YAMINABE the Second Operation

この11年間の数多くの思い出を携え、私は新たな旅へと出発します。それでは皆さん、御達者で。

第七計 無中生有

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承前  故事其之壹 ─ 寅





 ♖ 亡国の言

 そんな折に、楚へ使者として赴いていた貂勃が、斉への帰還を果たした。

 斉襄王は貂勃が宮廷で使者としての復命を終えた後、早速に貂勃を労う酒宴を開いた。
 酒も酣になって来た頃、斉襄王は田単を召そうとして命じた。

「宰相の単をここへ召すのだ。」


 斉襄王のその台詞を聞いた途端、貂勃は座席から下がり、稽首(けいしゅ)【※37】しながら言った。


「大王様は何故(なにゆえ)そのような亡国の言を口にされまするか?」


 突然予想だにしなかった事を言われ、斉襄王は面喰った。貂勃は続けた。


「大王様は御自身を、古の聖天子たる周文王【しゅうのぶんおう:姓は姫(き)、名は昌(しょう)】と比べられて、どちらが上と思われましょうや?」

「無論、寡人など及ばぬ。」

「左様にござります。然らば御自身と斉桓公(せいのかんこう)とでは如何でござりますかな?」


 ここで言う「斉桓公」とは、斉襄王の祖先である田氏斉の第2代国君の方ではなく、姜氏斉時代の斉の国君であった方である。その詳細は註釈の【※1】の箇所で述べた。


「それも寡人が及ばぬ。」

「正しくその通りにございます。」


 そのように先ずは斉襄王自身の口から認めさせてから、貂勃は本格的に諫言を始めた。


「周文王は呂望(りょぼう)を太公(たいこう)とし【※38】、斉桓公は管夷吾(かんいご)【※39】仲父(ちゅうほ)【※40】として、それぞれ師として敬い、教えを請うたのでございます。
 それに引き換え大王様は、宰相たる安平君を師と敬わないばかりか、「単、単」などと諱で呼び捨てになされる。
 有史以来、人臣の身で、安平君程の絶大なる功績を立てた者はおりませぬ。それにも関わらず大王様は、安平君を「単、単」と呼び捨てになさる。
 何故かような亡国の言を口にされまするか?」


 更に貂勃は、斉襄王の過日の失点をも論った。


「その上に大王様は、嘗て先君より授かった社稷(しゃしょく)【※41】を守り切れず、燕が軍を催して攻めて来た時に、城陽(じょうよう)の山中に逃れ【※42】られました。
 その間にいつ陥落させられるやも知れぬと、戦々恐々であった即墨の城市を持ち堪えさせ、三里の城(しろ)【※43】、五里の郭(かく)【※44】疲弊していた僅か七千程度の兵を以って【※45】、敵の司馬(しば)【※46】を虜にし、千里の斉の国土を全て取り戻したのは、一体誰でありましょうや?
 これ偏(ひとえ)に安平君の功に拠るものにございますぞ。」


 貂勃は更に畳み掛けた。


「それ故にもしあの時に安平君が、城陽の山中に逃れておられた大王様を捨て置いて、自身が王位に即かれたとしても、(絶大な功績に加え、遠縁ながらも王族の血統でもあるので)誰も反対する事は出来なかった事でありましょう。





後続  故事其之壹 ─ 辰

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閉じる コメント(15)

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確かに〜諱で呼び捨ては、かなり上目線^^;

でも家臣が功績を立てすぎると疑心暗鬼になる主君もいる。

この場合は諫言が上手く行くかな?

ナイスヽ(*´∀`)ノ★ぽち

2013/5/5(日) 午後 6:34 栞

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ナイス☆どうもありがとうございます!・・・・て、アレ!?(@@)
ナイスのカウント数が0のままですが(^^;)。まあいいでしょう(笑)。



>この場合は諫言が上手く行くかな?

いきなり結末を言ってしまいますが、諫言は成功します(笑)。



>でも家臣が功績を立てすぎると疑心暗鬼になる主君もいる。

出典元は判らないのですが、支那の古典には、

『功烈(こうれつ)主(しゅ)を震わす』

という言葉があります。つまり、

「主君を恐れさせ、主君の地位を脅かしかねない程の大功を立て過ぎた臣下は、疎まれたり警戒されたりして、粛清の危険性が高まる。」

という意味です。他には、

『狡兎(こうと)死して良狗(りょうく)烹(に)らるる。
高鳥(こうちょう)尽きて良弓(りょうきゅう)蔵(ぞう)さるる。
敵国破れて謀臣誅(ちゅう)さるる。』

という言葉もあります。意味は、

「すばしっこい兎を狩るのに役立っていた優秀な猟犬も、獲物の兎が尽きてしまえば用済みとなり、後はその猟犬も煮て食うしかなくなる。

2013/5/6(月) 午前 11:46 ZODIAC12

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飛ぶ鳥を射落としていた素晴らしい弓も、飛ぶ鳥が尽きてしまえば使い道がなくなり、蔵に仕舞い込まれる。
敵国が滅んでしまえば、智謀に優れて重用されていた臣下も、最早用済みであり、生かしておくのは危険なので粛清対象となり、口実を設けて誅殺される。」

これは日本の戦国時代で言えば、殺された訳ではないですが、秀吉が天下を獲った後の黒田如水なんかがそうですね。


マキアヴェリの『政略論』(だったと思います)でも、こんな話が。

古代ローマだったかどこだったか、どこぞの都市国家で、戦争で凄い大功を立てた男がいて、彼の功績を讃え、その功績に報いようにも、功績に見合うだけの褒賞をとても与え切れる余裕はなかったと。

ではどうしたか?こういう提案が出されました。

「それでは彼を神々のいる世界まで送り、以後は彼を神として祀ろうではないか。」

うろ覚えですみませんが、言い回しがちょっと違うかも(^^;)。

それで皆賛成し、男は殺されました。
その後男の像が建てられたか、神殿が建てられたか、とにかく神として祀られたそうな。

2013/5/6(月) 午前 11:48 ZODIAC12

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>確かに〜諱で呼び捨ては、かなり上目線^^;

これは支那の古典の『説苑(ぜいえん)』という書物の中の【君道(くんどう)】という項でも語られているのですが。
その【君道】に収録されている『まず隗より始めよ』の逸話から引用します。

『帝者の臣下は名目こそ臣下でございますが、その実は帝者の師にございます。

王者の臣下は名目こそ臣下でございますが、その実は王者の友にございます。

覇者の臣下は名目こそ臣下でございますが、その実は覇者の賓客にございます。

亡国の臣下は名目こそ臣下でございますが、その実は奴僕にございます。

今、大王様が東面されて臣下を顔色だけで、すなわち言葉に出さず目配せだけしたり、顎を動かすだけなどと、臣下をまるで奴僕のように使役しようとなさるならば、奴僕程度の者しか集まらぬでしょう。

南面して朝議に臨まれ、群臣の意見に耳を傾け、謙虚に礼節を失わなければ、臣下に相応しい者が集まりましょう。

2013/5/6(月) 午前 11:49 ZODIAC12

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西面して対等の礼を以って相手を敬い、表情を和らげて権力を振り翳すような事をしなければ、朋友のような誠実な者が集まりましょう。

君主でありながら、北面して臣下の礼を取り、胸の前で両手の指を揃える最敬礼をして、慎ましく退かれるならば、帝王の師となり、輔弼する者が集まりましょう。

臣下をこのように求められるならば、上手く行けば王者となり、例えそこまでは行かずとも覇者にはなれましょう。
後は大王様が御選びなされるだけにございます。』

上記引用に倣うのなら、斉襄王は田単を下僕扱いしたので、貂勃は亡国を危惧したのでしょう。

2013/5/6(月) 午前 11:51 ZODIAC12

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また同書の【臣術(しんじゅつ)】という項に収録されている『天子が名(諱)で呼ばない臣下』の話を引用します。

『天子の(父方の)伯父・叔父は名(諱)で呼ばない。

同姓の諸侯は名で呼ばない。

先王からの臣下は名で呼ばない。

盛んな徳を具えた臣下は名で呼ばない。』



ところで個人的に尋ねたいのですが・・・・・この故事の語句註釈の32番目の「万乗」という言葉を御存知でしたか?
我が国でも古来より天皇を「万乗の君」「一天万乗」とも呼び表わすのは、こういう由来だった訳ですが。

2013/5/6(月) 午前 11:52 ZODIAC12

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>支那の古典の『説苑(ぜいえん)』という書物の中の【君道(くんどう)】という項でも語られて>

支那の優れた古典は、ほんとに立派なことが書いてありますね。
これほど立派な思想がありながら、それが生かされない国というのが悲しいですね。

確かに自分のレベル相応のものが、その人物の回りに展開してくるということですね。
日本の天皇陛下の無私の御心には、こうした思想を更に越えた素晴らしさを感じますね。

ところで、私も万乗の君という言い方は、どこかで誰か(現代の人)が使っているのを見たのを覚えていますが、その時にかっこいい言葉を知っているなと感じはしましたが、意味はわかりませんでした。この記事を読んで、こういう意味なんだとたまたま知ることが出来て、うれしかったですね。

2013/12/22(日) 午後 11:47 [ さざんか ]

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大分遅くなり、申し訳ありませんでした。
それはともかく、コメント欄にまで注目して下さり、実に恐縮です。


最高の「君主が北面して臣下の礼を取る」というのは、これは凄い話でしょうね。
これって考えようによっては、その臣下に国を奪われかねないリスクもあるでしょうから、臣下が余程信頼出来て、君主に余程度量がないと、そうはならないかと。
つまりは簡単に言えば、「類は友を呼ぶ」という事なのでしょうけど。

マキアヴェリの『君主論』でも、「君主の器量を測るには、その側近を見れば程度が占える」という趣旨の事が語られています。
我が国の皇室の場合は、何かこれらに当て嵌まるのかな?とも思えます。
さざんかさんの仰る通り、こういった範疇を超えた次元におられるような、そんな気がしてならないです。

2013/12/28(土) 午前 9:35 ZODIAC12

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万乗の君・・・・・そちらまで触れて頂き、これまた嬉しいですね。
軍歌の『維新マーチ』の2番目の歌詞にも、


♪一天万乗の帝王(みかど)に 手向かいする奴を トコトンヤレ トンヤレナ♬


とありますよね。この万乗の語源をどれだけの人が知っているでしょうかね?
まあ知らないからって、別にどうだって事もないんですけど(笑)。

2013/12/28(土) 午前 9:35 ZODIAC12

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万乗の君という言い方は、字面に万が付いていたり、乗るという字もそれなりにいいことな気もするし、響きも威厳があるし、なんかすごい立派なというイメージが出来て、意味知らなくても、変に納得して、そのまま素直に受け止めてしまう気がします。

でも、意味を知れば、やはり古い言葉により深く接した時の感慨がありますね。
やはり古いものに触れるというのは、過去と現代を結ぶ感覚があって、なんとなく嬉しいですね。
ZODIAC12 さんの用語説明、意義のある素晴らしいことと思います。

2014/1/8(水) 午後 0:36 [ さざんか ]

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いつも遅くなってばかりで恐縮です。


>でも、意味を知れば、やはり古い言葉により深く接した時の感慨がありますね。

>やはり古いものに触れるというのは、過去と現代を結ぶ感覚があって、なんとなく嬉しいですね。

私も同じような感慨をよく持ちます。私が歴史を学ぶのは、正しくその「過去と現代を結ぶ感覚」を体感するのが目的です。

そして更には「現代から未来へ」結んで行く作業に繋がると思います。これって保守思想に通じるものだと思いますよ(^^)。


>ZODIAC12 さんの用語説明、意義のある素晴らしいことと思います。

光栄な讃辞を頂戴し、誠に恐悦至極に存じます。<(_ _)>

2014/1/11(土) 午後 8:06 ZODIAC12

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ZODIAC12 さんと同じような感慨を共有できるなんて、私こそ光栄ですね。
もっとも、私なんかは、こうしたちょっとした場面で感じるだけですが、ZODIAC12 さんの場合は、そうした感覚を求めて、歴史を学んでおられるのですね。確かにそれこそが保守思想そのものの感覚かもしれませんね。

2014/1/21(火) 午後 10:06 [ さざんか ]

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10代・20代の頃まではただ単に好きだから、あるいは何となく、でしたが。
今は純粋に知りたいという欲求だけでなく、そういった理由もあります。
教訓や智恵や真理を、歴史の中に学ぶと言いますか。

2014/1/23(木) 午前 10:08 ZODIAC12

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なるほど、そういう意味では、歴史書、歴史物語を日本では、鏡といってきましたが、まさに歴史は鏡ですね。

2014/2/3(月) 午後 3:21 [ さざんか ]

どうも遅くなりました。

「歴史は繰り返す」とよく言いますが、本当にそうだと思います。

2014/2/7(金) 午後 11:21 ZODIAC12


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