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毎日が春気分

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「ここの数字が変なのよ!何とかして」。経理の前田さんが、何か叫んでいる。朝から彼女の声が頭にガンガン響く。お願いだから少し静かにしてほしい。夕べは商工会の集まりがあって飲み過ぎたのだ。朝から頭が痛い。それなのに、前田さんはそんな僕の事情などお構いなしだ。怒りに任せて「今夜はコンパがあるから早く帰りたいの!仕事ができないと困るわ」とか言っている。さすがバブル期を生き抜いたお局は、言うことが違う。
なんでも前田さん曰く、どうやらエクセルの数字入力がうまくいかないらしい。あんた経理何年やってるんだよ。そんなの新入社員の若者どころか今時、中学生だってできるぞ。そんな前田さんを見るに見かねた営業の指原君がアドバイスしている。僕が女だったら惚れてしまうところだ。
ところが、指原君の力をフルに発揮しても問題が解決しない模様だ。指原君曰く、どうやら前田さんのパソコン、ウイルス感染していたらしい。あんた仕事中に何見てたんだ。トップ・マネジメントファクタリング会社の評判とか調べてたわけでもあるまい。「知らない、私は何も知らない」とか言っていたけれど、会社のパソコンをウイルス感染させるくらいだから、ろくでもないことをしていたのだろう。インターネットブラウザの履歴を見れば一発だ。「違うの!これは違うの!」「何もしてないのに壊れたの」と、女性特有のセリフをこれでもかと語る前田さん。まぁ前田さんに限らず、女の人は大抵こういうセリフを吐くのだが。
しかし、これは笑いごとではない。前田さんは経理担当だ。彼女のパソコンには、我が社のお金の流れが全て入っていると言っても過言ではない。我が社の経理情報やら社員の給与明細、顧客情報、取引先の社長たちの行きつけキャバクラリストまで入っている。問答無用、すぐに前田さんのパソコンからLANケーブルを引っこ抜く指原君。指原君はやはりかっこいい。男なのに濡れてしまいそうだ。
一方、シュンとする前田さん。これが大企業なら懲罰対象で、何らかの処分とかあるのだろうが、うちのような中小企業にはそんな規定などない。僕は社長なのに「これからは気を付けてください」としか言えなかった。情報流出がどこまで進んでしまったかは分からないが、ひとまず業者を呼び、パソコンの修理を任せた。
その業者の若い男性がイケメンすぎて、前田さんの目がハートになっていたのを僕は見逃さなかった。なんか5回くらいお茶入れ直していた。引き出しから秘蔵のお菓子を出して「食べて食べて」とか言ってるし。どさくさに紛れて「私のことも食べて」とか言っていたような気さえする。
なお、前田さんは修理を見届けることなく、定時で「コンパ」とやらに向かっていった。「合コン」と言わないのは彼女なりのプライドなのだろうか。その意図は誰にも分からない。

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