◆●光田ちひろの作品集●◆

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●百物語●

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 後には何も残っていなかった。 山田くんは、後悔した。
光田 千煕作
◆人体模型くん(5)◆
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 どうして「これは、持っていかないでください。ぼくのお父さんなんです!」って言わなかったのだろう。そんなこと言ったら普通じゃないから?笑われるから? 笑われないようにするのと、自分のお父さんを持って行かれないようにするのと、おまえはどっちが大事なんだ? 悔(く)やんでも悔やんでも、どうしても許せない自分が、そこにいた。 なんで、あのゴミ収集車の運転手を止められなかったのか。「人体模型はぼくのおとうさんなんです!」と言えなかったのか。信じてもらえないのなら、Tシャツをめくってぼくのお腹や胸を見せれば、それだけですんだだろうに。 意気地(いくじ)なしの、ぼく……。 そんなふうに、山田くんは自分を責めて、そこから離れることができなかった。 裏門から、ジャリ男が入ってきた。さっさと昼ご飯をすませ、これからどこかへ遊びに行くのだろう。リュックをしょって、ヘルメットをかぶり、自転車に乗っている。 ジャリ男は山田くんのすぐ近くまで来て、自転車を止めた。 「よっ、山田。おまえもここで待ち合わせか?なんだ、まだランドセルしょってるじゃんか」 そう言って自転車から降りたジャリ男は、悲しんでいる山田くんのところに、ずかずかと寄ってきた。そしていつもと同じように、こう言った。 「ねえぇん、山田くぅん。その素敵なボディをさわらせてくれなぁい?ぶっちゅう〜!」 ぶっちゅう〜!っでお決まりの投げキッスのポーズ。あまりにも無神経なジャリ男のふるまい。 と、がばっと山田くんは自分のTシャツをめくり上げた。心臓も肺も胃袋も腸も、全てをさらけ出した。突然、予期しない行動を取られ、びっくりして固まってしまったジャリ男。 「いいよ。さわんなよ」 と、山田くんは言った。 でもジャリ男は、固まったまま口がきけない。 「いいよ。ほら、早くさわって」 山田くんは大きな声で、言った。 六年生になったジャリ男は、本物のすもう取りかとまちがえられるくらいに、でかくなっていた。そのジャリ男がおっかなびっくり、右手の人差し指の先で、ちょこんと山田くんの心臓にさわった。それは弾力(だんりょく)のある赤い肉のかたまりで、ドッ、ドッ、ドッと規則正しくリズムをきざんで動いていた。 「す、すげえ!」 ジャリ男は、たまげた声を立てた。 「生きてるんだな、おまえ」 けれども山田くんは、何も返事ができなかった。彼は下を向いて、ぽたぽたと涙を落としはじめた。 「ど、どうしたんだよ」 鈍感(どんかん)なジャリ男にも、ようやく山田くんが悲しんでいることがわかってきたらしい。 「わかったろ。これが、ぼくの体なんだ……」 話がのみこめずに、とまどうジャリ男。 「ぼくの父さんは、人体模型なんだ。だけど、捨てられた……」 「そう言えば、さっき、帰るとき、ここに人体模型、捨ててあったな」 ぼそりとジャリ男はそう言って、それから回転に時間がかかる頭脳(ずのう)でも、ある一大事に気づいたらしい。「あっ!」とジャリ男は、びっくりするような大声でさけんだ。 そして山田くんの肩に手を置いて、ぐらぐらとゆすりながら聞いた。 「どうしたんだよ!その人体模型。持ってかれちゃったのか?」 コクン……と、山田くんはうなずいた。 「さっき、ゴミの収集車に……」 「ばか!なんでそれを早く言わねえんだっ!ほら、乗れ!」 そう言うやいなや、ジャリ男は自転車に飛び乗った。 「今すぐ清掃センターへ行って、おまえの父ちゃんを取り返してくる!ほら、山田、おれのチャリの後ろ、乗れ!」 「だめだよ。自転車の二人乗りなんて」 「何いってるんだ、ばか!二人乗りでおこられないのと、おまえの父ちゃんがゴミといっしょに燃やされないのと、おまえはどっちを選ぶんだあっ!」 「父ちゃん」 と、山田くんは、言った。そしてジャリ男の自転車の後ろに乗った。ジャリ男は全速力でこぎはじめた。 すもう取りのようなジャリ男と山田くんの二人を乗せた子供用の自転車は、今にもつぶれそうだった。 残暑きびしい始業式の日の真昼だ。汗びっしょりになって、ジャリ男は町はずれの清掃センターをめざした。 『市内で集められたゴミは、全部ここに集められます。そして燃えるゴミはここで焼却炉(しょうきゃくろ)に入れられ、燃やされます。焼却炉は二十四時間、働いています』 四年生の社会科で清掃センターを見学したときに、そんなことを習った。収集車から捨てられたゴミは、ゴミピットと呼ばれる一面ゴミの海みたいなものすごい場所に落とされて、巨大なクレーンで一度に何トンもガシッとつかまれ、焼却炉の中に入れて燃やされる。山田くんのお父さんが、あの気の遠くなるようなゴミの海の中へ、まだ落とされていないことを願うばかりだ。 急げ! ジャリ男! ジャリ男は汗びっしょりになって、自転車をこぎ続けた。山田くんは、乱暴(らんぼう)な運転をする熊のようなジャリ男の後ろに、強くギュッとしがみついていた。 清掃センターは小学校とは反対側の町はずれで、とても遠かった。一時間以上、ジャリ男は休むことなく自転車をこぎ続けた。高い煙突(えんとつ)が遠くからもよく見えるので、迷うことはなかった。 そして、とうとう、着いた。清掃センターに。だだっ広い敷地(しきち)の中に、いくつかの建物が立っている。 「あの、ゴミがたまっているでかいプールみたいな場所へ行くぞ。今入ってきた収集車を追いかけるんだ」 こういうときのジャリ男は動物的な勘(かん)でも働くのだろうか、行き先に向かって迷うことなく突進していく。山田くんも一生懸命についていく。 「こらぁ。きみたち、だれだ。勝手にここに入ってきちゃ、だめじゃないか」 途中で清掃センターの職員に見つかってしまった。作業服を着たおじさんが追いかけてくる。それでも二人は全速力で走って、目的の建物に到着した。 そこは収集車がゴミピットへの穴に向かってゴミを落とす広いガレージみたいな場所だ。今、到着したばかりの数台の収集車が、それぞれエレベーターのとびらみたいなのを開けてバックして入り、集めたゴミをガーっと傾けて、地下へ向かって落としていた。 「こらぁ。きみたち。勝手にここにはいってきちゃ、だめだぁ」 作業服のおじさんは、ぜいぜい言いながら二人に追いつき、同じセリフをくり返した。だが、ジャリ男はおこられることなんが気にしないで、おじさんの方を向き、あいさつをした。 「ちわっす。おれ、北野小学校六年の岩野です。こちらは友達の山田です」 そう言ってジャリ男は巨体の上の小さな頭をぺこりと下げ、山田くんの頭にも手を当てて無理やり頭を下げさせた。このあいさつで、清掃センターのおじさんの怒りは少しおさまったようだ。ジャリ男はものおじしないで、どんどん語っていく。 「あのぉ。北野小に今日ゴミを集めに来た車が、とってもとぉーっても大切なものを、まちがって持っていっちゃったのです。その収集車はもう、ここに来ましたっすか?」 「大切なものぉ?」 おじさんが、片方の眉毛(まゆげ)だけをひくひくとつり上げた。 「大切なものって、何だね」 「……百万円です。うちの全財産です」 不意にジャリ男がでたらめを言い出したので、山田くんはおどろいた。でも、たしかに古い人体模型を取り返したいというよりは、百万円を取り返したいという方が、おじさんはわかってくれるだろう。 「本当か?」とシブイ顔をしながらも、おじさんは柱に取り付けてあるインターホンを使って、どこかに問い合わせをしてくれた。 「……そうです、北野小を回った車です……ああ、十二号車ですか。……はい。……そうですか。わかりました。どうも」 おじさんの問い合わせを後ろで聞く間、山田くんたちはとてもハラハラしていた。 ―――どうかまだ、十二号車がここに着いていませんように。 くるりと二人の方をふり返って、おじさんが言った。 「残念だったねぇ。きみたちの学校を回った車は、今しがた、この下のゴミピットにゴミを全部落としちゃったんだ」 ガ―――ン。 山田くんは頭の中が真っ白になった。それから心の中は真っ暗闇(まっくらやみ)になった。  (つづく)  
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閉じる コメント(3)

こんにちは(´∀`)
山田くんは絶望ですね、大丈夫なのかなぁ〜
奇跡でも起こってくれれば良いのに?次回
が待ちどうしいでし(´∀`)

2009/8/18(火) 午後 0:54 演歌人

ジャリ男の友情♪
いいですね(>_<)

この先どうなるんだろう???
ポチッと☆

2009/11/3(火) 午後 2:28 [ - ]

転載途中だったのでまとめて転載(*ゝω・)σ凸<☆ポチ

2009/12/22(火) 午後 5:00 [ - ]


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