◆●光田ちひろの作品集●◆

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●百物語●

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 ガ―――ン。 山田くんは頭の中が真っ白になった。それから心の中は真っ暗闇になった。
光田 千煕作
◆人体模型くん(6)◆
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 「じゃあ、おじさん。下のゴミピットを見せてください。お願いします」 果敢(かかん)にも食い下がるジャリ男。 でも、山田くんは思った……社会科見学の時、見ただろ?ゴミピットに落とされちゃったらもうダメだ、あんな地獄みたいな所へもぐりこんで取って来ることなんて出来ないよ。 「もう無理だね」と、おじさんも言った。 「それに、本当に百万円、ゴミに出しちゃったの?大切なものをゴミに出したつもりで大騒(さわ)ぎして、まちがいだったってことが前にもあってね」 「本当なんです。今日、オレが学校に夏休みの工作を入れて持っていった紙袋にゆうべおやじが百万円、入れたって言うんです。オレはそれを知らなかったから、学校帰りにゴミ置き場に捨てて帰っちゃったんです」 「本当かな」 おじさんは眉毛(まゆげ)をぴくぴく動かして、ジャリ男の説明をうそじゃないかと考えている。山田くんもジャリ男の作り話は、うそが見え見えでかなりマズイんじゃないかと心配になる。 「ま、あきらめるんだな」 どうやらおじさんの頭の中のうそ発見器は、ジャリ男の話が口からでまかせだという結果を出したようだ。 「きみたちねえ、ここは遊び場じゃないんだ。冗談(じょうだん)もいいかげんにしなさい。今日から学校が始まったんだろう。これ以上でたらめを言っておじさんたちを困らせると、学校に連絡するぞ」 こんな話をしながら、おじさんの目はだんだんつり上がっていった。そして、学校へ連絡するぞのところでは、とてもコワイ顔ができあがった。 「ちょっと、ちょっと、待ってください。おじさん。百万円ってのはうそでした。スミマセン。でもお金なんかとは比べものにならないくらい大切なものが、捨てられちゃったんです。すっごく大切なものが」 「いいかげんにしろ。お金より大切なものって、ゲームのカセットとかレアカードとかそんなものだろ、そんなものに取りあっているほど、ここはひまじゃないんだ!」 おじさんの怒(いか)りは、さらにはげしくなる。 その時、突然、山田くんは声を張り上げた。 「ちがうんです、大切なものってのは……」 そう言いながら、がばっとTシャツをまくり上げた。 「ほら、見てください。これがぼくの体です」 うっ、と声を上げて、おじさんはおどろいた。そして思わず言ってしまった。 「なんだ、こりゃ……」 山田くんは、話し続けた。 「なんだ、こりゃって、見ての通り、人体模型です」 山田くんは毅然(きぜん)として言った。いつもの目立たないおとなしい彼とはまったく違う表情だった。 「ぼくの父は人体模型なんです。学校の理科室にありました。だけど、今日、ゴミに出されて持ってかれちゃったんです。この下のゴミピットに今、落ちてるはずです。どうか見せてください」 あまりびっくりしたので、清掃センターのおじさんは、口をぽかんと開けたまま返事ができない状態だった。 「わかりますよね。だれにとっても、お父さんは大切だってこと。このゴミの海にもぐってでも、ぼくはお父さんを取り返したいです」 そういう山田くんの目から、涙があふれてきた。お父さんがゴミといっしょに燃やされてしまう不安や、今までずっとずっと我慢(がまん)していたいろいろなことが、山田くんの心になだれのように押し寄せてきたんだ。それで、山田くんは感じたんだ。我慢してちゃ、いけないんだ。言いたいことは、はっきりと言わなくちゃ。 「お願いします。どうかゴミピットに入れてください。お父さんをさがさせてください」 山田くんは、深々と頭を下げた。 「あ……あそこから下りて見ることはできるがね、一応。でも、中には入れないよ、あぶないから」 おじさんは、急に気弱な声になって、向こうに見える階段を指さした。 「ありがとうございます」と二人は頭を下げ、階段まで走っていき、かけ下りた。 階段を下りると、ガラス張りの仕切りを通して、その先はゴミの海だった。海と言うよりは、巨大なプールと言った方がわかりやすいだろうか。四角く囲んだコンクリートのかべの中に、気が遠くなるほどたくさんの『燃えるゴミ』が集められていた。一日で収集車何百台分もの『燃えるゴミ』が投入されるのだ。コンクリートのかべに一メートルきざみの目もりがついていて、その目もりを見ると、ゴミが今十五メートルの深さまでたまっている。 ガラス越しに、山田くんはそのゴミの海をのぞいた。もう何もかもがグチャグチャで、からみ合い混ざり合いさらに水分がにじみ出てすごいことになっている。きっとこのガラスの仕切の向こうは、鼻がもげてしまうほど強烈(きょうれつ)な臭(にお)いがするのだろう。 巨大なクレーンの手が、空中で止まっていた。 四年生で社会科見学に来たときは、あの手がゆっくりと下りてきてゴミをつかんで持ち上げていた。「ひとつかみ六トン」と説明があった。つかんだゴミを空中で手を広げて、ドサドサッっと離して落とす。そうやってゴミをかき混ぜないと、焼却炉へ入れたとき、よく燃えないんだそうだ。 山田くんはガラスの仕切りをのぞき込んで、必死にお父さんをさがした。ゴミクレーンが動き出しその手で『燃えるゴミ』をかき混ぜ、お父さんが埋もれてしまったら、二度と助け出すことは出来ないだろう。 「あった!」 山田くんは、さけんだ。 まだクレーンは、お父さんとゴミをかき混ぜていなかった。お父さんは、上から収集車に落とされたそのままの姿で、荷造り用のヒモでしばられピンと背筋を伸ばしたまま転がっていた。 ぱっちりと開いた目。その目の形は変わることはない。だけど「助けて!」ってさけんでいるのが、山田くんには聞こえた。 「お父さん。待ってて。今、助けに行くよ」  (つづく)  
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ちひろさん楽しい児童文学と云ったら良いのでしょうか?
夢一杯の文章ですね・・其の先はどうなるのでしょう〜
次を見るべく開いたのですけど・・・駄目でしたm(__)m

又続きを読ませて下さいませね。
因みに私は「宮部 みゆき」の児童書にはまっています♪ポチ♪

2009/8/19(水) 午後 4:26 mai**o14200*

こんばんは (^^)
いろいろな事を思い出して、コメントが遅れましたが、
山田くんが、助けに行くよといった、勇気!は、私が
皆から虐められて、中学1年の相撲大会の時に、悪の
大将と組み合った時に、今までに借りをと、力の限り
上手投げで投げ倒した時の様だったのでは?凸ポチ☆

2009/8/19(水) 午後 5:34 演歌人

お〜〜有ったんだ!!
良かった(^O^)/

ポチッと(^_-)-☆

2009/11/3(火) 午後 2:37 [ - ]


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