YAMINABE the Second Operation

この11年間の数多くの思い出を携え、私は新たな旅へと出発します。それでは皆さん、御達者で。

第二二計 関門捉賊

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第二二計 関門捉賊







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 計略名の寓意は、城内や邸内に賊が忍び込んだ時、どのように対処するか?の答えである。
 侵入した賊を捕える(捉える)時に、どうやって捕えるか?
 大声を張り上げて、賊が侵入した事を触れ回るか?
 あるいは脇目も振らず、ただひたすら追い掛けるか?
 それらは決して賢明な手段とは言えない。



 逃げようとする賊は、どこかの出入口から素早く逃げ出そうとするので、必ずしも捕えられるとは限らない。
 しかも賊が必死になって逃げようとしている時は、「窮鼠、猫を噛む」とも言うように、助かる為に何をするか分かったものではなく、危害を加えられる危険性が高くなる。
 捕えようとする側が、どのような手酷い反撃を喰らい、どれ程の酷い傷を負うか分かったものではない。最悪殺されてしまう事だってある。
 それでは例え賊を取り押さえられたとしても、決して利口な遣り方とは言えない。



 そこでそんな時は先ず、慌てず騒がず、賊にこちらの動きを気付かれないよう留意しながら、秘かに門やあらゆる出入口を閉じて、賊の逃走経路を塞ぐ事である。
 退路を断たれた事に気付かれれば、自暴自棄となり、忽ち「窮鼠、猫を噛む」の精神状態となり、死に物狂いで暴れ出す恐れがあるからである。
 そうして賊を外へ逃げられなくしてから、居場所に見当を付け、徐々に捜索の範囲を狭め、絞って行く。
 そうする事によって取り逃す事もなく、無闇に狂暴化させる事もなく、確実に賊を捕えられるという訳である。
 こういった行き方を、軍事面やそれ以外の側面でも応用するのが、この計略の趣旨である。



 兵法書『呉子(ごし)』の第六篇【励士篇(れいしへん)】の中の一節に、こう書き記されている。





『呉子』の励士篇

>>>>>
 今、一死(いっし)賊(ぞく)をして曠野(こうや)に伏せ、千人(せんにん)之(これ)を追わしむるも、梟視狼顧(きょうしろうこ)せざる莫(なか)らん。
 何となれば、其(そ)の暴に起ちて己を害せんことを恐るれば也(なり)。
 是(これ)を以て一人(いちにん)、命を投ぜば、千夫(せんぷ)を懼(おそ)れしむるに足る。
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【現代語訳:例えば今、死に物狂いとなった一人の賊が、広野に逃れて身を隠したとする。
 この賊を捕える為に、千人もの追手を差し向けたとしても、寧ろ追手の方こそびくびくと怯える事となる。
 何故ならば突如賊が姿を現し、追手に襲い掛かって来る事を恐れるからである。
 このように、たった一人の賊でさえも、命を投げ捨てる覚悟を固めて立ち向かえば、千人もの相手を震え上がらせる事が出来る。】





 上記引用文はたった一人の賊に喩えているが、これを戦に置き換えると、敵軍がどこかに隠れていて、その居場所が分からず、必死の覚悟を決めている。
 しかもいつでもこちらを奇襲出来る態勢にある。そんな敵軍を追跡するのは甚だ危険であり、効率も悪い。
 殲滅出来るならば、決して逃がさず殲滅する事こそが理想である。
 だが図らずも取り逃してしまったならば、手負いの獣と化した敵軍に逆襲され、傷を負わされる危険性があるので、徒に急追するのは避けるべきとなる。
 すなわちそうなったら関門捉賊路線ではなく、反対の【第一六計 欲擒姑縦】の路線で行くべきである。



 このように「門を閉じて、賊を外へ逃すべきではない」と言うのは、賊の逃走そのものを恐れるのではなく、上手く逃げ果せたその賊が、早かれ遅かれ、将来自分に危害を加えようとするのを恐れる事に拠る。
 歴史を顧みても、トドメを刺すべき時にきちんと仕留めておかなかったばかりに、後々自身に禍を招いてしまった、という例はたくさんある。
 だからこそ将来の禍根を断つ為に、トドメを刺せる時には躊躇わずにトドメを刺せ、という教えである。



 続いて兵法書『孫子(そんし)』の第三篇【謀攻篇(ぼうこうへん)】の中の一節では、次のように説いている。





『孫子』の謀攻篇

>>>>>
 故に兵を用うるの法、十なれば則(すなわ)ち之(これ)を囲み、五なれば則ち之を攻め、倍すれば則ち之を分かち、敵すれば則ち能(よ)く之と戦い、少なければ則ち能く之を逃れ、若(し)かざれば則ち能く之を避(さ)く。
 故に小敵は大敵の擒(きん)也(なり)。
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【現代語訳:故に戦い方の原則とは、次の挙げる通りになる。
(自軍が敵軍よりも)十倍もの兵力ならば、包囲する。五倍もの兵力ならば、攻撃を加える。
 二倍もの兵力ならば、分断させる。同等の兵力ならば、奮戦する。
 劣勢で不利ならば、退却する。勝算が立たなければ、最初から戦いを避ける。
 以上の事から、自軍の兵力を弁えず、強大な敵軍に徒に挑むのは、却って餌食とされるのが落ちである。】





 更には同書の第七篇【軍争篇(ぐんそうへん)】の中の最後の一節では、「こういった状態にある敵には、決して攻撃を仕掛けてはならない。」という趣旨の記述がある。
 すなわち戦闘に際して敵軍への攻撃を避けるべきである、八種類の状況を列挙している。





『孫子』の軍争篇

>>>>>
 故に兵を用うるの法は、高陵(こうりょう)には向かう勿(なか)れ。丘を背にするには逆(むか)う勿れ。
 佯(いつわ)り北(に)ぐるには従う勿れ。鋭卒(えいそつ)には攻むる勿れ。
 餌兵(じへい)には食らう勿れ。帰師(きし)には遏(とど)むる勿れ。
 囲師(いし)には必ず闕(か)く。窮寇(きゅうこう)には迫る勿れ。此(こ)れ兵を用うるの法なり。
<<<<<



【現代語訳:従って軍を動かすに当たって、守るべき原則には、以下に挙げる事柄がある。
(第一に)高地に布陣した敵軍を攻めてはならない。(第二に)丘を背にした敵軍を攻めてはならない。
(第三に)敗走を偽装して退却する敵軍を追ってはならない。(第四に)鋭気に満ち、戦意盛んな敵軍を攻めてはならない。
(第五に)囮として投じられた敵の一団に飛び付いてはならない。(第六に)自国への帰還途上にある敵軍の前に、立ち塞がってはならない。
(第七に)敵軍を包囲したなら、必ず敵軍が逃げる退路を残しておかねばならない。(第八に)窮地に追い詰められた敵軍を攻めてはならない。
 以上(の八点)が戦闘に際し、守るべき原則である。】





【謀攻篇】からの引用で、『十なれば則ち之を囲み(十倍もの兵力ならば、包囲する)』の箇所こそは、この関門捉賊策にも通じる。
 そこまでの圧倒的な力の差を見せ付けてこそ、敵の反撃する意志を挫かせ、どう足掻いても勝ち目はないと観念させる事が出来る。
 そしてそれ程までの逆転不可能な力の差がある時こそ、攻撃を加える絶好の機会であり、一気に殲滅して後々の禍根を断つのである。






【軍争篇】からの引用で、『囲師には必ず闕く(敵軍を包囲したなら、必ず敵軍が逃げる退路を残しておかねばならない。)』『窮寇には迫る勿れ(窮地に追い詰められた敵軍を攻めてはならない)』の箇所は、反対に欲擒姑縦策の趣旨に通じる。
 これらの対応は、彼我にそれ程までの歴然とした優劣ぶりがない場合は、攻撃したらこちらもそれ相応の犠牲が出るので、よほどの事情がない限りは無理な力押しは避けた方が良い、という趣旨である。だがこれらの禁止事項も、圧倒的な兵力差があれば話は変わって来る。
 自軍が敵軍と比べて、それ程までに圧倒的に優勢な力があれば、敵軍の戦意も喪失させられ、「窮鼠、猫を噛む」ような事態を恐れる必要もなくなって来るからである。



 この計略を用いるべき時とは、どういう状況の時か?まずは次の二点の条件を満たしている事である。





㊀彼我の間に著しく隔絶した力の差がある事。
 手負いと化し、牙を剝き出した相手の逆襲を、簡単に捻じ伏せられるだけの圧倒的な力の差がある事。
 敵がある一定以上の強大な力を持っていたり、戦意旺盛な場合には用いるべきではない。仮に実行してみても成功しない。



㊁逃してしまったら、将来に亘って大きな禍に見舞われる事が予め分かり切っている事。
 そんな時は例え周囲が何を言おうと躊躇してはならず、一切の逃げ道を塞ぎ、非情に徹して息の根を止める。





 以上示した事柄から、関門捉賊路線で一気に敵を殲滅して決着を付けるか、欲擒姑縦路線で徐々に敵の力を削いで行ってから、遠回りに決着を付けるかは、その時その時の状況から判断して決定する。



 手負いの獣や窮鼠と化した敵の反撃を、恐れる必要もない位の圧倒的な力の差がある時は関門捉賊路線を選択する。
 そして躊躇わずに一気に終わらせて、徒に戦いを長引かせる事を避けるべきである。



 だが彼我の力にそこまでの隔絶した差がなく、精々敵よりも比較的優勢だという程度の差である限りは、欲擒姑縦路線を選択する。
 そして強引で性急な力押しを避け、直線的な勝利ではなく、「急がば回れ」で迂回しながらの勝利を目指すべきである。
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第二二計
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関門捉賊
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かんもんそくぞく


門を関じて賊を捉ふ


門(もん)を関(と)じて賊(ぞく)を捉ふ(とらう)






不明。






☰  ☴  ☲  ☶  ☱  ☵  ☳  ☷
 小敵は之を困(こん)じて剝(は)ぐ。
 往(ゆ)く攸(ところ)有るには利ならず。
☰  ☴  ☲  ☶  ☱  ☵  ☳  ☷
 弱小な敵は包囲し、一気に殲滅する。
 但(ただ)し追い詰められ、死に物狂いとなった敵軍に対しては、深追いは不利となるので避けねばならない。
☰  ☴  ☲  ☶  ☱  ☵  ☳  ☷

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