◆●光田ちひろの作品集●◆

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●百物語●

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 「お父さん。待ってて。今、助けにいくよ」
光田 千煕作
◆人体模型くん(7)◆
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 ガラスの仕切りの隣(となり)に、小さな部屋がある。クレーンの巨大な手を操縦(そうじゅう)する部屋だ。山田くんはそこへかけ込んだ。 中には、だれもいなかった。どうやら今は、ここで働く人は休憩(きゅうけい)中か何かで、いないらしい。 「どうする?」と言って山田くんがジャリ男の顔を見ると、彼はじいっとクレーンの操縦機(そうじゅうき)とにらめっこをしている。 「これ、オレに、動かせるかも」 ジャリ男はぼそりと、言った。 「要はUFOキャッチャーの要領(ようりょう)だ、きっと……」 学校の勉強ではさえないジャリ男だったが、ゲームセンターの遊びはお手のもので、彼の右に出る者はいない。 「いっちょ、やってみるか……」 「待って。岩野くん」 「なんだよ」 「大きさを比べてみて。あのクレーンは少なくつかんでも、一トンくらいのゴミをにぎってしまうんだよ。ほら、見てよ、あの大きさ。ぼくのお父さんの体の大きさと比べものにならない。きみがどんなに上手に操縦しても、お父さんだけを救い出すことは無理だと思う」 「いちか、ばちかだ」 「いやだよ。お父さんはプラスチックとか木でできているんだ。すごく細かいところまで本物そっくりに作ってあるんだよ。あのクレーンで無理してお父さんだけをつまみ上げようとしても、お父さんはつぶれちゃうよ。こわれちゃうよ」 「じゃ、どうしろって言うんだ」 ジャリ男は、少しいらいらしたような声で言った。「ほら、あの天井の近くを見て。ネットが張ってあるでしょ」 「うん。それが?」 「出入り口のドアもついてる。ネットの上に出入りできるんだ。多分人が入ってそうじか何かをするとき、使うんだろう。ぼくがあそこまで行くよ」 「まさかおまえ、あそこから、飛び降りるなんて言うんじゃないよな」 「まさか。そんなことしたら、上がってこられないよ」 「岩野くんがクレーンを運転して、あのネットの所で止めて。ぼくはネットの上から、自分の体をクレーンにしばりつけてぶら下がる。ほら、あのネットに長いロープが下がってるだろ、あのロープを使ってぼくの体をしばりつけることができるよ。ぼくがサーカスの空中ブランコみたいにぶらさがったら、岩野くんが運転して、お父さんのところまで下ろしてくれればいいんだ。ぼくがお父さんを抱っこしたら、今度はクレーンを引き上げて」 「そんなにうまくいくかな」 「わからない、でもクレーンで父さんをつかむよりは、ずっと安全だよ」 「そうだな。おまえのオヤジはつぶれないだろうな。でも、おまえがあぶないじゃないか」 「大丈夫だよ。岩野くんが運転を上手にしてくれれば、大丈夫。UFOキャッチャーの名人なんでしょ。さあ、早く。清掃センターのおじさんが来ると、またやっかいだ」 そう言うと山田くんは操縦室をとび出し、ゴミピットの上に張ってあるネットへ通じるドアを開けて、ネットの上にはい出した。あのいつもの、目立たないおとなしい山田くんとは思えない、大胆(だいたん)な行動だ。 ジャリ男はクレーン操縦室で、いよいよ操縦を開始した。適当にいろいろなボタンを押し、レバーを操作するうちに、すぐに操縦の仕方はわかった。ネットの上にしがみついている山田くんの近くにクレーンの手を寄せて、止めた。それだけで心臓がドキドキして汗をかいた。 それからジャリ男は山田くんの体にロープを巻くために、ネットの上へ回らなければならなかった。 「う……くせえ〜!」 その臭(くさ)さは、ジャリ男が想像していた百倍以上だった。腐(くさ)ったような酸(す)っぱいような毒ガスのような甘いような納豆のような下水のような、ありとあらゆるものの入り交じったい強烈な臭い。しかもゴミピットの中は、とても暑い。 「お、おまえ、よくこんな臭えところにいられるなぁ。こんなところ、三分以上いたら、死ぬ」 「いいから、早く、早く。このロープをこっちに通してしばって」 「くせぇ……よし、これでいい。これで絶対にほどけないぞ」 「じゃあ、岩野くん、操縦室にもどってね。すぐにクレーンを運転してぼくを下ろして。父さんの所に」 そう言って山田くんは、ネットの下に広がる膨大(ぼうだい)なゴミの海の上に横たわる小さな人体模型を指さした。 「父さん、待ってて。今、助けに行くよ」 山田くんの心臓はばこん、ばこんとはげしく打っていた。 ジャリ男は操縦室で、いよいよ本格的に運転に挑戦しようとしたちょうどその時、さっきのおじさんが操縦室に現れた。「何をやってるんだ!」 ジャリ男は無言で、操縦室のガラス窓の向こうを指さした。 「む……」とおじさんは、うなった。 「あそこに、人体模型が落ちてるんです。彼はそれを今、救い出そうとしてるんです」 操縦のレバーをにぎるジャリ男は、額に汗をぷつぷつと噴(ふ)き出させて言った。 「本当だ。人体模型だ」と、おじさんが言った。 「山田のオヤジさんです」と、ジャリ男。ぐぐぐっとレバーを引きながら……。 「あぶない」 「あぶなくても、がんばってやるんです。だって、あいつのオヤジさんですから。だれだって、オヤジさんがゴミの中に落とされたら、こうするでしょ」 「む……」とまた、おじさんはうなった。そして操縦室のテレビに映し出されるゴミピットの画面をのぞき込んだ。 「もうちょっと右だ」と、おじさんが言った。テレビにはロープにしばられた山田くんがサーカスの団員のようにクレーンの先にぶら下がって腕を伸ばしているのが映っている。 「右、右……」ジャリ男がレバーを右に引く。 「行き過ぎだ。それじゃ」と、おじさん。 「左、左……」とジャリ男がレバーを左に引く。 「もっと下げて」と、おじさん。 その時、どやどやと数人の職員が操縦室に入ってきた。 「何やってるんですか。中央制御室(せいぎょしつ)のモニターに変な子どもが映っていたから来てみれば」 「あの子どもはいったいなんですか。危険です、今すぐ止めさせてください」 などと、口々に言う。 「いや、見てなさい」と、おじさん。 「でも、所長」 「あの子はね、今、自分の父親を救い出そうとしているんだ。応援してやろうじゃないか」 「父親?」 「まあ、いいから見ていなさい」 その時だった。ジャリ男はたくさん入ってきた人たちに気を取られて、レバーを引きすぎた。クレーンが下がりすぎてしまった。ずぼっと山田くんの体が、どろどろ、ぎたぎた、ぼこぼこの『燃えるゴミ』の中へ埋(う)まってしまった。あわててジャリ男はクレーンを上げた。けれども、つり上げられた山田くんは、気を失って人形のようにぶら下がっていた。この臭さ、この暑さ、そして体に悪いガスも腐ったゴミから発生しているんだ、そんな所に埋め込まれたら、気を失うのも無理はない。 「山田〜!」 とジャリ男が操縦室からさけんだ。しかしゴミピットへ声は届いたのか、届かなかったのか、それさえもわからない。  (つづく)  
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こんばんは (^^)
山田くんの父を思う命がけの気持ち、判るような気がします、
気を失ってしまった山田くんどうなるのかなぁ〜?
熱いものがこみ上げてきました・・・・。・゚・(ノε`)・゚・。

2009/8/19(水) 午後 5:49 演歌人

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凄いね・・・
山田君の心が・・・・
次にはホッとする場面になって欲しいですね・・・友情と思いやり
助け合い・・信じる心はキット少年少女の良い力になるのは請け合い
です。有難う〜ポチ☆☆☆

2009/8/21(金) 午後 4:26 mai**o14200*

山田君・・・どうなるんだろう(>_<)???

ポチッと☆

2009/11/3(火) 午後 2:42 [ - ]


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