YAMINABE the Second Operation

この11年間の数多くの思い出を携え、私は新たな旅へと出発します。それでは皆さん、御達者で。

第七計 無中生有

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承前  故事其之壹 ─ 癸





 斉の宰相にまで出世した田単は、経緯は不明だが趙に滞在していた。
 そして何かの折に、趙で重鎮である名将・馬服君(ばふくくん)こと趙奢(ちょうしゃ)と会見し、兵法を論じた。
 趙奢に関しては【第四計 以逸待労】の「閼与の戦い」の故事(リンク先工事中)で語る。
 また趙奢の子が趙括(ちょうかつ)であり、趙括に関しては【第二五計 偸梁換柱】の「長平の戦い」の故事(リンク先工事中)で語る。


 さて田単は趙奢に、率直に意見を言った。


「我は予ねてから、将軍(趙奢)の見事な用兵ぶりには甚(いた)く感服しております。
 しかしただ一つ、どうにも腑に落ちない事があるのです。それは将軍が常に大軍を用いる事です。
 大軍を率いれば、農業に勤(いそ)しむ者が減るのみならず、糧食の補給もままならなくなります。
 これでは戦わずして敗れるというものではないでしょうか?我にはとても賛同出来ぬのです。
「帝王の軍というのは、その数僅か三万をも超える事なくして天下を制す。」と聞きます。
 然るに将軍は常に十万、二十万もの大軍を催します。これこそが我にとって、どうにも合点の行かぬ所でありますな。」


 以上の田単の批判に、趙奢は以下のように反論した。


「貴殿はどうやら兵法に暗いばかりか、時勢にも暗いと見える。
 呉干(ごかん)【※24】の剣は肉ならば牛馬も斬れ、金属ならば銅でも斬れる。
 しかし一度柱に斬り付ければ、忽ち三つに折れてしまい、岩に斬り付ければ、忽ち粉々に砕け散ってしまう。
 僅か三万程度の軍勢で強国の軍に立ち向かうは、正しく柱や岩に斬り付けるようなものでありましょう。
 しかも呉干の剣の材料は滅多に得られない。剣は峰が厚くなければ突き刺さらず、刃が薄くなければ切れ味も悪い。
 確かに呉干の剣は峰厚く、刃は薄い。だがこの両者の性質を兼備していようと、鍔や柄がないのに突き刺せば、刃が突き刺さる前に己の手を傷付けてしまう。
 剣で言えば鍔や柄に相当する、十万、二十万の軍勢を率いず、たったの三万程度でどうして天下を制せられようか?」


 そして趙奢はここから、時代の様相の移り変わりを説いた。


「嘗て天下は万国に分かれていました。
 城(城市)はどれだけ大きかろうともせいぜい三百丈(さんびゃくじょう)【※25】、邑はどれだけ人口が多かろうともせいぜい三千戸に過ぎませんでした。
 それ故に三万程の兵でも、守り抜くのは容易であったのです。
 しかし今や、嘗ての万国は次々併呑されて行き、戦国七雄の国々に収斂されて行き、今に至っているのです。
 互いに数十万もの大軍を率い、何年も長く対峙したまま決着は付かない。
 貴殿の嘗ておられた斉などが良い例でありましょう。
 二十万もの大軍で楚を攻めたにも関わらず、五年経っても攻め落とし切れずに撤退された。
 我が趙も嘗て、二十万の大軍で中山(ちゅうざん)【※26】を攻めましたが、五年も時を掛けながら、とうとう落とせずに撤退しました。
 今、斉と韓が争っていますが、それに対して「我は三万の兵を以って、これを救援しようではないか。」などと、敢えて言い出す者がおりましょうや?





後続  故事其之壹 ─ 丑

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う〜ん、これはどちらの意見も間違いではないという難しいテーマだ(@@)

ケースバイケースで寡兵か大軍かを選択しなきゃならないわけで、
使う上司・将軍・皇帝の器量が問われますよね^^;

これから先の行く末を知らないので、
両者の会話の結論が想像もつきません^^

歴史のIFにも似た会話で面白いですね
ナイスヽ(*´∀`)ノ★ぽち

2013/4/29(月) 午前 10:58 栞

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ナイス☆ありがとうございます!(^^)b


仰る通り、この問題はケース・バイ・ケースじゃないかと思います。どんな時でも必ず数十万単位の大軍が必要という訳でもないと思います。
それに弱小国だと、そこまでの大軍なんて元から望めない訳ですから。

面白い遣り取りだと思って下さったならば、紹介した甲斐がありましたよ。(^^)v
御互いに兵法に達者な玄人同士の議論ですから、レヴェルが高いですよね。

そう言えば日本史上で、戦国時代とかに限ってみても、こういった玄人同士の兵法談義なんてありましたっけ?
黒田官兵衛(如水)と竹中半兵衛の二人がやってませんでしたか?

2013/4/29(月) 午後 0:05 ZODIAC12

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戦国武将の、その手の含蓄ある会話って探せばあると思うんですが、自分の手持ちにストックしてないです^^;

2013/4/29(月) 午後 0:23 栞

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そうですか。特に知らないですか。では仕方ありませんね(^^;)。

2013/4/29(月) 午後 1:39 ZODIAC12

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なるほど、どちらも一理ある議論ですね。
これを読むと、趙奢は大国同士の戦が多く、きっとそれだけの大軍が必要であったのでしょうね。
田単は数から言えば、少数で大軍を相手にする戦いが多かったので、奇抜な作戦で補う方法を取ってきたので、その経験で、少数でも勝てるということに自信がついてきていたのでしょうね。
とはいえ、田単も、趙奢の論に参考にすべきところを得たことでしょうね。

2013/12/10(火) 午後 10:59 [ さざんか ]

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きっとそうなのでしょう。時と場合にも拠るでしょうが、毎回田単の採用したような戦法が通用するとは思えません。

火牛の計が大成功した体験から、果たして毎回大軍が必要なのかと疑問に思えたのかも知れません。
上でも言った通り、ケース・バイ・ケースなのだと思います。

それにこの二人、御互いに自身の一代で功績を立てて立身出世したという点でも共通しています。
そして田単は斉の王族の遠縁ですが、趙奢も恐らくは、趙の王族の遠縁ではないかと思われます。

2013/12/13(金) 午後 9:27 ZODIAC12

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ケースバイケース、そのとおりですよね。

ところで、二人の立場はほんとに似ていますね。
きっと、そういう面でも共感するものがあって、田単は論じてみたかったのかもしれませんね。

2013/12/22(日) 午後 11:05 [ さざんか ]

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きっと御互いに何か通じるものを感じていたのかも知れません。

ここでは趙奢は田単を貶していますが、心底見下げていたとまでは思えないですね。
寧ろ田単を認めていたからこそ、趙奢も真剣になって、こんな辛辣な口調になったのではないかと、勝手に勘繰っていますが(笑)。

2013/12/25(水) 午前 11:40 ZODIAC12

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なるほど、そうかもしれませんね。

2014/1/8(水) 午後 0:13 [ さざんか ]

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ええ。あくまでも私個人の推測の域を出ませんが。

2014/1/10(金) 午後 5:59 ZODIAC12


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