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ころころとビニールボールが向こうから転がってきた。直也は足下からそれを拾い上げ、ボールを追って走ってきた男の子に渡そうとした。

 今までにないような近い距離で、子どもの顔を見つめた。そして「あっ」と小声で叫んでしまった。

 子どもは化粧をしていたのだ。おしろい……女性が塗るファンデーション……というやつを顔全体に塗っていた。それもかなりの厚塗りだった。まるで白っぽいゴムマスクをつけているようだった。

 直也はつい我を忘れて、子どもの顔をじろじろと何秒間も見てしまった。ゴムマスクをつけたような子どもの顔が次第にこわばっていく。

◆手◆その3◆(百物語 黎明編 第13話より)◆

「不審者だ。」

 子どもは言い、ぱっと身を翻して友達のいる方へかけていった。まだ直也の手にビニールボールは残っている。

 ……子どもの発したその言葉は、直也の心を崖から谷底に向かって突き落とした。

 直也は立ち上がり、ビニールボールを片手に持ち子どもたちの方へ向かって全力疾走した。そうせずにはいられなかった。

 蜘蛛の子を散らすように逃げる子ども達の中の一人に直也は追いつき、その手首をつかんだ。わっと泣き叫ぶ子ども。

「大丈夫、僕は不審者なんかじゃないから。ボールを返すだけだ。」 

直也は震える声で言うと、子どもが逃げないようにさらに強く手首をつかみ、その手に無理矢理ボールを握らせた。

 子どもはおびえてぎゃーぎゃー泣き叫んだが、本当は直也の方がもっとおびえていた。

「大丈夫、不審者じゃない。一つだけ教えてほしいんだ。そうしたら放すから。教えてくれ。どうして顔に化粧なんかしてるんだ? いつからそんな化粧をしてるんだ。」

 ぎゃーぎゃーと泣き叫ぶ子ども。一緒に遊んでいた子どもたちは逃げるに逃げられず、遠巻きに見ている。

「僕は化粧のことが知りたいだけなんだ。どうしてだ? 電車に乗っている子もテレビに出てくる子も皆、白い顔をしてる。誰がそんな命令を出した? それが知りたいだけなんだ!」

「教えてやるよ。」

 一人の勇気のある子どもが直也の後ろから声をかけた。    

「『命令』は連絡網を通ってぼくの頭へ届くんだ。」

「連絡網?」

 直也は納得せずに繰り返した。

「何だ? 連絡網って。学校の連絡網のことか?」

「学校のわけがないだろ、頭の中の連絡網だよ。教えたんだから、タッちゃんを放せ。」

「頭の中の連絡網? いつからそんなのができたんだ。皆の頭の中にあるのか? もっと分かるように話してくれ。」

「タッちゃんを放せよ! 早く!」

 子どもは震える声で訴えた。しかし直也は放すわけにはいかなかったのだ、子どもの言っていることが全く飲み込めないのだから。

 その時だった。数人の大人が公園に乗り込んできて、あっという間に直也を取り押さえた。

 左右の腕を二人の男にねじ上げられ、直也には抵抗する力も気持ちも、これっぽっちも残ってなかった。

 パトカーが来た。直也は警察に連行された。

 取調室の椅子に座らされて、状況を説明しろと言われた。

「ただ僕は知りたかっただけです。連絡網って何ですか? どこから出てるのですか? 何のために子どもは化粧をしているのですか?」

 直也はかすれた声で、繰り返し叫び続けた。口の中が渇いて、だんだん声が出なくなっていった。

 聞き取り調査を行う警官は、冷ややかな目で直也を見つめるだけで、何も答えてくれなかった。

「だいぶ精神の錯乱状態が見られます。頭が変です。まず、こりゃ医者に診せた方がいい。悪意は見られないようですが、一人で家に帰すのは危険が伴う。家族を呼びましょう。」

 数時間後、隣の県から車を飛ばして直也の父母が駆けつけた。母は直也の顔を見るなり、一筋の涙をこぼした。

 直也も母の姿を見てほっとした、一瞬は……。

 しかし、すぐに新たな疑問が頭をもたげた。この母は、今まで直也を育て上げてくれた母と同じ者なのか? 頭に連絡網とやらが通じている、母の皮を着た別人かもしれない。温厚だった父も、今は父の皮を着た別人かもしれない。

 直也はしばらく大学を休み、家で静養するように言われた。

 家でのんびり過ごすことは確かに直也の心を少し癒してくれた。

 家族は直也の心の中にある思い出といくぶんも違わず優しかったし、家も庭も自分の部屋も懐かしかった。

 ただ、近所に住む結婚した姉の子は、毎朝顔を真っ白に塗って幼稚園に通っていた。下の赤ん坊は、化粧されていなかった。

 姉の和美が子連れで遊びに来たときに、直也はしらばくれて和美に聞いた。

「赤ん坊は、化粧しなくていいの?」

 とぼけ顔でそれだけ聞くのに、心の中は非常に高ぶり、手のひらに冷や汗をかいた。

「なんで赤ん坊が化粧する必要があるのよ。」

 逆に和美に聞き返された。

「じゃあ、幼稚園のハルカはどうして化粧するの。」

「しょうがないでしょ、ハルカがやりたいって言うんだから。こういう時代だと子どもの本能も変わってくるの。」

「本能?」

「防衛本能よ。世の中の道理がわからない不審者を見分けるため、頭の中に新しい本能ができるの。最近ではファンデーションなしでは、絶対にこの子は外出したがらないわよ。」

 直也は自分がそれで騒ぎを起こしたことを思い出して、ギクリとした。

「僕を取り調べした警官はそのことを質問してもちっとも教えてくれなかった。ただ頭が変だと言っただけだ。」

「当たり前でしょ。そんな常識を真顔で繰り返し聞けば、頭が変だと思われるわよ。どうして人殺しや泥棒がいけないんだ?って真剣な顔してしつこく聞いて答えを知りたがる人間がいたら、気味悪いじゃない。それと同じよ。」

「連絡網で命令されるんじゃないの?」

「ま、そんな感じよ。どこかから電波みたいに飛んできて、いつの間にか頭の中に入ってるの。本能って教え事じゃないのね。」

「電波? どこから飛んでくるの? 誰が命令を出すの?」

「さあ、神様なんじゃない。」

 そこまで言うと和美は顔をしかめ、口を直也の耳元につけて小声でささやいた。

「これ以上詮索しちゃだめよ。考えてごらんなさい。この世は誰が創ったか? どうして自分はここに存在してるのか? なんて私たち真剣に考えて論議してる?」

「いや……。」

「人間や動物の本能は誰が決定してるかってのも、それと同じようなレベルのことでしょ。」

「まあ、そうかな……。」

「そうでしょ。そんな話は哲学者とか宗教関係者とかに任せておけばいいの。巷の人間がそんなこと真剣に考えて普通の生活が送れないとしたら、そりゃあ、狂ってるわ。」

「でも、僕は……。」

「しっ。」和美は口に指を当て、直也の言葉を制した。

「知ってるわよ。あなたには連絡網が届かないのね。でも、分かってるふりをしなさい。周りを見て真似するだけでいいの。簡単よ。」

 そう言うと和美は子どもの頃よくやったように、直也の頭を優しく何度も撫でた。

「いい子ね……。何の心配もいらないのよ。自分が何かなんて思っちゃだめ。ただ大勢の人の真似をして生きていけばいいの。」    

                   ◆明日の記事へ続く◆

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「大丈夫? あの……失礼ですが……あなた何か、頭の病気とかあります?」

 婦人は平気な顔で落ちている手をまたぎ、つかつかと直也に近寄って、頭を抱えた直也の肩に手をかけようとした。直也の心臓は小さく小さく収縮していくようだった。

ああ、やめてくれ。近づかないで。肩をさわらないで!

えも言えわれぬ不安に襲われた直也は、一歩、二歩と後ずさりし、その後、くるりと背を向けると店の外へ向かって一気にかけ出した。

自分が頭の病気だって? 精神病ってことか? 病気なのは、あなたたちではないか? 


◆手◆その2◆(百物語 黎明編 第13話より)◆

                     ◆◇◆

 直也は彼女とランチの待ち合わせをしていたことも忘れ、駅へ直行すると、誰とも目を合わさないように苦心しながら電車に乗り、揺られ続けた。

 自分のアパートへ着くと、内側から玄関のカギをかけ、すぐにベッドへ潜り込んだ。

しばらく布団を被ってふさぎ込んでいたが、一時間ほどして少し気分が落ち着いたので、テレビのスイッチを入れた。

 あれはもしかしたら、「ドッキリテレビ」とかそういう類の悪質な冗談で、人の肝を抜いて視聴者を喜ばせる番組の仕掛けだったのかもしれない。いや、それにしてはあまりにもあのちぎれた手はリアルで生々しかったが。もしかしたら、いまごろバラバラ殺人事件として、ニュースで報道されているかもしれない。

 そう思って直也はリモコンのチャンネルをせわしなく変えながら、ベッドの中でテレビを見続けた。

 しかし、先ほど直也の見たものを説明するような番組は、どのチャンネルでも何一つやっていなかった。

 そのままその事件は直也の心の中に葬られた。

 しかし生身の人間の手というものは、ちぎれて放置されると、心の中でも腐敗を進行させるものだ。直也の心は、その手の記憶を覆い隠すことによって、一緒に腐敗を始めたようだった。

       ◆◇◆
 
 その夜から、直也は蛆虫の夢を見るようになった。

 いろいろなシチュエーションで蛆虫が出てくる。

 あのショッピングモールの入り口の落ちていた手に、ハエが卵を産み付けている場面。

 そこから続々と蛆虫が生まれる場面。

 右手の無くなった死体がどこかの空き地に転がっており、死体の内部から蛆虫が発生し、くちゃくちゃと音を立てて肉を食べている場面。

 手、足、腕、太股、胴体、頭と死体がバラバラにされて出てくるときもあった。表面にはうろこのようにびっしりと蛆虫が覆い、それぞれがどこの体のパーツなのか、夢の中、直也は目をそむけながらも考えている。

 蛆虫のアップ。どこか遠くで常にボ――――――ンという重苦しい低い音が響いている。

 太った子どもの指ほどもある汚れた黄土色の蛆虫が、どこかの壁を這い上がってくる。

 ぐにゃぐにゃと重なり合いながら蠢く様子がこの上なく気味悪い。そいつらは這い上がり、直也の体へ、直也の手へと迫り来る。

 訴えているのだ。ちぎれた手が……。自分の主だった人間を捜してくれと。放ったらかしにしないでくれ、もう一度、主人の体に縫いつけてほしいと。

 なのに、直也は見て見ぬふりをした。

 なぜならば、直也を取り巻く世界が、突然今までとがらりと表情を変え、直也を無視したからだ。

 世界……直也が今まで大体こんな風だと思い込み、信じていた世界は一体何だったのだろうか? 世界があの時、あの瞬間、豹変した。

 あの手のことを警察に通報しなかった直也が犯罪者だとしたら、あの時あそこを通った全ての人間が犯罪者じゃないか? しかし、この世は相変わらず平和じゃないか、見かけ上は……。

 直也は目が覚めているときも、恐ろしい錯覚に付きまとわれた。日常のいたるところにちぎれた手が、ちぎれた足が、ちぎれた指が、落ちている錯覚だ。

 瞬間的に赤黒いぐにぐにした断面をもつ手足に見えるそれは、もう一度見ると、靴だったり、放置されたおもちゃだったり、投げ捨てられた空き缶だったり、ただの石だったりする。

 さりげなく、微妙に、直也を取り巻く世界は狂い初めているようだった。    

       ◆◇◆

 ランチの待ち合わせをすっぽかしたことで、直也は彼女にふられてしまった。

 ふられるのは当たり前だ。相手が怒るのは当たり前だ。直也が約束をすっぽかし、その後も何の弁解もなく放置しておいたのだから。

 そう思うとかえって安心した。それが世の中というものだ。直也が今までこんなものだと信じていた世界が直也の目の前にあること、それは彼女とのつき合いが続くことよりも大切なことだった、今の直也にとっては。

 どうか、直也の頭の中にある常識の通用する世の中であり続けてほしい、たとえ、彼女にふられてもだ。

 どうか、ちぎれた手足がごろごろ転がっていて、まるでそれを道ばたに放置された犬の糞か何かのように不愉快に思いながらも無視し、またいで歩くようなそんな世の中ではありませんように……。

 直也の願いが通じたのが、その後は手も足も指も、全く落ちていることはなかった。あの日の出来事は夢だったのだ、と直也は自分に言い聞かせようとした。しかしやはり、この世の中はどこかが違う。今までと。

 どこだろう?

 直也は同じような絵が二つ並んだ間違い探しのパズルのように、以前の世の中と、今、目の前に広がる世の中を比較した。

 この世界の何かが違う。何だろう? いや、どこも違わない。いや、ちがう……。

 大学へ向かう電車の中で、直也は私立学校へ通う小学生の姿をまじまじと見つめた。なんだか子どもが皆、白い顔をしている。能面のような白い顔。

 電車の窓から、通学路を歩く小学生たちのランドセルをしょった姿を見る。やはり白い顔だ。

 最近の子は外へ出ないから、ひときわ白さが目立つのか?いや、白いと感じること自体、単なる気のせいかも知れない。よく分からない、でも何かが違う。

 そう思い始めると、子どもの顔の色ばかり気になるようになった。何事も、うわの空になる。テレビを見ても子役ばかり見てしまう。

 わざわざ子どもの顔を見るために、公園へ出かける。ベンチにいつまでも腰掛けている。遊具で遊ぶ子どもたちの姿を目で追う。

 ころころとビニールボールが向こうから転がってきた。直也は足下からそれを拾い上げ、ボールを追って走ってきた男の子に渡そうとした。

 今までにないような近い距離で、子どもの顔を見つめた。そして「あっ」と小声で叫んでしまった。

 子どもは化粧をしていたのだ。おしろい……女性が塗るファンデーション……というやつを顔全体に塗っていた。それもかなりの厚塗りだった。まるで白っぽいゴムマスクをつけているようだった。

 直也はつい我を忘れて、子どもの顔をじろじろと何秒間も見てしまった。ゴムマスクをつけたような子どもの顔が次第にこわばっていく。

   ◆明日の記事へ続く◆

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みなさん、こんにちは(*⌒―⌒*))) ニッコニコ〜♪

ぷっと膨らむお餅のライン、いかがですか〜?

もう今日は正月の3日なのですね。

時間の過ぎるのでは早いですね〜。

やることがたくさんあるので、

なんだか自分だけ、時間が過ぎていくのが早いのではないか?って感じることがあります。

あれをやらなきゃ、これをやらなきゃ、と。

お恥ずかしながら、年末にやり残したお掃除もいつかやらなきゃならないし

年賀状も新しい人からばらばら来て、お返事出さなきゃならないし、

お恥ずかしながら、去年持ち帰った仕事の書類もつくらなくちゃならないし、

娘たちもほったらかしているとお笑い番組ばっかりみているし(なんと受験生ですよ!)

自分は貧乏性なんですかね………(-_-;)


あ、そうそう、百物語の「手」のアップが滞っていました。

これからアップしますから、お暇な人、読んでください。

ホラー……というか、不思議な話が読みたい人にお勧めです。

ケータイからもどうぞ!

今日はうちに妹が遊びききます!

すこしかたづけなくちゃ!

そわそわ………(≧▽≦)

ホラー風『世にも奇妙な物語』です!↓
◆百物語◆第13話◆手◆その1◆


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羽根つきのラインをつくりました。

ちょっとしたワンポイントにつかってくださいね〜♪

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ちょっと辛口の年賀状です。

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まず、自分で引いてみてくださいね。

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