YAMINABE the Second Operation

この11年間の数多くの思い出を携え、私は新たな旅へと出発します。それでは皆さん、御達者で。

第一七計 抛磚引玉

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第一七計 抛磚引玉







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【解題】にある「蒙を撃つ」とは、『易経(えききょう)』にある言葉なので、ここでは割愛する。
 計略名にある「磚」とは、「かわら(瓦)」とも読む。煉瓦の事である。「玉」は宝石の事である。
 すなわち「煉瓦(磚)を投(抛)じ、それと引き換えに宝石(玉)を手に入れる」となろうか。



 煉瓦(磚)のようにありふれた、大した価値のない物、不要な物、捨てても惜しくない物を、呼び水あるいは捨て駒として利用する。
 そして自身が投じた物との等価交換ではなく、宝石(玉)のような甚だ不釣り合いな、高価で貴重な代物を手に入れる、というのがこの計略名の寓意である。



 だからこそ諺にある、「海老で鯛を釣る」を軍事面その他で実践する計略である。
 もう少し上品な言い回しをするならば、「最小限の投資で最大限の利益や成果を得る計略」となろうか。



 相手が飛び付きそうな、美味しそうな餌を巧妙に撒く。そうして相手を誘い出し、撃滅する。
 それ故にこの計略は【第一五計 調虎離山】と些か似通っている。



【第一五計 調虎離山】の所でも語ったように、両者とも敵が喰らい付きそうな餌を撒いたり、囮を使ったり、その他あらゆる策略を駆使して敵を誘い出すという点では共通している。
 そんな両者の違いと言えば、まず調虎離山策の方は自身がよく力を発揮出来て、有利に戦える場所や領域(抽象的なものも含む)を予め確保しておいて、その場所や領域まで敵を誘い込む事にある。
 それに比して抛磚引玉策の方は、どこか特定の場所や領域に誘い込むと言うより、軍事的成果に限らず、あらゆる種類の利益を、最小限の投資や労力で、最大限に獲得するものである。
 だから調虎離山策よりもこの抛磚引玉策の方がより詐術的な性格が強い。



 この計略が成功するかどうかは、敵を誘い出す為の撒き餌を、巧妙に拵える事が重要な鍵となる。
 撒き餌があまりに見え見えな出来具合だと、敵に意図を見透かされてしまい、こちらの誘いには乗って来ない。
 故にその撒き餌は「疑似(ぎじ)」ではなく、「類同(るいどう)」である事に注意すべきである。



 疑似は見破られ易いが、類同は見破られ難いとある。
 疑似とは「本物によく似ていて紛らわしいもの」、類同とは「似通っているもの」「同じ種類のもの」という意味がある。
 両者の意味はよく似ているので、今一つ違いがよく理解し難いかも知れない。
 ニュアンス(含意)としては、疑似は表面的に偽装しただけの底の浅いもの、類同は同種同系統の要素を一緒に混ぜ合わせ、より本物らしくしたもの、となろうか。



「磚」の疑似と類同の差異の具体的な例を、以下に数点ばかり挙げてみる。





Ⓐ城砦を守備している軍が弱っていて、攻城側の敵軍とまともに戦ったら勝てそうにない時、まだまだ戦えるだけの力が残っていると、敵軍に思い込ませる為の偽装工作をする場合。



★疑似★

 籠城戦に疲れた兵士たちに太鼓や銅鑼を鳴らさせたり、気勢の声を上げさせたりする。



☆類同☆

 旗幟をたくさん掲げ、老人や女性、傷病者たちに甲冑を着させ、城壁の上に立たせる。
 音や声を上げさせる事なく、無言のまま行う。





Ⓑ警戒して拠点に立て籠もったまま動こうとしない敵軍を、外側へ誘い込んで撃滅する為に、こちらが戦力低下しているよう見せ掛け、出撃すればこちらに勝てると思い込ませる為の攪乱工作をする場合。



★疑似★

 使者を派遣して、敵軍に対して下手に出て、わざと偽りの困窮した事情を伝えさせる。
 それによって敵軍の油断を誘おうとする。



☆類同☆

 自軍から意図的に逃亡兵を出させる。
 逃亡兵とならせる兵士は、老人、負傷者、病弱者等の見るからに身体が弱ってそうな者ばかりを選ぶ。
 逃亡させておいて、わざと敵軍に捕えられるように仕向ける。
 捕えられた後に受ける敵軍の尋問で、食糧が尽き掛けているとか、その他物資の補給が途絶えているとか、虚実織り交ぜた自軍の内部事情を告げさせる。





Ⓒ何かの作り話で他人を騙そうとする時、相手にそれがさも実話だと思い込ませる場合。

★疑似★

 始めから終わりまで全く事実に基かない、実在の物事が全く見当たらない、完全な創作話。



☆類同☆

 嘘を混ぜながらも、ある一定以上は客観的事実、実在の物事に基いている。
 虚実両面の比率が、一定以上の割合で「実」の要素の方が多い事。





Ⓓ製品の偽造をする場合。

★疑似★

 表面的な色や外見のデザインだけを本物に似せる。



☆類同☆

 デザインだけでなく、素材も本物と同じ材質の物を使う。
 100%同じでなくとも、少なくとも一定以上の割合は本物と同質の素材を使う。
 製法や製造する為の器具も本物と同じように真似る。
 そして出来る事なら、本物の製作に携わっていた人間に作らせる。





Ⓔ他者に対して安心感や信頼感を持たせようとしたり、何か説得しようとしたり、何かを販売しようとしたり、自身の属する集団に勧誘しようとする場合。

★疑似★

 対象とする相手と共通点らしき要素のまるでない者が、その交渉の任に当たる。



☆類同☆

 対象とする相手と何らかの共通点を持つ者が、その交渉の任に当たる。
 年代、出身地、出身校、趣味嗜好、地位、経歴、働く業界等に何らかの共通点がある。





Ⓕ演劇等で役者に配役する場合。

★疑似★

 ただ単に演技が上手い役者をキャスティングする。



☆類同☆

 演技力だけでなく、その役柄に近いパーソナリティを持った役者を起用する。
 なるたけ役柄と共通する性格、雰囲気、外見のイメージ、特技、経歴、価値観等を持った者を当てる。





 思い付く限りだと、大体以上の所であろうか。
 投げ付ける「磚」が疑似だと成功が覚束ないが、類同ならば必ず、とまでの保証はなくとも、少なくとも疑似と比べれば、比較的迫真性が増し、説得力も上がり、その分だけ成功率も高まる。



 最後に要点を纏めれば、



◆この計略の成功の鍵は、「玉を引く」事以上に、「磚を抛げる」事の方が重要となる。



◆抛げる「磚」は、切り捨てても困らない物である事。
 そうでないのに抛げる、というより犠牲や捨て石とするなら、それは「ロスカット(損失切り)」であり、【第一一計 李代桃僵】になる。



◆抛げる「磚」の工作は、疑似(表面的に似通った物)ではなく、類同(本物の要素を混ぜた物)となるよう注意する事。



 以上三点の通り、重要な事は得ようとする「玉」がどんな物か?ではなく、「玉」を引き当てる為の「磚」が、どのような出来栄えか?がこの計略の要となる。
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第一七計
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抛磚引玉
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ほうせんいんぎょく


磚を抛げて玉を引く


磚(せん)を抛(な)げて玉(ぎょく)を引(ひ)く






 11世紀初期の北宋代に、禅僧・道原(どうげん)によって編纂された燈史(とうし)である『景徳傳燈録(けいとくでんとうろく)』の中にある言葉。
「燈史」とは仏教の歴史書、取り分け禅宗の歴史書を指す。
 その『景徳傳燈録』に収録されている話で、唐代の詩人・常健(じょうけん)の故事に因む。
 詳細は不詳だが、
「まず自身が拙い見解や詩作を最初に出す事で、それを呼び水となるように仕向ける。
 他人がそれに釣られて次々と自説を語り始めたり、詩作を披露し始めるようにする。」
という趣旨の故事である。






☰  ☴  ☲  ☶  ☱  ☵  ☳  ☷
 類(るい)を以て之(これ)を誘い、蒙(もう)を撃つ也(なり)。
☰  ☴  ☲  ☶  ☱  ☵  ☳  ☷
 類似の事物を用いて敵軍を惑わし、誘き寄せる。
 判断を混乱させ、その機に乗じて敵軍を撃破する。
☰  ☴  ☲  ☶  ☱  ☵  ☳  ☷

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