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「原発に左右されるな」 温暖化対策先駆者の憤り
日本経済新聞 電子版 2014/2/3 編集委員 滝順一 気候変動対策をめぐり、日本が温暖化ガス排出を増やす目標を公表したことに、国内外から批判がある。日本の温暖化対策の議論をリードしてきたリコーの桜井正光特別顧問は、現状をどう受け止めているのか。「危機感を緩めては技術革新もライフスタイルの革新も起きない」と、先進国にふさわしい目標を掲げるべきだと説く。 □目標を緩めても、後から大きな課題を背負うだけ リコーの桜井正光特別顧問は、日本の温暖化対策の議論をリードしてきた一人だ ――国連の気候変動対策の交渉をどうみているか。 「昨年開いた気候変動枠組み条約の第19回締約国会議(COP19)の議論では、すべての国が参加し、自主的な温暖化ガス削減目標を設定する方向に進んでいる。大排出国の中国や米国が抜けてしまう仕組みではどうしようもないので、両国も参加する形で進め直そうとしているのはいい。しかし(現状の努力で)達成可能な目標がそのまま自主的な目標になってしまうのではいけない。全員参加の枠組みは維持しつつ、地球の未来のために必要な目標をどう実現するのかがもっとも大事なことだ」 「まず各国に自主的な目標とそれを実現するための行動計画を提出させ、必要量に届くためにはどうするかの評価をすべきだ。京都議定書のような義務的な目標とは少し違う。各国間の利害の衝突は避けて通れない。コペンハーゲンの会議(COP15)やカンクンの会議(COP16)で掲げた、平均気温の上昇を産業革命以前から2度未満に抑えるとの長期目標は消えてはいない。温暖化は長期的には大変な危機感を持つべき事柄だ」 ――2度目標は実現が難しいので、2.5度とかに緩める考え方もある。 「可能性を検討することはいいが、気候変動は一度起きてしまったら容易には元には戻らない不可逆的な現象であることを忘れてはならない。目標を緩めることで現状は楽になるが、後から大きな課題を背負う。それを解決できる技術革新が(本当に)起きるのか。行動を後ろに延ばすだけではいけない」 「国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第1作業グループが、二酸化炭素(CO2)の累積排出量と地球の平均気温上昇との間に比例関係があることを指摘した。その前提に立つと、気温上昇を2度に抑えるには累積排出量(炭素換算)を840ギガ(ギガは10億)トンにとどめねばならない。人類はすでに約530ギガトンを排出してきているので、残りは約310ギガトン。現状では年間約10ギガトンが出ているので、30年以内に限界までいってしまう」 「理想論かもしれないが、技術革新やライフスタイルの変化は強い危機感があって初めて起きる。危機感が薄らぐと革新は起きないのは企業経営も同じだ。楽にしたら楽にしただけの革新しか起きない。先延ばしにしてもいいとは思えない」 ――米中の動きがカギを握ると思うが、両国は変われるか。 「米国はシェールガス革命で石炭から天然ガスへのシフトが起きているが、天然ガスでもCO2は出る。シェール革命だけで先進国に求められる高い削減目標を達成できるとは思えない。もっと抜本的な取り組みが要る。中国は途上国の一員だという考えから脱却して、最大の排出国であることの責任を自覚してほしい。あれほどの成長国にもかかわらず、国内総生産(GDP)当たりの温暖化ガス排出量という効率目標(原単位目標)を立てている。それでは絶対値で排出が増えるばかりだ」 □このままでは日本は発言力を失ってしまう http://www.nikkei.com/content/pic/20140203/96958A9C93819499E0E5E2E0838DE0EAE2E3E0E2E3E6E2E2E2E2E2E2-DSXBZO6600943028012014000001-PN1-13.jpg ――日本は昨秋、中期目標を出し直し、2020年に05年比でマイナス3.8%、これまで通りの1990年比ならプラス約3%という目標を公表した。どうみているか。 「そうした目標を出したことは意外だった。一言で言えば、よろしくない。先進国としての責任をしっかり果たさなくてはならない。これから国連の交渉で各国が最終的な目標を決める議論をするが、この数字のままでは日本は交渉における発言力や調整力を失ってしまうに違いない。また日本は温暖化阻止と低炭素社会実現で世界をリードする国になるというビジョンを持ち続けてきたはずだ。そのビジョンにかなう数字とは言えない」 「さらに言えば目標値の根拠がわからない。以前に自民党政権(麻生政権)で20年までの中期目標を定めた時には、産業界や学界の有識者が集まって半年くらい議論して根拠のある数字を決めた。今回は原子力発電所がゼロという前提だが、エネルギー消費をどこまで減らすのか、再生可能エネルギーをどこまで伸ばすのかなど、はっきりしない。原子力を抜いた数字はこれというだけでは先進国として無責任ではないか」 ――政府は暫定目標と言っており、原発の再稼働を踏まえて正式に決め直す考えらしい。 「私は原発の再稼働を支持しており、(原子力をベース電源と位置付けた)エネルギー基本計画はよいと思う。とは言え原発がいくつ動いたから、その分だけこの数字に上乗せするという単純な議論は歓迎しない。この問題の本質は、先進国として日本は気温上昇を2度に抑えることに責任があり、同時に日本の成長と競争力強化をグリーン成長を通じて実現するチャンスでもあるということだ。目標の水準を原発のせいにばかりするのは本質を見失った議論だ。気候変動抑止と日本のグリーン成長にかなう目標であるべきだ」 「国民も政府も企業も、今は地球環境どころではないという雰囲気がある。確かに温暖化はいま差し迫った緊急事態と感じられない面があるが、実は人類にとって死活問題になりうる。(ゆっくりとした危機に対して認識が遅れて対応を逸する)『ゆでガエル現象』に陥ってはいけない。私たちはいま一度、温暖化とは人類の未来にとってどういう意味があり、どれほどの影響をもたらすのかを改めて共通認識を持つようにしなければならない。問題の構造をよく知り、政府や企業、国民一人ひとりに何が求められるか、考え、行動する必要がある」 □取材を終えて 桜井特別顧問が指摘した麻生政権(09年)の目標は、温暖化ガス排出を20年に05年比で15%減らす内容だった。90年比なら8%の削減となる。当時、桜井氏が代表幹事を務めていた経済同友会は、政府の決定より早い段階で90年比7%削減の目標を掲げていた。地球環境保全と経済成長の両立を目指すビジョンはこのころに盛んに議論された。それは今も日本の進む道であるはずなのに、逆行する論議ばかりが目立つのにいらだちを感じるのは桜井氏だけではないだろう。 資源やエネルギーをどんどん使う社会構造のままでは、持続的な社会づくりは無理なことは明らかだ。温暖化ガスの排出に値段を付けることで温暖化問題を市場経済の内部に取り込もうとした炭素税や排出量取引についても、議論は冷め切っているのが現状だ。しかし長期的に考えるなら、技術革新のための研究開発と同様、低炭素社会の制度づくりの努力も手を緩めてはいけない。
カテゴリ : 《気候変動対策》 《温室効果ガス》 《政策》 ***
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エネルギー政策が政局の道具になっている、それが日本の政治低レベルの印象です。傑作
2014/2/5(水) 午後 4:24