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| この計略の名称には「金蟬」とあるが、「金色の蟬」など実在する筈もない。 |
| なのでこれは無視しても良く、要は単なる蟬の事である。 |
| だから本来ならば「蟬脱殻」でも良いのだが、それだと三文字になってしまう。 |
| 他の計略名が(敗戦の計六種を除いて)全て四文字なのに対して、これだけ三文字では足並み揃わず格好が付かない為、修飾の為に頭に「金」の一字を入れたのであろう。 |
| だから特に深い意味などないので、「金」でなくとも、「銀」でも「銅」でも「鉄」でも、何でも構わない訳である。 |
| それはさておき、この計略名の字面を見れば、どういった性質のものなのか、凡その見当が付くのではあるまいか? |
| 木の幹に止まっている蟬を捕らえようとする時の光景を思い浮かべてみると良い。 |
| 驚かせて飛び立たれないように注意しながら、そろりそろりと木に近付いて行く。 |
| いざ間近で蟬を見てみると、幹に張り付いていたのは生きた蟬ではなく、ただの脱け殻だった。 |
| 蟬の本体は脱皮を済ませ、脱け殻だけをその場に残し、とっくにどこかへ飛び去っていた。 |
| つまり「蛻(もぬけ)の殻」という訳で、蟬が恰(あたか)もそこに居続けているように思い込まされ、まんまと一杯喰わされた訳である。 |
| これを軍事面その他で応用したのがこの計略の要旨である。 |
| 故にこの計略は一言で言えば「蛻の殻」を軍事面で実践する計略であり、「撤退作戦」「脱出作戦」、それも「隠密移動作戦」となる。 |
| 忍者の駆使する忍術の一種に「空蟬の術(うつせみのじゅつ)」というのがあるが、それに通じるものがある。 |
| 他にはマジシャン(奇術師)がよくやるマジック(奇術)で、閉じ込めた所からいつの間にか人が脱出していたり、そこにある筈の物がいつの間にか、全く別の場所に移動していたりする芸にも通じる。 |
| この計略を用いる局面というのは、敵の力が強大で、真正面からまともに勝負しては勝ち目が薄い時である。 |
| 現状では勝機がなかなか見出せない時は、よほど差し迫った必要もない限りは、一先ずは戦闘を控えて、その場から撤退する決断を下した方が良い。 |
| しかしそうは言っても、ただ何も考えずに撤退すれば良い、という訳ではない。 |
| 劣勢な状態を敵に悟られているかも知れないのに、何の策もなく退却を始めれば、好機とばかりに追撃を喰らい、全軍が壊滅に追いやられる危険性がある。 |
| そこでこちらの劣勢を悟られないよう、更には撤退しようとしている意図すら気付かれないよう気を配りながら、安全に撤退する為の巧妙な偽装工作を布くのである。 |
| 陣中を放棄して退却する際の、偽装工作の具体的な例を挙げれば・・・・ |
| ◆羊を縄で吊るして、羊の前足が届く所に陣太鼓を置き、前足で太鼓を叩かせ、音を鳴らせ続ける。 |
| これらの他にも色々あるが、要は戦闘を継続する意思ありと、敵軍に思い込ませる偽装工作を施すのである。 |
| 本音ではそれ以上戦い続ける気はないが、虚勢を張って、ずっとその場に居続けるのだと敵に錯覚させる。 |
| そうして相手に気付かれないよう、隠密裏にその場から秘かに移動するのである。 |
| 尚、上記に挙げた一連の例を応用すると、【第二九計 樹上開花】にもなり得る。 |
| この金蟬脱殻策は【第三六計 走為上】とも被る面がある。 |
| だが走為上策を用いる時は、この金蟬脱殻策を用いる時以上に、絶対的に勝ち目がなく、ただひたすら安全圏まで逃げる以外に選択肢がない。 |
| しかし劣勢でも工夫次第ではどうにか勝てそうな見込みが多少なりともある場合では、これを応用して奇襲攻撃という運用法も出来る。 |
| それには全軍を移動させる時もあるが、それよりも比較的やり易いのが、主力軍とか別働隊だけを秘かに移動させ、残りは変わらず陣に残しておく。 |
| そうして隠密移動させた主力・別働隊に、敵の背後や無警戒な側面を衝かせるというもので、【第八計 暗渡陳倉】とも被る運用法である。 |
| 敵と交戦するのをひたすら避けて、撤退に専念する運用法を仮に「A式」、応用して隠密奇襲を仕掛ける運用法を仮に「B式」とするならば、勝算や必然性もない限りはA式を優先するのが良いかと思う。 |
| いくら隠密奇襲攻撃でも必ず成功するとは限らず、成功しても多少の損害を出す事は避けられないと思うべきで、それならば一旦は完全に後退して、捲土重来を期した方が、より勝機に恵まれるかと思える。 |
| そしてA式・B式どちらとも共通するのは、成功の鍵は偽装工作がどれ程巧妙かに掛っている、という事である。 |
| これが稚拙だと敵に意図を見抜かれて、裏を掻かれてしまう恐れがあるので、実際の退却行・隠密移動以上に重視すべきである。 |
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| 第二一計 |
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| 金蝉脱殻 |
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| ☰ ☴ ☲ ☶ ☱ ☵ ☳ ☷ |
| 其(そ)の形を存(そん)し、其の勢(せい)を完(まっと)うする。 |
| 友疑わず、敵動かず。 |
| 巽(したが)いて止(とど)まり蠱(まどわ)す。 |
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☰ ☴ ☲ ☶ ☱ ☵ ☳ ☷
| | 布陣の陣形を崩さず、その威勢をずっと保ち続ける事で、友軍には疑念を抱かせず、敵軍には攻め込んで来る気を起こさせない。 |
| ずっとそこに止まり続けているかのように見せ掛けておいて、気付かれないよう秘かに主力を移動させる。 |
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| ☰ ☴ ☲ ☶ ☱ ☵ ☳ ☷ |
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