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オオスズメバチが樹液にたかっています。
カナブンくらいは見られるだろうと、樹液漏出部を見に行ったところ、
この様子。
周りを見るとさらに数頭が飛んでいて、ちょっぴり肝が冷えました。
画像を良く見ると、右下の方に、コクワガタと思しき甲虫がいますね。
オオスズメバチにのけ者にされたのかな。
本種は、いわずと知れた日本最大のスズメバチ科のハチです。
と同時に、実は世界最大のスズメバチ科のハチでもあります。
基本的には、体が大きければ力も強くなるし、また毒液の量も多くなる
わけでして、本種をもって世界最強のハチとなすこともあるようです。
本当に世界最強なのかどうかは、基準も曖昧でよく分からないのですが、
心情的には納得してしまいますね。実際、山で出会うと怖いですからね。
スズメバチという名は、スズメほど大きいハチとの意であると記される
ことが多いようです。
さすがに、実際にスズメほど大きいわけではありません。
国内最小の鳥類のキクイタダキ(約10cm)よりも小さく、40mmほどです。
しかしながら女王バチの中には、全長50mmはあろうかという大型個体も
おり、その威圧感たるや、小鳥をなんなく凌駕します。
Wikipediaでは、スズメの模様に似るとの説も記載されています。
スズメの模様に似ているようには、個人的には見えないのですが、どう
でしょうね。明るい赤褐色と黒という、ベース色の組み合わせが共通の
意匠とも言えなくはないですが。
また地方名では、アカバチ(赤橙色のハチの意)や、クマバチ(熊のように
大きい・攻撃力のあるハチの意で、クマンバチとも)などを聞いたことが
あります。
アカバチやクマバチは、キイロスズメバチ等の類縁種に用いられることも
多いようです。
地域によるのでしょうか、アカバチはキイロスズメバチを指し、オオスズメ
バチを含まなかったりもします。
まあ、細かい生物の同定に興味がなければ、大まかな分類群が把握できれば
生物名としては十分用を足すわけで、地域や人によって、その意味が広く
なったり狭くなったりするのは当然のかもしれません。
余談ですが、「クマバチの巣があるよ」なんて言われて、標準和名の方の
クマバチ:Xylocopa appendiculata circumvolans の巣があるのか、よく
見つけたもんだなと呟きながら見に行くと、スズメバチがブンブン飛んで
いて、腰を抜かすということがありました。
生きものの地方名をマスターすることって、結構大切ですね…。
さて、以前にセグロアシナガバチの件でも触れましたが、ハチと聞いて
思い浮かぶ生物・生態学的な特徴といえば、
1.社会性昆虫である
2.毒針で攻撃する
に尽きると思います。(もちろん、非社会性の種も、刺さない種もいます)
オオスズメバチはこの両方を満たし、そしてその完成度も高い。
トレロカモミロが男の中の男であるように(わかる?)、本種はハチの中の
ハチと言っても過言ではないのではないでしょうか。
オオスズメバチの1ファミリーは、最大で数百匹の個体から構成されるとの
こと。さすがに万単位の働きバチを持つミツバチには及びませんが、結構な
数です。
中にはサボる個体もいるのでしょうが、基本的に社会性昆虫の兵隊・労働
要員は、自身の生死よりも巣の存続を優先しますから、数百匹が文字通り
命を賭す覚悟でいるはずです。
で、各個体も大きく、強靭な大顎、毒針という武器を持ち、樹液採取の
ような簡易な食料調達から、他生物の急襲・略奪(ミツバチなどの巣を襲う
ことは有名ですね)、育児、巣の増改築、警戒、威嚇、攻撃等、産卵以外の
ありとあらゆる行動をとり得る、マルチパーパス・ソルジャーなのです。
加えて、個体同士の連携も上手くとることができます。
例えばぼくが、本種の巣に近づくと、斥候役の個体が眼前に迫り、大顎を
カチカチと鳴らして威嚇します。
それでもぼくが退散しないと、警戒フェロモンと呼ばれる化学物質を放出、
危機が迫っていることを仲間に伝え、応戦準備を整えます。
(警戒フェロモンには、揮発性の有機物2ペンタノール、3メチル1ブタノール、
1メチルブチル3メチルブタノエステルとかいう物質が含まれているそうで、
稀に同物質が香水なんかに入っていて、えらい目にあうこともあるとか…)
また、餌を見つけたときも、特定の物質を放出して、仲間を呼ぶそうです。
ここまでくると、もう米国海兵隊も真っ青の組織ですよね。
毒成分は他のハチと同じく、カクテルとも比喩される複合毒。
決して単体の蟻酸ではありません。
以前も紹介しましたが、基本的には複数の成分が含まれていて、炎症や
痛みを引き起こし、組織を侵し、毒の浸潤を促進、神経に作用―という、
複合的な効き方をしているはずです。
毎度のことですが、刺されたらアンモニア水溶液やおしっこをかけずに、
水か何かで流したり、ポイズンリムーバーで毒液を吸い出したりしつつ、
お医者様へ向かわれてくださいね。
また本種は、敵を刺して毒を注入するだけでなく、霧吹きのごとく尾端
から毒液を噴射することもあります。ぼくは直接見たことはありませんが、
それが目など粘膜のある器官に入ると、ばっちり炎症を起こすそうです。
そんなことにならないよう、怒りあらぶるハチ達を刺激しないように、
本種を見かけたらゆっくり後ずさりして、逃げましょうね。
そういえば、スズメバチ類は黒いものを敵とみなす傾向にある、だから
黒い服を着ていると危険だ、とする説がありますね。
日本において、ハチは食料として利用されることもあります。
クマやハチクマ(ハチの巣専門の猛禽類)のような野生生物のみではなく、
ヒトも利用することがありますよね。現在は嗜好品としての扱いに近い
ものがありますが、かつては蛋白源として重宝されたはずです。
ハチを食うクマやモンゴロイドは、黒い体毛を持っています。
だからハチは、黒い生きものは自分たちの巣を襲って食う敵だ。黒い奴を
警戒しろ。攻撃しろ。そういう本能を持っているということです。
鳥や哺乳類が、「黄色と黒は危険の印」と刷り込まれ、本能的にハチ類を
避けている一方、ハチ達は「黒い体は危険の印」と刷り込まれ、黒っぽい
生きものを警戒しているらしい。なかなか面白い事象です。
で、白っぽい服は逆に安全ということになっているようです。
ハチ駆除業者の着るような防護服が白いのは、攻撃の可能性を減らすため。
もちろん、汚れやハチの付着がないかチェックしやすい、着色のコストが
かからないといった理由もあるのでしょうが。
しかし、白い服を着ているから大丈夫、なんていう盲信は持たずに、オオ
スズメバチからはゆっくり焦らずさっさと逃げた方が良いように思えます。
あっまたついつい長くなってしまった!
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トレロカモミロは懐かしいですね 寝坊だったんですってね
実在の人物なんでしょうか
2007/9/20(木) 午前 1:30 [ マロニエ ]
大変面白く読ませてもらいました。知っていることも有りましたが、毒液を噴射することなど初めて知りました。ところでスズメバチはどうして人家の軒下や人家の近くに好んで巣を作るのですか、巣は毎年新たな巣を作るのですか、北限はどこですか、色々疑問が湧きます。
2007/9/20(木) 午前 7:28 [ hakkakesuposuka ]
>marinie2005さん
トレロカモミロさんは戦いより昼寝が好きだそうです。
ぼくも仕事より昼寝の方が好きです。
実在してはいないんじゃないですかね?
>hakkakesuposukaさん
人家に作るのは、雨もしのげて見通しもよく、天敵も近づきにくい
好立地だからじゃないでしょうか。
木の洞などと構造が似ていることもあって、通風孔から侵入して
屋根裏に巣を作ることもありますね。
巣は毎年更新です。女王だけが一人で越冬し、他の家族は息絶えて
しまいます。
北限はどこでしょう?国内分布は北海道まで。
アジア南部から分布する種なので、北限は北海道あたりの緯度の
ように思いますが…。
生きもの関係は疑問が次々わいてきますよね。
虫や花に聞いても答えてくれないですもんね。
2007/9/21(金) 午前 3:53 [ ずく無し88 ]
zukunashi88さん、はじめまして。宮城県仙台市に住んでおりますmt_izumi_1172と申します。
ブログネタが無かったので、私の好きな本「スズメバチはなぜ刺すか」(松浦誠 北海道大学図書刊行会)の紹介を書いたところ、こちらを拝見する機会に恵まれました。
私はスズメバチの驚異的な能力や社会性が非常に面白く、機会があるつどじっくり観察しております。
ところで、ハチは色というよりは背景とのコントラストを感じて攻撃するという説もあるようです。したがって、夜は背景に馴染む黒の方が白よりも安全、ということらしいですが・・・。
http://www.ntv.co.jp/megaten/library/date/06/10/1015.html
私が一番興味があるのは、「ハチクマ」がなぜハチに刺されないのか?ということです。宮崎学さんの説を持ち出すまでもなく、何らかの匂いやフェロモンをまとっているとは思うのですが・・・。
2008/1/10(木) 午後 8:08 [ 泉ヶ岳 ]
時々スズメバチバスターを頼まれることがあります。もちろん商売ではなくボランティアですが・・。
三年ほど前に退治の手順をしくじってしまい数匹のオオスズメバチに頭の周りを威嚇され、防護網をすり抜けて顔に何か液が飛んできました。それが警戒フェロモン、つまり蜂毒です。幸い私は眼鏡をしていますので、目の中に直接は入りませんでしたが、眼鏡のガラス部に沢山の毒液が付着しているのが確認できました。
2011/10/19(水) 午後 10:44 [ おおさわ初男 ]