YAMINABE the Second Operation

この11年間の数多くの思い出を携え、私は新たな旅へと出発します。それでは皆さん、御達者で。

第九計 隔岸観火

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承前  故事其之壹 ─ 戊





 それで楚の国人たちは闘穀於菟に対して、成得臣の勇猛な気性と、軍紀における厳格ぶりと、手腕の有能ぶりを讃え、推挙した闘穀於菟自身をも祝した。
 そうして蔿賈が、皆より遅れてから闘穀於菟の下に姿を見せた。そして唯一蔿賈だけが、何も祝いの言葉を述べなかった。
 怪訝に思った闘穀於菟がその訳を尋ねると、蔿賈は言った。


「一体何を祝うのでありましょうや?子玉(成得臣)が外で失態を犯せば、推挙された子(し)【※13】が責めを負う事となりましょう。
 大体子玉は徒に気が強く、礼を知らず、民を上手く治められませぬ。
 もしも三百乗(戦車三百台)以上の兵を率いたのなら、子玉は無事には帰って来れぬでありましょうな。」


 蔿賈のこの予言は的中した。
 翌年の紀元前632年の事。北方の最大のライヴァルである晋との間に、晋が勝利して天下の覇権を得るに至る決戦「城濮の戦い(じょうぼくのたたかい)」が起こった。
 時の晋の国君は晋文公【しんのぶんこう:本名は姫重耳(きちょうじ)】である。
 楚成王は晋及び国君の晋文公には天が味方し、力を授けていると見抜き、自軍の戦況の不利を悟り、戦っても負けると判断して軍の撤退を命じた。
 だが成得臣は元来向こう気が強く、気性の激しい上に、先の蔿賈の予言を気にしていたので、君命に従おうとはしなかった。


「臣は何も、強いて功を立てたいのではありませぬ。臣を謗る者(蔿賈)の口を黙らせたいのでございます。」


 命令に逆らう成得臣を楚成王は不快に思い、「ならば勝手にするが良い!」とばかりに、少数の兵だけを残して、楚成王は残りの軍勢を率いて帰国したのであった。
 こうして城濮(じょうぼく)【※14】の地において、成得臣を主将とする楚成王不在の楚軍と、晋軍との間で会戦が行われた。一大決戦「城濮の戦い(じょうぼくのたたかい)」である。
 結果楚軍は晋軍の戦略戦術によって大敗した。この大勝利を以って晋文公は、一躍春秋覇者の座に駆け上がった。
 その一方で戦いに敗れた楚軍主将であり、令尹の成得臣の命運は尽きた。


 戦いの終わった後、成得臣は軍を纏めて楚の領内まで撤収して来たが、楚成王は自分の命令に背いた上に、自軍を敗北に追いやった成得臣に対する怒りが収まらず、決して許す事はなかった。
 それを知った成得臣は、観念して遂に自裁して果てた。こうして蔿賈の予言は的中した。
 以上の「城濮の戦い」の詳細は、【第二八計 上屋抽梯】の故事(リンク先工事中)として語る。
 闘穀於菟はどのような罰を受けたのか、或いは不問とされたのかは不明だが、どちらにしろ成得臣を推挙した闘穀於菟は、面子を潰す結果となった。


 この蔿賈の予言の的中こそが、後年の蔿賈の死と、若敖氏(闘氏)の破滅の要因の一つとなる。
 それと言うのも、先の城濮での一戦で、闘氏一族も多く成得臣の麾下で従軍して戦った。勿論闘椒も従軍していた。
 それで蔿賈の予言が元で、敗戦した上に成得臣が命を落す結果となった事で、闘椒の中で蔿賈に対する疑念(又は怨恨)が湧き起こったのである。





 ♕ 闘穀於菟の遺言

 そして恐らくは一族の当主か、又は最長老の位置にあった闘穀於菟も、やがて年老い寿命が迫った。死ぬ間際に一族を集め、次のように遺言した。


「もしも椒(闘椒)が楚の政(まつりごと)を執るようになったのなら、そなた等は速やかに楚を去るが良い。そうして難を避けるのだ。」





後続  故事其之壹 ─ 庚

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蔿賈という人も、人を見る目はあったのでしょうが、だからといって、大勢の前で、そういう評を言ったのは、恨みを買うもとですし、闘穀於菟だけに話す程度にしておけばよかったですね。
成得臣も、そのように評されて、反省して自分を振り返ればちがった結果になったでしょうが、、その予言を覆したいという思いにとらわれ過ぎて、身を滅ぼす結果になりましたし、予言というのは、ある意味、人の行動を縛る力がありますね。予言するから予言が当たるという部分もある気がしますね。

2013/6/28(金) 午後 10:40 [ さざんか ]

さざんかさんの仰るように、それは「どちらもどちら」と言えるかも知れません。
もしかしたら蔿賈は、成得臣を嫌っていたのかも知れませんが、成得臣の方も強情過ぎて、謙虚さに欠けていたのでしょう。

本当にこの時代の予言や占いの的中率の高さと言ったら、驚くばかりです。

2013/6/29(土) 午後 1:18 ZODIAC12

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なるほど、相性があわない者同士なのかもしれませんね。


古代の話を読む上では、予言はとても面白いし、奇譚はやはり魅力がありますね。あまり気味の悪いものはちょっと嫌ですが。

2013/7/2(火) 午後 11:39 [ さざんか ]

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「本当に実話なのか?」なんて勘繰ってしまったりも(^^;)。
現代的な感覚からだと、何でこんなによく当たるのかと、不思議に思えますので(苦笑)。

奇譚と言えば、豎牛の話なんかもそうですね。

2013/7/3(水) 午後 7:04 ZODIAC12

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まさにそうですよね。
予知夢というのは、割と近代でもあるようで、西洋でもこういう話を集めたものがあるようですが、気味が悪いですね。

2013/7/7(日) 午後 3:16 [ さざんか ]

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はい、全部が全部事実なのかは疑問ですが、やはりそれなりに事実なのでしょう。
現代でも占いとか予言が、よく当たる人間も実際にいる訳ですから。

2013/7/8(月) 午前 7:59 ZODIAC12

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ほんとですね。

2013/7/14(日) 午後 5:53 [ さざんか ]

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はい。

2013/7/15(月) 午前 6:36 ZODIAC12

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ホントに悪い予言って当たりますね。

元は本人が勇猛すぎる事からきた死なのに、
何時の間にか予言した蔿賈本人が災厄のように話がスリカエられてませんか?

でも公の場で予言されたら、政治的に揉めると思わないのかな〜
どっちも引き返せなくなってしまう。
こういうのって難しいですね

ナイスヽ(*´∀`)ノ★ぽち

2013/8/18(日) 午後 5:51 栞

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お!珍しく連続顔出し&ナイス☆、ありがとうございます!


そもそも蔿賈が何故、わざわざ公の場でそういう予言をしたのか、動機がよく解らないのですよ。
政治とか深く考えずに、単に個人的に気に食わない相手を、貶したかっただけなのかも知れませんが。

闘椒にしてみれば、恐らく蔿賈は個人的に気に入らない相手だったのかも。だから強引にコジツケただけかも知れません。

予言は悪いのばかりでなく、良い予言も結構当たってますよ。全体的に見て少ないですが(^^;)。

2013/8/19(月) 午前 8:40 ZODIAC12


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