◆●光田ちひろの作品集●◆

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●百物語●

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 そのとき、がらっとドアが開いて担任の先生が入ってきた。あいさつのあと、待ってましたとばかりにジャリ男が立ち上がった。
光田 千煕作
◆人体模型くん(9)◆
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「先生!今日『体のしくみ』のテストをするって言ってましたね。あれ、あと一日延(の)ばしてください。オレ、必死で勉強してきたのに、まだ、わからないんです。えーっと胃って、うんこ作るところだっけ?」 みんながどっと笑った。 「先生の話、よくわからないんで、もっとよく勉強したいです」 さすがジャリ男だ。先生の気にさわるようなことも、平気ぺらぺら話せるんだ。 「どうして、わからないのよ、胃の働き、だれか説明できる人」 二、三人の子が手を上げた。 その子たちがさされる前に、ジャリ男が言った。 「この勉強は、実験とか観察とかないんですかあ。オレ、実物を見ないと、わからんのです」 「そうは言ってもね」と、先生。 「……実物の胃なんて、見せられないわ」 実を言うと、先生もあまり胃とか腸とか心臓とかの勉強を教えるのは得意でないのだ。だからさっさとテストをして、この勉強は終わりにしてしまおうと考えていた。 「はい」と、そこで山田くんが手をあげた。ジャリ男との打ち合わせ通りだ。 「ぼく、実物の胃、見せられます。見てください」 山田くんはつかつかと歩いて教室の前に出てくると、ガバッと自分の服をめくり上げた。みんな、おどろいたのなんのって……山田くんは、決してそういうことをする子じゃないって思っていたからね。 「ほら、こうなってるんです。よく見てください」 山田くんは、じぶんの胃袋を指さしながら言った。すごくリアルだった。だって本物の胃なのだから。 「胃袋は、こんな色の肉のかたまりなんてす。でも、自分の出している胃液で自分自身の胃がとけることはない。不思議ですね」 「うん、うん」 みんなは小さな子どものように首をたてにふって、聞き入った。 「胃の先は腸に続いているんです。これが、小腸。長いのをぎゅうっとつめて小さなスペースにまとめています。本当はとっても長いのです。ちょっと伸ばしてみましょうか」 そう言って山田くんは、自分の小腸を両手でぐにゃぐにゃとたぐり出して見せた。 「うわあ。長いなぁ」 腸は一メートル、二メートル、三メートルと曲芸のようにどんどん出てきた。 「ほら、このように一本の管になっているのです。腸だけではありません。口が入り口、肛門が出口で全体が一本の管です。だからそれを『消化管』っていうのです」 「すごい、長いなあ」 「どうして長いかわかりますか?」 と、山田くんは先生よりも上手に話を進めていく。 「う〜ん」 「栄養をできるだけたくさん、吸収するためです。どろどろにとかされた食べ物が、この長い小腸を通っていく間に、だんだん栄養を吸い取られるんです。だから長い方が、たくさん栄養を吸い取れるんです。短い腸だと栄養が全部取り切れません」 「なるほど。ここで栄養が吸い取られて、ウンチになるんだね」 「いや、まだです。小腸の先は大腸。ここで水分も吸い取られて、はじめてみんなが見るようなウンチができるんです」 「へ〜え、そういうしくみだったのかあ」 みんなが感心している間に、山田くんは引き出した腸を腹に押し込んでしまった。 「それから大切なことは血液が体中をぐるぐる回るしくみです。そのポンプのような役目をしているのが、この心臓」 山田くんはドクン、ドクンと動いている心臓を指さした。 「心臓は四つの部屋に分かれているんです。そして体中や肺に通じる太い血管がそこから出ている」 みんなは熱心に山田くんの胸をのぞきこんだ。けれども心臓の左右には肺がかぶさっているので、太い血管が心臓とどのようにつながっているのか見ることができなかった。 「心臓と動脈・静脈。人間の体の場合、これがまた、ものすごく頭のいいしくみになっていて……」 「見えないよ」 「見えないよ、肺をどかして見せてほしいなあ」 「心臓の中を開いて見せてよ。」 と、みんなは口々に言った。しめた!と山田くんは思った。 「残念ながら、腸のように引っ張り出すわけにはいかないんです。ぼくは生きているから、取り外しはむりです。肺を取ったら息ができなくなるし、心臓を取ったら血が流れ出て死んじゃう」 「じゃあ、あの、人体模型で説明してよ。あの、理科室の後ろのたなに入っている人体模型」と、理科が好きなエリ子が言った。 「そうですね。人体模型だったら、心臓をぱかっとわって、その中のおもしろいしくみも見てもらえます」と、山田くんは続けた。 「じゃあ、理科室に行って人体模型を見てこよう。山田くん、説明してくれるね」と、みんなは言った。 先生は困ってしまった。 「実をいうとね、あの人体模型、捨てちゃったのよ」 先生は、とうとう白状した。 「もう四十年以上たっていて、すごく古かったから……。校長先生に見てもらって、処分したの」 「え〜!」とさけぶみんな。 「人体模型が見たかったなあ」とだれかが言った。 「ジンタイモケイッ、ジンタイモケイッ!」とジャリ男がリズムをつけて言った。みんなもすぐにそのリズムに乗せられた。 「ジンタイモケイッ、ジンタイモケイッ!」 「ジンタイモケイッ、ジンタイモケイッ!」 教室の中は大合唱になった。 「大丈夫。人体模型はちゃんとありますよ。理科室に見に行ってください」と、山田くんがさけんだ。 「え?本当?行こう、行こう」 みんなはどやどやと、理科室へおしかけた。 がらりと戸を開けると……。 あった。 人体模型は、とてもきれいにみがかれて、理科室の黒板の前に立っていた。まるで、立派な先生のように。 みんなは、人体模型を取り囲んだ。 「よかったぁ。あったじゃないですか。先生ったら、こんなかっこいいもの捨てちゃだめですよ」と、エリ子が先生に笑いながら言った。 「じゃ、これで、説明しますね」 山田くんはお父さんの心臓を取り外し、中の様子がみんなに見えるように、ぱかっと開いて左右の手で持った。 パチパチパチとみんなの拍手。 「こんなふうに、心臓の中は左右に分かれ、さらに上下に仕切られています。つまり四つの部屋に分かれています。これは、血液が流れるために………」 ふむふむ、なるほど。と聞き入るみんな。 説明が終わると、大きな拍手。 山田くんは最後に言った。 「この人体模型は、ぼくのお父さんなのです。これからも、ずうっとこの理科室に置いてください。そして毎年、体のしくみの授業に使ってください。それがお父さんの『生きる』っていうことなんです。ぼくは、お父さんに、がんばってもらいたいです」 そう言って山田くんはぺこりとおじぎをした。みんなから「わあ!」っというおどろきの声と、再び大きな拍手。 山田くんは、少しだけわかってきたんだ。真面目に平凡に生きるってことがどんなことだか。だけどこのときは、まだだれも知らなかった。……山田くんが先生になって、二十年後、北野小学校にもどってきてとっても楽しい理科の授業をするなんてことは……。(おわり) 

いかがでしたか。「人体模型くん」は『百物語 黎明編 第3話』でした。もし気に入ってくださったら、本、買ってくださいね。(^o^)

 

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閉じる コメント(11)

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ふぅ〜。

不思議で面白い話でした(^O^)

そう言えば、俺も人体模型の授業受けた記憶って無いかも(^-^;

素敵なお話し有り難う御座います♪

2009/8/22(土) 午後 10:49 ごんぞう

おはようございます(^^)
最後まで、読ませていただきました、一時はどうなるかと
思いましたが、どきどきハラハラしながら、読ませていただき
良かったです、親子の愛情・絆って深くて絶対切れないもので
すが、最近は子供が親を平気で殺したり・・山田くんの様な
子供は少なくなってきていますね、子供の頃から苦労させて
人間の尊い命の大切さを教えることが大事ですよね、この本
を買って近所の子供達に読ませます、いい話を有難うござい
ました。有難うd(⌒ー⌒) 凸ポチ☆

2009/8/23(日) 午前 6:53 演歌人

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こうなったのね〜〜!
やっと今日読む暇ができたのです〜〜♪
気になって、夕べは明日こそ!と思い読めたのです。これって大人も面白いよ〜。リアルな感じがゾク!ってね(*^▽^*)

2009/8/24(月) 午後 3:33 ☆パンジーです☆

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ポチわすれた〜〜〜!
傑作ポチ〜!

2009/8/24(月) 午後 3:34 ☆パンジーです☆

全部読みましたよ!
面白いですね〜。。お友達のいなかった山田君、自分の生命を悲観していた山田君が少しづつ心を開いていくんですね。
そして、自分が大切にしなければならない物を見つけた時の
喜びもひとしおだったでしょうね。。
そして、自分を卑下する事無く、自信を持って生きて行かれたのね

チョッピリ悲しくてドキドキしながら読んでいました。
楽しいお話ありがとう〜〜ポチポチポチ☆

2009/8/24(月) 午後 9:15 マンマ

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人体模型くん、面白かったです。
この人体模型くんももちろんいいですが、私は光田さんの「百物語」の本を1冊読みました。どれもすごい力作!
創造力、表現力、流れるようなテンポのよい文体。素晴らしいと思います。みなさんも是非読んでみてください。おすすめです〜

2009/9/2(水) 午後 8:42 [ はなこ ]

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ちひろちゃん

1〜9まで一気に楽しませて頂きました〜
本当に夏休みの感想文にピッタリの作品でした♪
子ども達も楽しんで読みきりそうです。

続きは…!?ってハラハラドキドキのストーリー展開。
常にストーリーが画像で見えてくる表現力の豊かさには感服です。
山田君やジャリ男と一緒に自転車に乗りクレーンを動かし…

ホント楽しませて頂きました・ありがと★

2009/9/30(水) 午後 11:34 幼児小学生絵画教室 三原色の会

ひととおり読ませていただきました。凄くリアルですが人体についての解説が面白いし、なんだかどうなるのかなと言う気持にさせられました。次をよみたいなぁという気持ちになります。
人体って不思議ですね、僕も今、病気で悩んでいますが今度入院します医学の知識を少し身につけたいと思っています。
ありがとうございます♪

2009/10/1(木) 午前 9:22 みーくん

ジャリ男の鈍感さは時には人の心を傷つけますね。
でも根はいいやつ!ってホントにに仲良しにならなければ
わからないですよね。それともどんなに泣かされても人が良くって
憎めないやつってのはわかるのかな!

人間は普通っていうのが
それぞれ違いがあるってところにとっても感動しました。
違いがあって当たり前、
山田くんは少数派の中のとことん少数派ですね!
少数派がいてその集まりが人間ですもんね!
読んだあといろいろ考えさせられましたよ〜〜〜
ぽち★

2009/10/16(金) 午後 2:52 [ - ]

意外な展開・結末に驚かされましたが。
最後はハッピーエンドで良かったです(^O^)/

本も出されてるのですか(゜レ゜)???
凄いですね!!!

素敵な作品にポチッと(^O^)/

2009/11/3(火) 午後 3:11 [ - ]

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面白かった

2010/12/29(水) 午後 1:15 [ かいと ]


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