YAMINABE the Second Operation

この11年間の数多くの思い出を携え、私は新たな旅へと出発します。それでは皆さん、御達者で。

第二三計 遠交近攻

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第二三計 遠交近攻







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【計略名の由来・出典】でも語った、范雎の献策した内容こそがこの計略名の由来である。
 この范雎の考案した対外政略を進める事により、秦はライヴァルであった六国(楚・趙・魏・韓・燕・斉)を、近い順から次々攻め滅ぼし、併呑して行った。
 そして遂には中原一帯を征服し、支那史上最初の天下統一を果たしたのである。
 その詳細は本書庫の最初の故事として紹介する。
 それ以後この計略は、国際間の対立を制する政戦略の定石となった。



 だからこれは純軍事的な計略ではなく、どちらかと言うと寧ろ外交戦略、国際間における立ち回りと言った性質が強いが、国家間の次元に限らず、あらゆる次元での応用が可能である。
 どの次元の世界であれ、諸勢力が乱立し、互いに鎬を削り合っているような、いわゆる「群雄割拠の乱世」とも言うべき状況下において、有効となり得る計略である。



 どこと手を結び、どこと戦うかを選定するのに際し、重要な基準となり得るポイントとして、イデオロギー、すなわち思想とか主義主張に大きな隔たりがないとか、目的や方向性に大差がなく、互いに利害がぶつかり合う事もない、というのもあろう。
 それらは手を組めるかどうかを判断する重要な基準かも知れないが、ここで着目すべきはそこではなく、自身との物理的な距離の遠近である。
 互いに隣接し合う国と同盟を組み、遠く離れた国を敵として戦っても、思った程の成果は期待出来ない。
 何故なら仮に遠方の敵国との戦争に勝ったとしても、新しく獲得した敵国の領土は飛び地、すなわち自国の領土と繋がっておらず、間に他国を挟んだ形になる。
 そんな他国を跨いだ領土では、維持や管理運営が困難となり、為に容易に奪還され易い。



 これでは折角苦労して新たに領土を獲得しても、「骨折り損のくたびれ儲け」「労多くして益少なし」と言った有り様となる。
 それこそ正しく解題の項で語った「上火下沢(火は上方に向かって燃え、河は下方に向かって流れる)」の行き方に逆らい、あべこべに「上沢下火(河を上方に向かって流そうとし、火を下方に向かって燃やそうとする)」とも言うべき不自然な行き方となる。
 だからこそ「近交遠攻(近く交わり遠く攻む」「上沢下火」の路線では、そのような徒労に終わる事が常なので、決して採るべきではない、となる。



 個人レヴェルの話では、諺にある「遠くの親戚より近くの他人」の通りになるのが相場なのかも知れないが、殊(こと)国際間の外交・戦争においては寧ろ逆なのが相場である。
 どこの国でも近隣諸国とは、昔から互いに利害や主義主張の対立をずっと積み重ねて来ているので、恨み辛みや、諸々の痼(しこり)、蟠(わだかま)りがあるのが常である。
 その為に容易に敵対関係になるも、同盟関係にはなり難い。
 しかし国境を接しない、遠く離れた所にある国同士なら、互いに交流や行き来が少ない為、そういったマイナス要因の積み重ねも特に見当たらない。
 国民同士の感情的な反感も特にないので、例え宗教、イデオロギー、政体、価値観等を異にしていても、それらを抜きにして、純粋に実利的理由だけで手を組む事が可能となる。
 このように物理的に近くないだけでも、隣国よりは同盟や友好関係を比較的結び易くなる。



 まずは自国と国境が隣接していない、遠く隔たれた国々と次々同盟を結んで行く。
 隣接する敵国の周囲を、自国の同盟国で囲み込んで行く。
 敵を孤立無援の状態に追いやり、背後からも圧迫させる。そのようにしてから初めて攻め込むのである。
 あるいは遠く隔たれた同盟国と示し合わせて、同時に攻撃開始をして、隣国を挟み撃ちにする手もある。



 これならば自国は他方向からの敵の出現を心配する必要もなく、隣接する敵のみに力を集中する事が出来るようになる。
 敵にして見れば、二正面作戦(あるいはそれ以上の多正面作戦)を強いられる事になるので、明らかに不利になる。



 そうして敵国から得た領土は、間を挟んだ飛び地とは違って、自国と隣接しているので、維持や管理運営が飛び地とは比較にならない程に容易である。
 こうして一歩ずつ着実に、隣接する所から領土を次々蚕食して行き、どんどん遠くへ、遠くへと手を拡げて行くのである。
 これこそがどこにも無理のない、ごく自然な行き方である。



 そうして次々領土を拡大して行くと、近隣を平らげる為に便宜的に同盟を結んでいた遠国とも、やがては国境を接するようになる。
 そうなると最早遠国ではなく新たな隣国となり、その同盟国も最早用済みである。
 しかもその相手を援助しそうな存在は、同盟を結んでいる間に粗方滅ぼし尽くしてあるので、どこかと連携される心配もない。
 ならば最後の仕上げとして、遠慮なく攻め滅ぼし、併呑してしまうに越した事はない。
 このように自国に敵対する勢力が全て消滅するまで、この路線を繰り返すのである。



 15世紀から16世紀に懸けてのルネッサンス時代イタリアを生きた、フィレンツェ共和国の外交官であり、政治思想家でもあるニッコロ・マキアヴェッリ。
 そのマキアヴェッリの著作『政略論』第2巻の第1章【ローマ人が広大な領域を確保出来たのは、実力(ヴィルトゥ)に拠るものか?それとも単に幸運(フォルトゥナ)に恵まれただけに過ぎないのか?】では、この遠交近攻策に通じる論旨が書き記されている。



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 ある一つの君主国なり、共和国なりが、極めて名声を博すようになると、近隣のどのような国でも、単独で攻撃するのを恐れるようになる。
 その強大化した国に対して畏怖の念を抱くようになり、罷り間違ってもその国に攻撃を加えるような者が現れようなどとは、決して考えられないからである。


 従ってこの強国にとっては、近隣諸国のどこかを槍玉に上げて戦争を仕掛けながら、それと同時にそれ以外の諸国とは巧みに平和を操って行く事など、ほとんど意のままになって来る。
 これら近隣諸国はこの強国を恐れているだけでなく、一方では警戒心を和らげさせようとする強国の策略に乗せられてしまうので、遂には強国の思うままに動かせる存在となってしまう。


 その一方で、こういった強国とは距離が遠く離れていて、あまり接触のない国々にとっては、強国とその周辺諸国との出来事は、どんな騒動が生じようと、所詮は自分たちには関わりのない、対岸の火事としか思わない。
 それ故に自分たちにまで火の粉が降り掛かって来るなどとは夢にも思わず、呑気に構えている。だがこれこそが重大な誤りなのである。


 この「火事」が自身に燃え移る段になってから、初めて己の不覚を悟る羽目になる。
 その時には最早手遅れ、後の祭りとなっていて、火は自身の力のみで消し止めねばならなくなっている。
 だがそうなった時は火の勢いはいよいよ激烈であり、消し止める事など到底叶わなくなっている。
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 次も同じく、『政略論』第2巻第1章からの抜粋である。



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 ローマがサムニウムやエトルスキと戦いを繰り広げていた頃、カルタゴは既に強大な国力を確立し、名声も四方に轟き渡っていた。
 カルタゴは既に全アフリカを支配し、サルディニア(サルデーニャ)とシケリア(シチリア)を従え、更にはイスパニア(スペイン)の一部にまでその勢力を伸ばしていた。
 自国の力が強大だった上に、ローマの国境から遠く隔たれていた事もあって、すっかり安心し切っていた。
 そんなカルタゴだからこそ、ローマを討とうなどとは考えてもみなかった。


 おまけにサムニウムやエトルスキを援助して、ローマを叩かせるという気さえもなかった。
 攻撃するどころか反対に、景気の良い方に味方したくなるのが人情なのか、カルタゴはローマとの間に友好条約を結んだのであった。
 このようにカルタゴは、自国とローマの間に挟まれていた諸国が、ローマの手によって悉く斬り取られてしまい、遂にはシケリアやイスパニア等にあるカルタゴ領にも攻撃が加えられるようになるまで、自分たちの犯している過ちを悟る事がなかった。


 このようなカルタゴと同じ過ちを犯した者に、ガリア人やマケドニア王ピリッポス、及びアンティオコス王が挙げられる。
 彼等はカルタゴと同様、少なくともローマが他の国々と争い合ってる間は、自分たち第三者に鋒先が向けられる事はあるまい、と高を括っていた。
 また平和に頼るにしろ、戦争に訴えるにしろ、自身の安全を確保出来るだけの時間は、十分稼げるに違いなかろうと思い込んでいた。
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 このように古今東西を問わず、意識はどうしても隣接する諸国に対して向きがちとなり、遠方の諸国に対しては、直接の脅威となり難いせいで、警戒心がついつい緩みがちになってしまう。
 そういった遠国の心理を利用して、共闘関係を結ぶのである。
 故に遠隔の相手とは共闘し、近隣の相手に的を絞った方が、自然の理に適っていて効率的なのである。



 これをビジネス始めあらゆる側面に置き換えると、「目標は遠い所に設定し、それを達成する為に出来る事から、身近な課題から次々クリアして行く」となろうか。
 企業がその業界で成長発展を遂げて行くプロセスとしては、まずは地元一帯でのシェアを上げて行き、その辺一帯のトップになる。
 そうしてから活動するエリアを徐々に周辺に拡げて行き、同じくそこでもまたトップになる。



 このように段階を踏んで行って拡大成長して行けば、急激に無理をした時のように疲弊・消耗させる事もない。
 その度ごとに努力目標の範囲が明確に絞れて、力を集中させ易くなる、即ち理に適った方針となる。



 以上の事からこの計略全体を貫く要旨は、「方向は身近から遠くへ」「よく知る隣人ではなく、よく知らない遠方の他人と手を結ぶ」という路線である。
 決してその逆路線ではなく、また「一足飛び狙いや途中経過の素っ飛ばし」は禁物である、という事になる。
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