YAMINABE the Second Operation

この11年間の数多くの思い出を携え、私は新たな旅へと出発します。それでは皆さん、御達者で。

第七計 無中生有

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承前  故事其之壹 ─ 辛





 だが『源平盛衰記』での「火牛の計」についての記述は、頓珍漢な誤りを犯している。
 オリジナルである田単の「火牛の計」についての記述は前述の通り、両角に刃、尾に葦の松明をそれぞれ括り付け、そして五色の龍の文様を刺繍した、真っ赤な絹の衣を着せたとある。
 下がそのイメージ図である。








https://blogs.yahoo.co.jp/IMG/ybi/1/b7/00/zodiac3721/folder/456589/img_456589_10966670_8?1359545836








 しかし『源平盛衰記』での「火牛の計」の記述では、下のイメージ図のように、牛の両角に刃ではなく、松明を括り付けた格好になっている。
 刃は全く括り付けておらず、衣装も全く着せていない。








https://blogs.yahoo.co.jp/IMG/ybi/1/b7/00/zodiac3721/folder/456589/img_456589_10966670_9?1359545836








 これでは牛は前方に進んだりはしないだろう。
 尾の方に火を灯すからこそ、牛はその火から逃れようと真っ直ぐ前へ進むのであって、頭上で火が燃えていたらそうはならない筈である。
 このような滑稽な記述ミスを犯している事から、作者は恐らくは武士階層の出ではなく、戦とは無縁の階層、すなわち公家階層の出ではないだろうか。
 あるいは意図的にわざと誤った描写をしたのであろうか。
 だがそんな誤りが常識化してしまい、松明を角に付けたものだという認識が浸透してしまった。
 義仲が「倶利伽羅峠の戦い」でこの戦術を使った事自体がフィクションである上に、牛の尾ではなく、牛の角の方に松明を備え付けるというあり得ないフィクション(と言うよりは誤り)の、二重の虚構が独り歩きするようになって、現在にまで至る。


 しかし例えフィクションだとしても、倶利伽羅峠の史跡や、倶利伽羅峠のある現在の地元・富山県小矢部市(とやまけんおやべし)には、「火牛」の像が何体か建てられているが、やはり尾の方ではなく、両角に松明が括り付けられている姿になっている。
 そして小矢部市ではこの故事に因んで、毎年7月に『源平火牛まつり(げんぺいかぎゅうまつり)』なる祭典を開催している。
 その中のメインイヴェントが「火牛の計レース」というもので、ルールや詳細はよく判らないが、台車の上で藁で作った牛の像を載せて、その台車を牽引してタイムを競うものだと言う。走る時には、藁の牛の像の角の箇所に火を灯すと言う。
 尚、この木曾義仲が鮮やかな勝利を果たした「倶利伽羅峠の戦い」については、【第二二計 関門捉賊】の故事(リンク先工事中)として語る。





 ♝ 祖国奪回──────奇跡的な大逆転勝利

 話を戻して。この勝利が契機となって、斉全体の反撃が始まった。
 斉国内の城市は全て燕軍の占領下にあったが、田単の勝利と即墨の燕軍からの解放を知って、急激に勢い付いた。
 そうして田単率いる斉軍の通り過ぎた城市は、次々と燕軍に背き、田単の指揮下に入って行った。
 その勢いはさながら、球が坂を転げ落ちるが如く、河川の激流の如くであった。
 勢いに乗った田単率いる斉軍の兵力は、日を追うごとに膨れ上がって行き、死に体同然であった斉軍は忽ち息を吹き返し、次々と燕軍を撃退し、占領された城市を解放して行った。
 対照的に燕軍は敗走に敗走を重ね、命辛々やっとの思いで、斉と燕の国境である黄河(こうが)の畔に辿り着いた。
 こうして敗れ去った燕軍は全て本国へ逃げ帰り、斉の国都・臨淄も含む国内の七十余もの城市は、全て斉の手に奪還されたのであった。


 こうして奇跡的な大逆転勝利を果たし、国内より燕軍を一掃した後、莒に避難していた斉襄王は、田単始め斉人たちによって遥々国都・臨淄まで迎えられ、親政を執り始めた。
 世界史上類稀な、余りに鮮やかな大逆転劇である。





後続  故事其之壹 ─ 癸

「第七計 無中生有」書庫の記事一覧

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本記事の2個の画像は、私の手描きによるもので、ペイントのソフトを使って、PCマウスを操作して描いたものです。

旧ブログでもやった事のない初の試みですが、やっぱり手に直接筆を握って描くのとは勝手が違いますね(^^;A)。
マウスだと細かい箇所がどうも上手く描けません(^^;A)。

それにペイントは色の種類があんまりないから、色の表現も限られて来ますしね。

2013/2/1(金) 午前 10:23 ZODIAC12

『源平盛衰記』の火牛の描写のみならず、平家物語にもシナの古典の換骨奪胎と思しきエピソードはいくつか見え隠れするような気がします。今とっさに思い当たる節でも、木曽義仲の最後は史記の項羽の最後に良く似ていますし、三国志演義で曹操が火責めで、九死に一生を得る場面で彼の忠実な部下が人間のたてとなる場面は、義経記の弁慶の立ち往生に酷似しています。

また曹操といえば山中鹿之助のいう「我に七難八苦を与えたまえ」の台詞は三国志演義での曹操の言葉の模倣ではないかと思えるほど似ていますね。

2013/2/3(日) 午後 3:29 [ 彩帆好男 ]

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そうだったんですか!?『平家物語』の原作をしみじみ読んだ事なんかないので初耳ですが。

支那史のエピソードを元ネタにしたフィクションが結構ちりばめられているのですね。「弁慶の立ち往生」までフィクションだったのですか・・・・・。

山中鹿之助の有名な「七難八苦」の台詞は、恐らく史実じゃないですかね。

2013/2/3(日) 午後 9:44 ZODIAC12

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誰の絵・・・って聞こうと思ったら自供コメが・・・(爆

そういえば、ペイントの使い方を聞かれたような?(記憶違いかな

確かに頭に松明だけじゃ擬兵には使えても、戦力にはならないだろうな^^

毛利元就の三本の矢は・・・
あれはイソップ童話だったかな?

やはり勝利する者は、勝つための積み重ねがあるものなのですね^^

ナイスヽ(*´∀`)ノ★ぽち

2013/4/22(月) 午後 7:55 栞

どうも御待たせしました。ナイス☆ありがとうございます。


私が描いたのですが、やっぱり下手に見えますかね?(^^;A)旧ブログじゃついにやらなかった試みですが。
使い方を聞いたような、聞かなかったような・・・・・忘れました(苦笑)。


「三本の矢」の元ネタはモンゴルのチンギス・ハーンだったかと聞いています。イソップ寓話にも類似の話があるみたいですが。
ちなみに元就の広島に本拠を置くJリーグのサッカーチームに、『サンフレッチェ広島』があります。このチーム名の由来がこの「三本の矢」です。
「サン」は日本語の「三」、「フレッチェ」がイタリア語で「矢」という意味ですから。

2013/4/24(水) 午前 8:44 ZODIAC12

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>やっぱり下手に見えますかね?

いや、その逆。
素人が初めて描いたにしては上手いです。
ペイントって描画ソフトではあるけど、結構コツがいるから^^

2013/4/28(日) 午後 7:23 栞

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御評価どうもありがとうございます。(^^)v

描き辛くて少々手古摺りましたよ(^^;)。何度も描き直しましたし。特に図1の赤い衣の龍の絵柄が、細かい作業を強いられました。

これらイラスト画の元画像は、書庫【資料画像】に収録してあります。
この書庫はまだ記事が3本のみで、イラスト画像だけで文章は一切なく、コメント欄も全て閉じてありますので、もし気が向いたら覗いてみて下さい。(^^)b

2013/4/29(月) 午前 11:40 ZODIAC12

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なるほど、木曾義仲の火牛は、頭の上に火では、牛は前には進みませんね。これは確かにフィクションなのでしょうね。
源平盛衰記は平家物語に比べると、かなり出来が悪いという話ですから、こうしたエピソードの借用で話をふくらませるみたいなこともあったのでしょうね。

それにしても、田単は鮮やかな勝利ですよね。戦というのは、ある種の勢いがつくと、止めにくくなるのでしょうね。そういう勢いということでは、火牛の計は、燕軍にとっては、恐怖による敗走というトラウマのようなものが出来てしまったことで、これをさらに逆転することはむつかしかったでしょう。
田単の発想の奇抜さと、冷酷さというかためらわずに断行する意志の強さみたいなものが、善悪好悪は別として、やはり勝利を手にする将軍としては非常に優れていたと言わざるを得ませんね。

2013/11/19(火) 午後 10:37 [ さざんか ]

そうなんですか?源平盛衰記も平家物語も、じっくりと読んだ事もないので、その辺の評価は何とも、ですが・・・・・。
まあこういう記述ミスをしている事からも、あまり高い評価は出来そうにないかも知れませんが(^^;)。

義仲の方がフィクションだという理由は、記事で挙げた理由の他にも、先日さざんかさんも言われましたように、日本人の動物観とか、牛が当時貴重な動物だったというのもあります。
家族同然であり、牛にそこまで酷い真似は出来ないだろうと。
それに千頭もの牛を、どうやって調達したのかと。


他には☟のページに掲載されている、屏風絵の画像を御覧下さい。

http://www.taigadrama.org/other/other12.html

☝の屏風絵では、道幅の狭い山道を牛が突進していますけど、山道だと道幅が狭いから、一頭か二頭ずつしか通れないと思います。
それに山道では牛を突進させても、その勢いで牛たちが道からはみ出て、下まで転落してしまうリスクの方が高いかと思います。

2013/11/21(木) 午後 7:24 ZODIAC12

舞台となった倶利伽羅峠の地形はよく解りませんが、山なら木の上に登ったり、高い位置に上がったり、繁みに隠れたりしてやり過ごすという事も可能ではないでしょうか?
だからこの戦術は、山中では適さないと思えます。

火牛の計とは田単の時のように、遮蔽物とかのない、広い平野部で使うものですよ。
牛の大群が縦にも横にも長さのある一団となる為には、平野部でないと無理があると思います。


>戦というのは、ある種の勢いがつくと、止めにくくなるのでしょうね。

この田単の火牛を使った鮮やかな勝利が、勝敗の分岐点になったというのは間違いないでしょう。

2013/11/21(木) 午後 7:25 ZODIAC12

やはり優勢な方も劣勢な方も、いつまでも固定されている訳ではないのでしょう。
あらゆる要因が手伝って、相対的に状況が変わるのかも知れません。

燕は王が代替わりして、馬鹿な君主の支配となったので、田単の策略にまんまと乗ってしまい、楽毅を更迭するという愚行を犯してしまいました。
つまり燕は君主に恵まれなかったのです。
それで折角斉を滅亡寸前にまで追いやっておきながら、勢いが完全に斉に流れてしまいました。

田単の遣り口には少々違和感とか、共感し難い点もありますが、それを抜きにすれば、確かに手腕の優れた将軍だったと私も思います。
こんな風に冷徹で非情なまでの計算が出来る人物は、我が国ではそんなに多くはいないでしょうね。

2013/11/21(木) 午後 7:26 ZODIAC12

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かなり間が開いてしまい申し訳ありませんでした。

ところで屏風絵を見ると、ほんとに狭い山道で、片側は崖になっていますね。曲がりくねった道だし、こんなところを夜中に、牛が突進したら、ほとんどの牛は転落しますね。あり得ないですね。

私も平家物語や源平盛衰記は読んだことがないのですが、小林秀雄の『無常という事』を読むと、宇治川の合戦が引用してあり、学校で習った平家物語のイメージが全く吹き飛びます。仏教の無常観などという陰気臭いイメージに取って代わって、明るい太陽のもとでいかにも無邪気な武人たちが、汗を流して活躍する様子が躍動感のある簡潔な文章で描かれていて、なるほどこれが平家物語かと、目から鱗が落ちるようでした。
実際に古典を読む能力がなくなった現代人は、自分で読んで実感するのではなく学校で観念的に教え込まれたものをそのままデータのように記憶するだけなので、如何に優れた古典を日本人として持っていても、これではまるで意味もないことだとちょっと嘆かわしく思いました。話がそれてすみません。

2013/12/10(火) 午後 10:37 [ さざんか ]

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支那の冷徹で非情で優れた将軍も、大陸という土地柄には必要な存在ではあるのでしょうが、わが国の文学をちょっとばかり読んでみると、日本の風土の中に生まれた武士たちは、悲喜こもごもあっても、やはりホッとするところが多いですね。

2013/12/10(火) 午後 10:38 [ さざんか ]

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暫くぶりです。いえいえ、来て下さって嬉しいですよ。


そうなんですよ。狭くて曲がりくねった道を、牛が器用に通れるのか?と。
途中でダッシュにブレーキを掛けたり、カーヴなど方向転換するなんて、出来そうに思えないですよ。また一、二頭ずつじゃ効果なさそうです。


小林秀雄は全く読んだ事がないので、残念ながら全く言及出来ません。
平家物語の陰気、と言うか悲壮感だか湿っぽい(?)イメージは正しくない、という趣旨でしたか?私も原典読んだ事ないですから。

支那には平家物語のような「もののあはれ」という心情がないから、ドライで合理的な精神風土になるのかも知れません。
気候風土が絡んでるのかも知れませんが。

2013/12/12(木) 午前 8:49 ZODIAC12


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