私小説

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全5ページ

[1] [2] [3] [4] [5]

[ 次のページ ]



『関選手、七度目の優勝、おめでとうございます』
その日関は競輪選手として最年少最多優勝記録を更新、次代を担う超新星と謳われた。
『ありがとうございます、嬉しいです』と素直に喜びを破顔一笑で表現する関。
『この喜びを一番に誰に伝えたいですか?』記者が続ける。
『そ〜ですねぇ、やはり妻ですかね』笑顔で応える関。
『いやぁ、やはり今回も一番最初に伝えたい人は奥さんですか、本当に関選手は愛妻家ですねぇ』と記者一同が柔らかな笑いで場を包む。
はにかみながら関、『いやぁ、今の僕が有るのは妻のお陰、妻の存在なくして今の僕はありませんから…』
 
“本当に妻が居なければ今この舞台に私が立つ事は無かった…”
それは7年前、関の初優勝が掛った大一番での出来事だった。
 
当時関は国立大を中退し競輪選手への道を歩んだ異色の競輪選手として注目を浴びていた。
だが、成績は中々振るわず“やはり大学中退のお坊ちゃまではねぇ”と仲間内は愚か記者連中からも揶揄される有様だった。
 
彼の父は元・競輪選手の花形だった。
何れは自分もと思っていたのだが父は大反対、大学への進学を強く薦めた。
 
それには訳が有った。
 
スター選手時代、後続の選手の無理な追い越しに巻き込まれ五台が絡む大惨事となった。
父親は一命は何とか取り留めた物の複雑骨折で現役続行は不可能となり、30代半ばにして現役引退を余儀なくされる結果となった。
 
使えなくなった競輪選手の末路など侘しい物である。
スター時代あれほどちやほやしていた連中は潮が引いていくように彼の元を去っていった。
 
“稼げない者には用はない”そう皆が言っている様に当時の父には聞こえたという。
トラックの運転手やら道路工事の現場やらそれこそ仕事と名の付く物は何でもやったという。
 
それは当時生まれたばかりの赤ん坊、つまり関を何とか立派に大きくしなくてはという強い思いが有ったからであった。
 
父母の踏ん張りで関はすくすくと成長し立派な青年へと変貌を遂げた。
 
小さい頃から競輪に慣れ親しみ家には父の栄光を記したビデオやトロフィーや数え切れない賞状が所狭しと置かれていた。
 
そんな父の後姿を見ながら育った関が競輪選手へ憧れを持ったとしても不思議は無い。
『俺、競輪選手になりたいんだけど…』高校2年の春、突然関は父親へ告げた。
 
その時、普段滅多に怒らない父が珍しく激昂し断固反対の姿勢を崩さなかった。
最初は戸惑いを覚えたが余りの剣幕に推された関は父の勧めるまま大学進学の道を選んだ。
 
そりゃそうだろう、自分の命をも奪いかねなかったあの世界へ可愛い息子を行かせられる訳が無い。きっと父親はあの時の惨劇がありありと脳裏に蘇って来たのだろう。そして恐ろしさの余り息子を激昂し反対したのだと思う。
 
最初は両親の進めに従い大学進学を果たした関だったがやはり競輪選手の血は脈々と流れている。そう簡単に諦めきれる物じゃない。TVを付ければ花形選手の走る姿が嫌が上にも目に飛び込んでくる。
 
どうしても夢を諦め切れなかった関は置手紙を残し一人家を出た。
手紙を読んだ父親はがっくりと肩を落としたが“これも運命か…”と息子の背中を黙って見送る事にした。
 
やはりサラブレッド…練習生時代の関は他の練習生とは明らかに群を抜いて秀でていた。
次々と課題をこなしていき練習生の中で最速でプロへの道を着々と歩んで行った。
 
練習生時代からずっと関の横には大学時代の同級生である直子が傍に居た。
辛い時も悲しい時もしんどい時もずっと直子は傍で関を支え続けていた。
 
だが…この男、当人はそんな直子の気持ちになんぞ全く気付く気配はなかった()
“早く一人前のプロになって親父に認められる競輪選手になるんだ”只その一念のみであった。
 
まぁ邪念が無かった分彼の成長は著しく新人王優勝決定戦まで順調に駒を進めた。
だが…やはり“プロの壁”は厚かった。最初の決定戦で関は惨敗最下位に終った。
周囲の期待を一身に背負い“関二世”と騒がれたその重圧に彼は負けたのだ。
 
その後も“あの名選手関の息子”というレッテルが彼に重圧となって重くのしかかりそれが彼を優勝からどんどん遠ざけていった。周囲の期待は徐々に失望へと変わり野次に変わり関を責立てた。
 
それでも直子はその間もずっと関を鼓舞し励まし続けた。
親父の名をこれ以上穢す訳にはいかない…引退を賭けた大勝負に遂に関は掛けた。
 
自分にプレッシャーを掛ける事で火事場の馬鹿力を得ようとしたのだ。
そして…もう一人此処に“人生”を賭けた者が居た、直子であった。
 
競輪場で練習を終えた関はアパートへの帰り道偶然立ち寄ったコンビニであらぬ話を聞いた。“ねぇねぇ、直子先輩、あの関とかいう競輪選手の為に学資金全部つぎ込んだらしいわよ”“えぇ!まじで?頭イカれちゃったんじゃないの?あんな終ってる選手に学資金全部つぎ込んでもし駄目になっちゃったら留年じゃない、もう4年で就職先も決まってるのに”
 
関は驚いた、そして持っていた買物袋を落としたまま直子の住むアパートへ直行した。
関の余りの形相に直子は初め訳が解らなかった。
 
“お前馬鹿か!大切な学資金を俺に全部賭けたんだってな、どうしてそんな馬鹿な事したんだよ。俺が今すぐ掛け合って取り戻して来てやる。お前はちゃんと卒業して就職するんだ”
 
“大丈夫だよ”屈託の無い笑顔で関に笑いかける直子。
 
“私、良ちゃん信じてるもの、だって良ちゃん小さな頃から嘘だけはつかなかったもの。大丈夫、私は良ちゃん信じてるから…だから勝って”。
 
笑いながらでも目は“真剣”その物だった。
 
そして…初めて関は“彼女の本当の気持”に気付いた。
“俺は…俺は何て馬鹿な男だったんだ。こんなにも近くに俺の一番の理解者が居てくれたのに、こんなにも俺の事を思ってくれる一番の”ファン“が居てくれたのに…親父の後姿ばかり見てちっともこいつの事見てやれなかった。それなのにコイツはずっと俺の事ばかり…”。
 
その時初めて関は気付いた。
 
部屋中が“関一色”に染まって居た事を。
其処には関のポスターや全試合の成績表などありとあらゆる“関情報”が所狭しと並べられていた。
 
関はそのまま黙って戸を閉めるとダッシュで練習場へ戻っていった。
その後姿を直子はいつまでもいつまでも見送っていた…。
 
それからの関は“変わった”。
今までの“関選手の息子”という重圧や呪縛から時解放たれた“若獅子”の顔で練習に励んだ。今までの堅さは取れ着々と優勝へ向け一人練習に励んだ。
 
そして試合当日…当日は雲ひとつ無い晴天で絶好のレース日和だった。
“優勝”と書かれた鉢巻を頭に巻いて直子は家を出た。
 
関のレースは最終レースで有った。今までの成績の不振から関は大穴扱いだった。
回りは“あの関に掛ける何て頭どうにかしちゃったんじゃないの?”と揶揄するがそんな戯言に耳を傾ける直子ではなかった。
 
直子は信じていた、関はきっと勝つ勝って私を喜ばせてくれると…。
 
そして運命のレースが始まった。
最初は団子状態それから徐々に各選手の自転車がバラけていった。
素晴しいターンを見せる関、試合は一進一退の激しい鍔迫り合いだった。
 
関に取っては練習生時代からのライバル、吉松も其処には居た。
既に関より早く優勝経験を持ち花形選手として脚光を浴びていた。
 
吉松が激しく関を追い立てる、それをギリギリのラインで交わし逃げ切りを図る。
激しいデッドヒートが展開されほぼ二人は同時でゴールインした。
 
ビデオ判定の結果が出るまで数分、だが直子に取っては何時間にも思えた。
ビデオ判定の結果…優勝したのは吉松選手、惜しくも関は二位となった。
だが観客は久し振りに“関の息子の大健闘”を讃え優勝した吉松選手より拍手が多かった
だが、関の耳にはそれら大観衆の拍手などどうでも良かった、只一人の声援を除いて…。
 
“あぁ、負けちゃった。一点買いだから全額パーだよ”屈託の無い笑顔で直子が言う。
それを真剣な面持ちで見つめる関…“ごめん、俺のせいでお前の大切な…”。
“ううん、いいの。どうせ大学辞めたかったしそれにやりたい事も他にあったしね”
“直子…”
“ん?何?”
“俺と…俺と…俺と結婚しないか!”
余りの突然のプロポーズに今度は直子が持っていた鞄を落す番であった。
 
固まる二人…そして直子の目から大粒の涙が零れた。
“本当?本当にいいの?私なんかで…”そう言いかけた直子を関は抱き寄せそして強く抱締めた。
“馬鹿、お前なんかでじゃなくてお前がいいんだよ、お前じゃなきゃ駄目なんだ。お前じゃなきゃ俺は幸せになれない。俺じゃなきゃお前を幸せになんて出来るもんか!俺の一番のファンはお前だ。だけどお前の一番のファンも…俺なんだよ。初めて気付いた、こんなにも近くに俺の一番のファンが居た事に。ずっと気付けなくてゴメンな、ずっと辛い思いばかりさせて本当にゴメン…やっと見つけた俺の”宝物“を…”
 
“私…やりたい事叶ちゃった”涙で顔を真っ赤にし鼻水を垂らしながら直子が言う。
“え?やりたかった事って…”
“良ちゃんのお嫁さん、小さい頃からのずっと夢だった。だから高校も大学も良ちゃんと同じ所へ進学したんだよ。ずっと良ちゃんから離れたくなかったもん。
 
“直子…”
 
そのままずっと二人は暫く抱き合っていた御互い顔を涙でくしゃくしゃにして…。
 
あれから7年の歳月が流れた。
 
最初の優勝こそ逃した物の“新たな力”を得てそれからの関は正に”鬼神“の如き活躍で優勝の山を幾つも築いていった。揶揄していた観客も今では惜しみない歓声を彼に送る。
 
そして優勝インタビューの度に彼はいつもこう応えている。
“今の自分があるのは全て妻のお陰です。妻が居なければ今の自分は有りません”と…。


今年もやってきたSt.Valentine。
1年に1度女の子が男の子に心を込めて愛を込めてチョコを送る日。

この日の為に女の子は何ヶ月も前から色々な策を練り本命の男の子を”落とす”作戦を色々と考える。大好きな男の子の為に一生懸命努力する女の子の姿はとても美しい。

何かに夢中になる人の笑顔はとてもキラキラとして輝いているように僕には見える。
そして僕も今年で8回目の”本チョコ”を貰える。

世の中では”義理チョコ”や”友チョコ”など”本チョコ”以外の儀礼的なチョコ習慣がある。
1年に一度位チョコレート会社の策略に乗ってあげても良いと思うが僕は”本チョコ”以外のチョコは貰わないと心に決めている。

それは約20年前、一寸切ないヴァレンタインの日の出来事が原因だった…。

僕はヴァレンタインの前後にショーケースに並ぶチョコを見るのが昔から大好きだった
色もとりどり味も形もとりどりのチョコ達は見ているだけでとても楽しく愉快になる。

チョコを買わなくてもいい、只、見ているだけで心がウキウキと躍りだす。
そんなチョコを見るのが大好きで僕は良く近所の百貨店のチョコ売り場へ足を運んだ。

僕はウイスキーボンボンが好きで毎年同じウイスキーボンボンを買っていた。
毎年様々なチョコが並び店員さん方々もチョコを売ろうと必死になっていた。

ある日の事…何時もの様にショーケースに並ぶチョコを見ながら歩いて居たときの事
妙齢の女性店員さんが近づいてきた、目を見た瞬間”やばいな!”と感じた。

僕の”嫌な予感”という奴は大抵当たるのだ、宝くじや懸賞は外れるけれど何故か自分に害を成す存在の予感という奴は昔から外した事が無い。

”以心伝心”恐らくそんな物だろうか?相手が自分を嫌っている事を解ってしまう。
面倒だなと何時も思うのだがこればかりは自分自身でどうしようもない。

その日もそんな状態だった。

卑下た薄ら笑いを浮かべ妙齢の女性店員は僕に近づいてきた。
そして一言こう言った。

”最近は男性がチョコを買われる事も多いんですよ、何、恥ずかしがる事は有りません。女性からチョコを一つも貰えず自分用にチョコを買っても全然おかしな事ではないんですから…”と僕に一瞥をくれた。

女性客に混じって男性客が買物に来たのが癪に障ったのか?
それとも違う理由だったのか?当時の僕には解らなかった。

でも一つだけ確かな事があった。
それはその妙齢の女性店員が明らかに僕を侮蔑していたという事。

(どうせこんな車椅子、チョコを挙げる彼女なんて居ないだろ)
この時、僕は人の心を読める能力を有する事を始めて呪った。
この能力さえ無ければこんな惨めな思いをする事は無かったのに…。

確かに当時僕には彼女も義理チョコをくれる女友達も居なかった。
チョコをくれるのは何時も母親と姉そして父の会社の事務員さんだけだった。

僕はそのまま黙ってその場を立ち去り…その日の夕方僕は近所の高台に居た。
そして訳も無く叫んでいた、恐らく近所の人が見たら頭がおかしくなったと思うだろう。

でも僕は人目を憚らず泣いたそして訳も無く絶叫した。
悔しくて悲しくてそしてそんな事で嘆く惨めな自分が情けなくて…。

その時、僕は心に決めた。

”絶対義理チョコは貰わない、僕は何時か必ず本チョコを貰える男になる。その時まで僕は絶対義理チョコは貰わない”と…。

あの日から既に20年近くが経過した。

今、僕は大学で教鞭を取る立場となり多くの生徒や同胞に囲まれる日々を送っている
あの日から僕は変わった、お洒落にも気遣うようになり常香水も付けるようになった。

香水と葉巻とグラサンとZIPPOライターと手袋…これが僕のトレードマークとなった。

あれから僕は死ぬ程勉強し地元で一流と呼ばれる大学も出て今は多忙な日々を送っている。あの時の悔しさがあの時受けた心の傷が、そしてあの時受けた屈辱が今までの僕をある種支えてくれたといっていい。

絶対に負けない!そう心に決めて我武者羅に頑張ってきた20年だった。

あれから多くの同胞や大学の後輩からもチョコを貰える立場となったが僕は受け取らなかった。”本チョコ”を貰うまで僕は頑張るんだ、そう心に決めたから…。

今、僕の手元にはたった一枚のチョコレートが届く。

幾つ物店舗を回り全てのチョコレートをノートに記載し何度も何度も遂行し何ヶ月も掛けて選ぶ最高の一枚。

僕はやっと”本チョコ”を貰える立場となった。

2.14.Valentine Day

今年も一寸切なくてそしてちょっぴり甘い日がやってくる…。

追伸
これは実話です^^;

変身〜TranceForm〜


ずっと憧れていたライダー 子供の頃からの憧れだった。
ライダーベルトを腰に巻いて ”変身”の掛け声一つでスーパーヒーローになれる。

ヒロインや小さな子供達 そしてお年寄り達を守る為懸命に活躍する主人公
時には怪人相手に負けそうに成るけれど 皆の応援で復活、見事勝利を収める。

そんなライダーにずっと憧れていた 僕もなれたらなぁと…。

でも実際の僕は弱かった ガキ大将に苛められいつも泣いてばかりだった。
弱い自分が嫌だった チビでひ弱な自分が大嫌いだった。

或る時…女の子がガキ大将達にいじめられている場面に遭遇した
直ぐにも駆けつけて助けたかったけど…怖かった、恐ろしかった。

何時も殴られ蹴られ笑われてばかりでちっとも勝てなかった。
僕はみて見ぬ振りをしてその場を通り過ぎようとした…。

でも…彼女の小さな声が聞こえた”助けて…”。
とても小さな声で聞き間違いかと思える程小さな声だったけれど僕には確かに聞こえた。

そして少女の目が僕を見つめていた 只、ひたすら僕を見つめていた…。
怖かった、恐ろしかった。 又、蹴られる、又殴られる…。

でも…僕は心の中で叫んだ”変身!”と。
弱い自分にさようなら、強い自分よこんにちわ。

僕の中で…何かが生まれた、それはとても小さな物だけどとても確かな物。
小さき物…それは勇気。

僕は一直線にガキ大将へ向かっていきいきなりヘッドバッドを食らわせた。
体は小さいけれど奴らより僕は早く動ける、スピードを活かせばきっと勝てると信じていた。

嫌、勝たなきゃいけないんだと…彼女の為に、そして何より弱虫だった自分の為に。

僕のヘッドバッドは幸い奴の金○を直撃、ガキ大将はそのままもんどりうって転げまわった。
突然の事で何がなにやら判らない様子で取り巻きたちも驚いていた。

その瞬間僕は彼女の手を取って逃げた…一目散に駆けた。
逃げながら僕は笑っていた、そして彼女も笑っていた。

あらから20年…あの時の少女は大人になりそして今僕の傍に居る。

”あの時の弱虫君が今じゃ鬼の教官だものねぇ、人間変われば代わる物ねぇ”とクスリと笑う彼女。
嫌、正確には僕の妻だ。あれから僕は体を鍛え警察学校へ入学そのまま警察官の道を歩んだ。

志半ばで大怪我を負い今は現役を引退してしまったけれど鬼の教官として警察官を指導する立場にある。
皆は僕が昔弱虫だった事を知らない(嫌w知られたくない(笑))。

僕は言う。

”あの時声が聞こえたんだ、とても小さい声で聞き逃してしまうような声だったけど僕には聞こえた。
 ”変身”って…だから僕は生まれ変われたんだ。”

”・・・聞こえたよ。私にもその声、そして良ちゃんが変わっていくのがはっきりと解った。
 あの時私には判ったんだ、良ちゃんこそが”私のヒーロー”だって。有難う、助けてくれて”

”ううん、お礼を言うのは僕の方さ、あの時もしナオが小さな声で”助けて”と声をあげてくれなかったら僕は”変身”出来なかった。一生”弱虫良ちゃん”のままだった。あの時ナオが”声をあげてくれたから”僕は”変身”する事が出来たんだ。ありがとう、ナオ。

今、僕らは二人で一人。

この”変身”は二度と解かれる事は無いだろう。
そして僕たちの”ストーリー”はまだまだこれから。

変身…それは体の強さじゃない、心の強さだったんだ。
それが初めて解った。

今、ライダーは僕の心の中に居る。
僕は…ライダーになれた。

『優しさの行方』


彼女が死んだ…。

ほんの少し皆が“優しさ“を示してくれれば助かる筈の命だった。

デート途中突然崩れるように彼女が倒れた。

何時もの発作だ。

しかし今日は偶々インスリンを持ち合わせて居らず彼は急いで119番へ電話をかけた…つもりだったが慌てて居た為に110番通報してしまった。

相手は“此方は警察です。救急は119番へかけ直して下さい“と機械的に応対し電話を切った…。

彼は慌てて119番へ再度かけ直した。

あの時もしも警察署の人が救急に回してくれて居たら…。

119番へ連絡をしても救急車は中々到着しなかった。

丁度夕方のラッシュに巻き込まれたからだ…。

あの時もしもドライバーが優しさを示し道を譲ってくれていたら…

病院まで後少しという所で渋滞による足止めを食らった彼は遂に車を降り彼女を抱えて病院へ走った。

何としても彼女を救いたいその一念で…

しかし救急隊からの連絡が上手く伝わらなかった為病院の受付でも足止めを彼は食らう事となった。

もしあの時受付が優しさを示してくれて居たら…

結局彼女は死んだ。

病院に着いて手術室に運ばれた時には既に事切れて居たのだ。

彼は人目を憚らずその場で絶叫し泣き叫んだ。

“何故だ!?何故彼女が死なねばならぬ、何も悪い事はしていない彼女が…何故だ〜!“

彼の叫びは中空をさまよい闇に吸い込まれた…。

それから暫くの時が流れた。

一時は怒りに任せて自暴自棄になりかけた。

しかし彼は今、救命救急士として多くの人命を救う仕事に就いて居る。

お葬式も済み納骨も済ませ一人彼女の墓と向き合いながら彼は考えた。

“もし…もしあの時俺が彼女のインスリンの所持を確認していたら、或いは彼女は助かったかも知れない。彼女を殺したのは本当は俺かも知れない“と。

二度と彼女のような不幸な人間を出したくない。

それは彼女が彼に教えてくれた“優しさ“だったのかも知れない。

fin

追伸

これは半実話です。
”皆さんのお話は良く解りました。まぁ御茶でも飲みませんか…”
刑事の中の一人が部下にお茶を出させ、そして刑事の身の上話が始まった。

『私は警察学校をそれこそギリギリの成績で出ましてね、嫌、私も母子家庭でお金が無かったもんだから充分な教育も受けさせて貰えなかった。でもね、この通りの大男、そして何故か正義感だけはとても強かった。暴漢に襲われかけた少女を救う為、自らの命を落とした父のように…』

老夫婦と双子の姉妹は老刑事の話しに黙って耳を傾けていた。

『何とか警察学校をギリギリの成績で卒業したような人間です、上を狙うつもりなんて更々ありません。只々現場第一主義で40年間、今日でやっと退職の日を迎える事が出来ます。40年も刑事やってると色々な事がありましてね。でも…最後の事件が未解決のまま終っちゃったのは無念ですけどねぇ…』と言って老刑事はチラっと時計を見た。

皆、訳の解らないまま刑事の見た時計に目を向ける、すると…針が午前12時を丁度回った。
”はい、皆さんはこれで時効成立、私が無駄話をしている間にワッパ(手錠)掛けるの忘れてしまいました。ワハハ、年は取りたく無い物ですなぁ。さ、夜も遅い、皆さんは御帰り下さい”と…。

他の刑事たちは口々に異議を唱えたが老刑事の一喝で渋々口を噤んでしまった。
そして4名は深々とお辞儀をし、それぞれの家路に着いた…。

殺人犯が自首をしてきたにも係らずワッパを掛けずそれを追い返した事は翌日、部下によって直ぐに上に通達。上からはこっぴどくお叱りを受け、退職金は減額となった。

誰一人見送る物も無く40年勤め上げてきた署を後にした刑事は一人家路に着いた。
部屋の隅にある仏壇を開けそっと手を合わす、其処には二つの遺影。亡き父と妻だった。

”親父、直子、これで良かったんだよな?あの人達は確かに人を殺しちまったかもしれない。だが”罪を憎んで人を憎まず”って言葉もある。親父ならきっと解ってくれるよな、直子お前も…”

それから毎年、老刑事の下には必ず書中葉書と年賀状、そして必ずお中元とお歳暮が届けられるようになった。そこには連名で彼女達の名前が記されていた。

文面の最後には何時も必ずこう記されている。

”時効の天使様へ”と…。

終わり。

良かったらポチっとお願いします<(_ _)>

全5ページ

[1] [2] [3] [4] [5]

[ 次のページ ]


.
C-KOA
C-KOA
男性 / B型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

標準グループ

ブログバナー

Yahoo!からのお知らせ

検索 検索

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト『さとふる』
実質2000円で特産品がお手元に
11/30までキャンペーン実施中!
コンタクトレンズで遠近両用?
「2WEEKメニコンプレミオ遠近両用」
無料モニター募集中!
ふるさと納税サイト『さとふる』
お米、お肉などの好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事