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| 解題の項にある「儀と為す可し」の「儀」には、「進退動作の上で真似るべき手本」という意味もある。 |
| さて、計略名の字面から連想出来る事とは、恰も民話の『花咲爺』のように、「花の咲いてない枯れ木に花を咲かせる事」であろうか。 |
| 御伽噺でなく現実的な寓意を言えば、色彩が鮮やかで色取り取りの布を裁断して、それでたくさんの模造花を作って木の枝に付ける。 |
| そうすれば迂闊な者は、本当に木に満開の花が咲き誇っているのだと錯覚してしまう。 |
| このように人間の心理とは、案外簡単に見た目の印象に騙され易い。 |
| そんな心理を応用し、奇術的なトリックを駆使して、相手を攪乱させるのが、この計略の要旨である。 |
| 既に【解題】の項でも論じた通りであるが、一言で言えば自軍を大勢力(大兵力)に見せ掛けて敵軍を威圧し、実際の実力の上ではともかく、少なくとも精神的には敵軍より優位に立つ。 |
| すなわち主に自軍が敵よりも劣勢、敵の方が優勢で、まともに戦ったら負ける確率が高い場合に用いる訳である。 |
| 自身の実際の力以上に外見を取り繕い、相手以上の力をこちらは持っているのだと思い込ませ、恐れさせる。 |
| 実も蓋もない言い回しをすれば、「ブラフ(はったり)」「虚仮脅し」「水増し」の計略と言えようか。 |
| この計略を用いる前にまずは、実際に敵軍と戦うか、それとも戦いを避けて退却するのか、どちらの路線を採るのかを決めおく。 |
| どちらの路線を採択するにしても、この計略は時間稼ぎとして使える。 |
| 攻めるならば、敵軍を撃破出来るだけの力が整うまでの時間稼ぎとして。 |
| そして逃げるならば、撤退しようとしてる事を敵軍に気付かれないよう、準備工作を施す為の時間稼ぎとして。 |
| だからこそ前者の運用法だと【第七計 無中生有】、後者の運用法だと【第二一計 金蟬脱殻】に通じるものがある。 |
| この計略での肝要な点はやはり、進むにしろ退くにしろどちらにしても、自軍をどうやって相手よりも大兵力に、優勢であるかのように見せ掛けるのか、という事である。 |
| その具体的な数々のノウハウを、自軍が敵軍よりも実際の戦力(主に兵数)が劣っているという事を前提として、そして上手く成功するかどうかは別として、以下の通りに列挙してみる。 |
| ♚ 兵士ではない、老人や女子供、病弱者等を動員して兵士に見せ掛ける。 |
| それらの者たちに甲冑を着せ、武器を持たせて、城壁や遠く離れた位置に並ばせ、立たせておく。 |
| 勿論本物の実戦の役には立たないので、実際の戦闘に参加させる事はない。 |
| 喚声を上げさせたり、太鼓や銅鑼などの鳴り物を鳴らさせて、敵を威圧する等の、後方からの支援という役割を負わせる。 |
| ♛ 上記に関連して、必ずしも生きてる人間であるとは限らず、藁で作った人形に甲冑を着せて立たせたりする。 |
| また動物なども偽装工作に利用したりする。 |
| それに加えて、数多くの旗幟なども林立させたり、夜には篝火なども数多く焚いたりして、恰も大軍勢であるかのように敵軍に錯覚させる為の偽装工作を施す。 |
| ♜ 野営する時の炊事に用いる為の竈(かまど)を拵える時、竈の数を自軍の実際の兵数以上の分を拵える。 |
| それで如何にも多人数の軍であるかのように思い込ませる。 |
| 人は誰しも必ず食事を摂るので、竈の数を数える事で、敵軍の凡その兵数を推測する事が可能だからである。 |
| これの逆手に取った運用法で、竈の数を自軍の兵数より少なくすると、敵軍に自軍が少数だと思い込ませる事も出来る。 |
| ♝ 上記と類似しているが、大量の物資を故意に遺棄して敵軍に見せ付け、大軍であると錯覚させる。 |
| ♞ 自軍よりも戦力の劣る友軍の隣に選り抜きの精鋭部隊を配置する。 |
| 又はその逆で友軍よりも戦力の劣る自軍を強大に見せ掛ける為に、友軍から精鋭部隊を借りて、隣に配置させてもらう。 |
| そうする事で恰も、こちらが士気旺盛のように見せ掛け、敵軍の度胆を抜く。 |
| こちら側全体を精強な一軍であるかのように偽装し、敵軍を錯乱させて士気を挫く。 |
| ♟ 陽動作戦の為の囮部隊を主力軍と錯覚させる。 |
| 真の主力軍が敵軍とはすぐには交戦出来ない状況にある時に、囮部隊をこちらの主力軍と錯覚させて、敵を散々引っ掻き回す。 |
| すなわち主力軍が交戦出来るようになるまでの時間を稼ぐ。 |
| ♔ 遠く離れた所にいる敵側からはよく見えない事に付け込み、兵器が欠乏しているのを誤魔化す為、それらしく模って拵えた偽の兵器をたくさん揃えて、敵が攻撃を仕掛けるのを躊躇わせる。 |
| 軍事面での運用法は、大体思い付く限りだと以上である。 |
| そうして上手く成功したなら、意図を悟られる前に退却を完了させるか、あるいは敵軍の混乱に乗じて攻撃を加え、勝利を摑むか、のどちらかの路線の選択となる。 |
| 後者を選択する場合は、大概はこちらの方が相手よりも正味の戦力が下回っているので、ボロが出ないように注意しながら、敵の弱い箇所を狙う。 |
| すなわちそこを叩けば敵軍に大打撃を与えられるような箇所を狙い、そこにこちらの全力を集中させる。 |
| 又は勢いに乗じて敵全体を分断し、細分化した所、弱体化した所を狙い打ちし、各個撃破して力を削いで行く。 |
| 以上の事から勝利を摑むのに、必ずしも全兵力で相手を上回っていないと、勝つのは絶対に不可能という訳でもない。 |
| 自軍の方が総合力では劣勢な場合は、全方面で戦うのを避ける。 |
| 勝負を仕掛ける範囲を、勝てる見込みのある特定部分に限定して、そこの部分にだけ全力集中する。 |
| 少なくともそこに限っては相手を上回るだけの力を作り出してぶつける。 |
| いわば全体的な勝利ではなく、部分的、局所的な勝利を狙うのである。 |
| そうすれば全体ではこちらを上回る相手をも、突き崩す事は決して不可能ではない。 |
| この理論は軍事学用語で言う所の「局所優勢主義」、ランチェスター戦略で言う所の「弱者の戦略」「一点突破」に当たろうか。 |
| 要するに弱者が強者に対して挑む時に用いる戦略戦術である。 |
| これは軍事的な事以外にも応用可能な計略である。 |
| 主に商業活動を始め、その他の局面で考え付くのが、以下に列挙したものである。 |
| ♕ 開店記念セールを始め、創業何周年とか何かの節目などで、大安売り・大売出しのイヴェントを催し、期間限定で賑々しく、鳴物入りで派手に売り出す。 |
| そこで目玉商品をたくさん揃えて客の興味を惹き、購買意欲をそそったりする。 |
| ♖ 百貨店やスーパーマーケット等の売り場で、売れ行きの悪いコーナーを改善する為、商品の配置や、売り場全体の配置を変えたりする。 |
| これだけでもそれまでとは違った、多少の新鮮な感触や刺激を与えられるので、客の興味を惹かせられる。 |
| ♗ 同じく百貨店やスーパーマーケット等でこれまでになかった新商品や、普段目にしないような「掘り出し物」的な商品を並べて、客の目を惹いたりする。 |
| それらを呼び水として、売れ行きを次第に向上させて行く。 |
| ♘ 俗に「サクラ」と呼ばれる商法のテクニックも、この樹上開花策の一種と言えようか。 |
| サクラとは本物の客ではなく、予め業者サイドに雇われた仕込みの偽客の事である。 |
| サクラたちに長い行列を作らせて並ばせ、第三者からはそこが繁盛しているかのように欺く。 |
| その景気良さげな光景に釣られて、サクラではない本物の客たちが、最初は一人、二人程度でも、やがてぽつぽつと増えて行く。 |
| ♙ 上記のサクラの別の使い道として、本物の客に買わせたい物を聞えよがしに褒めさせたり、わざと高値で買わせたりする。 |
| その様子を周囲に見せ付けたりして、価値の高い物だと思い込ませ、第三者の購買意欲を煽る。 |
| ♚ よく映画興行の宣伝なんかで、実情はそれ程でなくとも、「ナンバーワンヒット」「観客動員数●人」と言った類のキャッチコピーを使って、一般の興味を惹き、劇場へ呼び込もうとする。 |
| ♛ トリックの一種として、誰もいない筈の無人の場所に、大勢の人がいるのかと驚かせる。 |
| しかしよく調べてみたら、録音されたレコーダーの音声を流して、さもそこに人がいるかのように思い込ませていただけであった。 |
| ♜ 同じくトリックの一種として、奥行きの狭いスペースの壁を全て鏡張りにする。 |
| そうする事で恰も、空間が広いような錯覚をさせたり出来る。 |
| 同時にその場にいる人数がさほど多くなくとも、鏡に写った像を利用して、実人数よりも多く人が集まっているかのような錯覚を持たせたりする。 |
| 以上論じたように、外見をそれらしく整える事によって、相手を錯覚と混乱に陥らせる。 |
| そうする事で実際の実力以上の力を発揮し、目的を達成するのが、本計略の要旨である。 |
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