラブルを招く場合がある。
東京都葛飾区で働く障害者を支援している福祉施設職員によると、「障害者を雇っても、まわりの職員が今ひとつ障害の中身を理解していないことがある」などと不満をぶつけられるという。「雇っている側は、個性を無視して単なる『障害者』としか見ていないと感じる」「もっと一人一人を見てほしい」「安い賃金で使える労働力にみなされて、最低賃金で雇われるケースが多い」などの声も出ているそうだ。
納付金さえ払えばいいの?
障害者雇用促進法で、日本の会社は一定の人数の障害者を雇うことが決められている。政府が2007年6月に調べたところ、56人以上が働く会社に雇われている障害者の人数は06年に比べて6.7%(約1万9000人)増え、30万人となった。一方で、障害者を一人も雇っていない会社は63.4%にも上る。
定められた人数の障害者を雇わない会社は、雇うべき人数1人あたり5万円の「納付金」を、働く障害者を支援する団体「高齢・障害者雇用支援機構」に支払うことが定められている。納付金は働く障害者への支援に充てられる。納付金を支払うと、障害者を雇う義務は免除される。
障害者の存在をお金で買っているようにも見える制度ね。いくらお金で支援しても、実際に障害者を雇う会社が増えないといけないわ。
・最低賃金……法律によって、事業主が従業員に対し、最低限払わなければならないと定められた賃金。都道府県ごとに金額が異なり、2008年度は最低が沖縄県などの627円、最高が東京都などの766円だった。
◇ケース1 豆腐作り 年間売り上げ1億円
宮城県蔵王町 授産施設「蔵王すずしろ」
知的障害者43人が豆腐を中心に豆乳やゆばなどを製造している。1カ月の工賃は4万〜10万円で、平均約6万円。2011年度までに最低額7万円が目標だ。「障害者の自立は所得を守ることなしには実現しない」と考え、1丁210円の豆腐を1日1500〜2000丁手作りしている。努力のかいあって05年度に売り上げ1億円を達成した。
◇ケース2 大会社の一員として誇りと責任
東京都日野市 東京電力の特例子会社「東電ハミングワーク」
手や足に障害がある車いすの男性(右)は、印刷物のデザインを担当している=東京都日野市の東電ハミングワークで 2008年10月設立で、社員45人のうち障害者は18〜58歳の26人。障害の程度に合わせてそうじや印刷の仕事などに就いている。09年4月には園芸の仕事も加わり、新たに障害者21人を採用する予定。
月給は13万2000円。知的障害のある木内健人さんはそうじを担当。「大企業の一員として誇りと責任を感じる。仕事は大変だが、感謝の言葉をかけられるとやりがいを感じる」と胸を張る。聴覚障害者が4人おり、全社員が手話で日常会話もできる。将来は障害者を社員の3分の2に増やす計画だという。
◇ケース3 「同情」ではなく「味」で客を呼びたい
山梨県甲斐市 カフェ「ゆめハート」
体の筋肉が衰える病気で車いすの生活を送る安藤康雄さんが、障害者仲間2人と2008年3月、カフェを開いた。目玉のメニューは手作りのカレーとケーキ。「月1回来てくれる人が500人いれば何とかなる。リピーターをつくりたいと考えています」と安藤さん。厳しい経営が続くが、宣伝方法やイベントについて話し合いを重ねている。店の資金は、障害者を支援する山梨県が提供した。(毎日新聞)
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