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湯布院の2つの奇跡

  
  
  
〜*〜*〜 日本経済新聞夕刊(6月9日) "あすへの話題"より 〜*〜*〜
 
 
 
湯布院の2つの奇跡
        作家  夏樹 静子
 
 
 
<いくつかの急カーブを突っ切ると、突如目の下にひっそりとした村落の甍が見え、
 
 幾条かのかぼそい湯煙が立ちのぼっているのが眼にうつる。 (中略) 湯布院温泉である。>
 
 
 
「オール読物」推理小説新人賞(文藝春秋)の第1回受賞作(1962年、高原弘吉作)の舞台、
 
大分県湯布院は<十ばかりある温泉宿>のうら寂しい集落だった。
 
 
それが今、年間旅行者400万人以上、観光地の人気投票で全国最上位にランクされる。
 
 
奇跡の第一は勿論その発展にある。
 
 
私の住む福岡からはJR九州の特急ゆふいんの森号で約2時間。
 
 
磯崎新氏設計の黒い総木造りの新駅舎を出ると、正面に海抜1,584㍍の由布岳が聳えている。
 
 
約20年前初めて訪れた時には、まず意外感を覚えた。
 
 
町は一見人気観光地のイメージから程遠い。
 
 
高層ビルも歓楽街もなく、小ぢんまりした旅館や土産物店が立ち並ぶ。
 
 
緑の山や田に囲まれた街道を辻馬車が走り、夜には蛍がとんだ。
 
 
だが、その素朴さ、長閑さこそ、40年以上も町づくりに精魂を傾けてきた方たちの理想だった。
 
 
古くはダム計画や、ゴルフ場、大型リゾート建設、企業誘致などの開発の波が押し寄せたが、
 
「住みよい町こそ優れた観光地」の信念で、自然豊かな癒しの里は守られてきた。
 
 
年代もニーズもちがう客層に合わせて、高級ブランド旅館から質素で安価な宿まで、すみわけして共存した。
 
 
食材の地産地消。
 
 
75年から音楽祭や映画祭、牛喰い絶叫大会も始まった。
 
 
発展に伴う巨大化を避け、どこまでも静かな温泉保養地が存続したことに、第二の奇跡を感じる。
 
 
海抜500㍍の盆地には、朝霧と湯けむりがたちこめる。
 
 
神秘的な静寂の朝がこの先も保たれますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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